神戯大戦6
天族の代表シアンはイライラしていた。
3日前に人族が敗れた後、獣人族とエルフ族が協力して襲撃してきた時は楽しい戦いができると思っていた。だが、戦ってみれば圧勝。これならば種族の前代表と戦った時の方が面白かった。そう、シアンはバトルマニアなのだ。だがシアンは強すぎた。彼女が楽しめるほど戦える人物は同族にはもういない。
彼女はこの大戦が楽しみにしていた。なんなら全種族と戦うつもりで大戦に挑んでいた。しかし、戦ったのはクソ犬とエルフだけ。今残っているのが妖族、魔族、龍族というのは嬉しいがその3人との戦いを楽しみに放浪し続けて3日。流石にイライラが溜まるものだ。
「ふふ、いいことを思いつきました。何も自分から探すことはないじゃないですか。こちらに全員来てもらえばいいじゃないですか。ここら一帯を破壊できるほどの魔法を打ち上げたら、気づいてもらえるでしょうか?」
そんな考えの元シアンは魔法を打ち上げる。
その魔法は上空へと飛んで行き、凄まじい爆音を上げて、周囲を吹き飛ばす。
シアンはそれを何気なしに見て、他の3人がこちらへ来てくれるのを宙に浮きながら待ち続けた。
龍族の男は何者かが撃ち放った魔法を見て、ニヤリと笑うと悠然と魔法が放たれた場所に向かい始めた。
妖族の少女は打ち上げられた魔法を見てコロコロと笑った。
「妾を呼び出すとは面白いことをするものよのう。この大戦にも疲れておったし、その非礼に関しては許してやろう」
そんな事を呟いて、ゆっくりと歩き始めた。
魔族の少年は呆れていた。全くアホな事をする者もいたものだと。こんなわかりやすい事をして、罠としか考えられないじゃないか。ただ今残っている種族を考えるとあながち悪くない方法なのかもしれないんだけど。
これを放ったのは天族だろう。ということは龍族と妖族の行動だが、確実に向かう。彼らは自分が負けるなんて思っていない。自分の強さを知っているから罠も気にしないんだよな。
2人が向かっているなら仕方がない。僕も向かうとしようか。
少年はため息をつきながら魔法が放たれた方へと歩き始めた。
―――――――――――――――
一番に着いたのは龍族の男だった。
「おい、あれだけの魔法を放ったんだ。ここに呼び出したかったってことだろ。出てこいよ」
「あらあら、早かったですね。もっと遅いと思ったんですが。うふふ、龍族の方が真っ先に来てくれたのは嬉しいことですね。さあ、戦いましょうか」
龍族の男はその言葉を受けても、構えることなく自然体で相手の攻撃を待つ。そのことに天族の女性、シアンは顔を痙攣らせつつも、最初から全力で行くことにする。
両手に光の玉を発現させるとそれを投げ放つ。2つの
球体は龍族の男に直撃する。しかし、シアンもこの程度の攻撃で倒せるとは思っておらず、間髪置かずに球体を放ち続ける。最後にとどめたばかりに光のレーザーのような魔法を放つ。
魔法が着弾し続けた場所には巨大なクレーターができていた。爆発による煙が晴れてくると、平然とした顔で無傷の龍族の男が立っていた。
「ふふふ、やっぱりこの程度では死なないですよね。傷がつかないのは予想外でしたが楽しくなってきました」
そう言葉にしつつ、転移魔法により龍族の男に瞬時に近づくと、足を横に振り抜く。
龍族の男はそれを手でガードし反撃を繰り出す。
真っ直ぐに突き出された拳は凄まじい突風を生み出すが、シアンは瞬時に転移し、距離を取る。
「ほう、転移魔法か。失われた魔法のはずだがなぜ使えるんだ?」
「ふふふ、なぜでしょうかね。どうでもいいでしょう。ただ、私が使えるっていう事実それだけがあれば」
「なるほど、確かにそうだ。まああれだ。珍しいもん見せて貰った代わりに本気出してやるよ」
そう言って、剣を手に取る。
構えられた剣は太陽に照らされ、赤く光っていた。
「あら、怖いですわ。なら、私も武器を使うことにしましょう」
シアンは何もない空間から大きな鎌を取り出した。
それは正に天使の姿をした死神のような見た目であった。
シアンはその鎌を大きく振ると、鎌から放たれた漆黒の刃が龍族の男に迫る。男は剣を一閃し、その刃を霧散させる。
さらに、一閃後すぐにシアンへと肉薄し、剣を振り下ろす。シアンはそれを鎌で防ぐと、そこから両者譲らぬ剣と鎌の斬り合いが始まった。
鎌という大きい武器を軽々と扱うシアンだが、流石に男の剣の速度には敵わず、防戦気味になる。
しかし、あと一回斬りかかれば攻撃が当たると男が思うタイミングで、シアンは男の死角へと転移し、鎌を振り抜く。しかし、その攻撃は男の肌を少し切り裂く程度で剣によって防がれる。
「ほう、その鎌、俺の龍闘気を貫通するか。面白い、人族もなかなかの剣の技量だったがまた違うタイプの者と戦えるとは本当に今回の大戦は面白い」
「ふん、なかなかの減らず口じゃない。すぐにもっと手痛い傷を負わせてあげるわ」
両者は話しながらも斬り合いを続ける。
また、防戦になるシアンだがここぞというタイミングで転移し、反撃に移る。男は流石というべきか2度目から反撃に対して傷を負わなくなる。
数度そのような攻防が繰り返された後、ついに男の剣がシアンへと届く。
タイミングを見計い転移し、鎌を振り抜いたシアンだが、数度繰り返されたことで男にそれを逆手に取られてしまう。
あと一撃と思ったタイミングで、転移されるのをみて、方角を予想し、鎌を弾くと、そのまま剣を一閃しシアンの腕を斬り飛ばした。
血が飛び散り、シアンは距離を取りながら腕の切り口を抑える。簡単な治癒魔法を行い傷口を塞ぐ。
しかし、腕を復元させるにはそれ相応のマナを練る必要があり、その時間を龍族の男が与える訳がない。
取られた距離を一瞬にしてつめ、先程より凄まじい剣技を見せる。両手で扱っていた鎌を片手で扱うことによって、防御も間に合わず、体に無数の傷が出来ていく。辛うじて、急所を避けているがもう長くもたないだろう。だが、こんな状況でもシアンは笑っていた。この戦いを心底楽しむかのように笑っていた。
「さあ、もっと、もっと戦いましょう。こんな傷受けたのは久しぶりです。ああ、楽しい。ですが少し傷を受けすぎました。もう長くないでしょう。だから最後にとっておきをもってフィナーレを飾るとしましょう」
シアンが持っていた鎌が不気味な紫のオーラで包まれていく。そのオーラはシアンにまで達し、オーラが膨れ上がる。そして、オーラに包まれたシアンの体の無数の傷がさらに開き、一層オーラが膨れ上がる。
「この鎌、デスペインは力を解放すると持ち主の傷の量を糧に性能が増します。今のこの鎌で斬りつければ、流石のあなたでも軽傷では済まないでしょう。では、行きますよ」
距離が離れたところからシアンはデスペインを振り下ろす。それにより現れた刃は最初に見せた刃とは比べれぬほどの厚さと大きさとなっていた。
その刃が男に迫っていく。
男は剣を構え、一閃し刃の軌道を逸らす。
シアンはその一閃の間に転移で距離を詰め、デスペインを振り抜く。男は剣でそれを受け止めるが、その凄まじい勢いに押され、後ろに飛ばされる。
シアンは飛ばした先に転移し、デスペインを男に振り抜いていく。数度吹き飛ばされたあと、また振り抜かれた鎌に対し男は剣を振り下ろし、鎌を弾く。
さらに吹き飛ばされている体の勢いを使って体を捻り、追撃の一閃をガラ空きの体へと見舞う。
シアンの体を2つに分けるかと思われたその一閃は鎌の部分ではなく、柄の部分で防がれる。
柄で攻撃を防いだシアンはさらにそのまま、柄の部分で男を殴りつける。それを冷静に防ぎ、男は距離を取る。
シアンはそれを追いかけようとするが、体が先に限界を迎え、膝をついてしまう。
「おい、もうやめときな。美しいその体がボロボロだぞ。もう動けないんだ。大人しくやられてくれ」
「ふふ、こんな楽しい戦いを諦めで終わらせられる訳ないじゃないですか。ですがもう体も動きませんので、ここは最後の悪あがきといきましょう」
シアンはデスペインを杖代わりに立ち上がると、纏っていたオーラ全てを鎌へと集中させていく。
全部のオーラが鎌に集中したところで、シアンは鎌を振り下ろした。
刃というよりも砲撃の波とでもいうべき攻撃が、使用者であるシアンすら巻き込んで放たれる。
龍族の男は少し選択を誤ったかもしれないと考える。目の前に迫るそれは正に脅威だ。地面をえぐりながら迫ってくるそれを見ながら、剣を構え気合いを入れる。龍族の男が纏っていたオーラが数倍に膨れ上がる。
剣と波動となった刃が交わる。
凄まじい光と爆風が巻き起こり、刃は消滅した。
―――――――――――――
光の爆発が先ほど魔法が放たれた場所から巻き起こるのがみえる。
妖族の少女はそれを見て、よりゆっくりとしたペースで歩く。カラン、カランと少女が履いている下駄から音がなる。戦場に赴くとは思えない雰囲気を纏って歩き続ける。
魔族の少年はため息をつく。
個人的には自分以外の3人が先ほどの魔法のところに集まり一気に潰しあって欲しかったと少年は思う。
しかし、戦いが始まったにもかかわらず、感じられる気配は2つ。ということは自分が残りの1つの種族と戦わなければいけないということである。
全く面倒くさいものである。無駄な戦いはしたくないというのに。
戦いが始まったことに気づいた魔族の少年は近づいてくる気配に気づき、そちらへと向かった。
天族の女性と龍族の男の戦いが始まり少しが経った頃、2人の戦いからは巻き込まれない程度には離れたところで、妖族の少女と魔族の少年が邂逅していた。
その戦いは一瞬で決着がついた。
妖族の少女は魔族の少年を見た瞬間にその圧倒的オーラに驚愕し、9つの魔法を展開し、ドワーフ、鬼、巨人を倒した火球以上の大きさのものを少年へとぶつけた。
「いきなり大歓迎だね。まさか、こんなに魔法を展開されるとは思っていなかったよ」
迫ってくる火球を見ても、全く気にするそぶりすらせず、にこやかに少女に話しかける。
「妾に恐れを抱かせるとは何者なのだ、お主。そのようなオーラを纏っている者見たことがないのじゃ」
自分が放った魔法を物ともせず話しかけてくる少年に、より一層の恐怖を覚えつつも質問をする。
「うーん、その答えはただの魔族さ、ってもう聞こえてないか」
魔族の少年は迫った火球を見て、何かの魔法を行使する。すると、時が止まったようになり、魔法の範囲から逃れ、さらに少女に肉薄し、魔法を解除。
何が起きたか分かっていない少女の胴を手刀で一閃し、体が2つに分かれる。
それを見ながら少年は先程の質問に答えていた。
一瞬で終わった戦い。まだ戦っている気配のする方角を見て、ため息をついた後、歩き始めた。
「よかった」、「続きが読みたい」と思った方よろしければブックマーク、評価をして頂けると作者が喜びます。
よろしくお願いします。




