113
「リン、リッコ、シキ、フミミ、ルナ……これで5人、それにエリカとレオンを加えて7人になる」
指折り数える俺の腕が、ガッと掴まれた。
「おい、ちょ、待てよ!
なんで俺がお前のハーレムなんかに入らなきゃいけねぇんだよ!?
だいたいハーレムって女が入るもんだろ!?」
予想通りレオンだ。
男のほうは猛然と食ってかかってきたが、女のほう他人事のように毛先で遊んでいる。
「……ウチは別にいーよ。
バージンだってバラされちゃった今、トモとミキはウチのこと下に見てくるだろうし……。
つまんないヤツらとつるむくらいだったら、ハーレム同好会のほうがマシかもしんないしね」
「おいっ!? マジかよエリカ!?」
俺は、アメリカ人みたいにオーバーリアクションで驚くレオンに向かって言う。
コイツから一方的に罵られることはよくあったが、俺から話をするのは何年ぶりだろう。
「レオン、俺のハーレムには年齢だけでなく、性別も関係ねぇ。
男も女もウェルカムだ。エリカを追って、ハーレム同好会に入れ、シキもいるぞ」
ハルカに変身したシキの姿に、レオンが見とれていたのを俺は見逃してねぇぞ。
こんなイケメンをハーレムに入れるのは不安ではあるが、エリカを入れた以上、確執は避けられねぇ。
だから先手を打って取り込んでおこうって魂胆だ。
レオンはうっ、と唸ったあと、ちらりとシキを見た。
恥ずかしそうにフミミの後ろに隠れるシキ。
キッ、と俺の方を向き直ったイケメンは、
「……いいだろう。だが、エリカは渡さねぇぞ」
と、宣戦布告のような言葉を投げつけてきた。
それは、シキを見たあとに言う台詞じゃねぇだろ……でもまぁ、いいか。
「よし! リン、リッコ、シキ、フミミ、ルナナ、エリカ、レオン……これで7人だ!」
だいぶ時間がかかっちまったが、俺はあらためてラスボスと対峙する。
「そして最後の8人目は……バンビ、お前だ」
それまでピクリとも動かなかった我が妹は、幽霊のようにゆらりと顔を上げた。
「……ハァ? 何言ってんの?」
テレビの中から這い出てきたみたいな目で、ギロリと俺を睨んでいる。
軽い憎悪と重い蔑みが入り交じったようなその目は、エリカみたいなギャルの片鱗を感じさせて、ちょっとビビっちまった。
「お前は、ハーレムで俺たち家族がメチャクチャになって、お前ひとりになったって言ったよな……だが、俺のハーレムは、お前をひとりになんかしねぇよ」
「バッカじゃないの? 小学生をハーレムに入れるだなんて、変態のすることじゃない!
しかも兄妹なんだよ!? 何考えてんの!?」
「何考えてるのかって?
そうだな……ルナナとバンビ、お前らふたりだけじゃなく……ゆくゆくはオフクロも、オヤジも、俺のハーレムに入れてやることを考えてるんだよ!」
「えええっ!?」
明らかに理解が追いついていない声をあげるバンビ。
まるでプリンに醤油をかけたらウニになると聞かされたような、ありえない組み合わせを勧められたような表情をしている。
ハーレムに、両親……たしかに、考えられない組み合わせだよな。
でも、こんな顔の妹を見るのは初めてだ。
これは、揺さぶりが効いている証拠でもある。
「俺は……俺のハーレムは、家族をメチャクチャなんかにしねえ!
むしろ、離れ離れになった家族を元に戻してやる!
誰も不幸にしねぇ……それが俺の……俺の目指すハーレムだ!」
バンビの動揺は、さらに大きくなった。
ここぞとばかり、一気呵成にたたみかける。
「こいよ、バンビ……お前も、俺のハーレムに……!
俺がハーレム王になれば、きっとまたオヤジとオフクロは俺の前に姿を現す……!
そしたら、家族5人揃ってメシを食おうぜっ!!」
バッ、と両手を広げた俺は、生まれて何十年かぶりの、満面の笑顔を浮かべてみせた。
それが……どんな顔になっていたかはわからねぇ。
ビルの底からどよめきが起こるような笑顔だったとだけ、言っておこう。
バンビはぷっ、と吹き出した。笑いを堪えるようにしている。
いつもの表情に戻った。いつもの、シニカルな我が妹に……!
「はぁ……ほんと、バカだよね、三十郎って。
ハーレムに家族を入れるだなんて……そんなの聞いたことないよ……。
そんなアンタに振り回されてる私って、いったい何なんだろう……」
そして、晴れがましい顔で、俺を見た。
「ま……いいよ。どーせ振り回されるなら、トコトン付き合ってあげる」
俺は、思わずガッツポーズするところだった。
でも、それよりも先にアイツを手すりの内側にやるのが先だと思い、自制する。
「……そうか……じゃあ、行こうか、俺たちと一緒に部室を出よう」
「うん。……実をいうとね、ちょっと怖かったんだ」
素直に頷くバンビ。
屈んで勢いをつけたあと、手すりに片手をついて乗り越えようとする。
パルクールのように、ひらりと身体を浮きあがらせた瞬間、
……バキィーンッ!
支えにしていた手すりが、甲高い金属音ともに外れてしまった……!




