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「……すごいね、三十郎って、そんな洞察力あったっけ?」
俺の話を聞いていたバンビは、目を丸くしていた。
「でも、たしかにイイ線いってる。
『開部の儀』のルール上、人質は錠前により拘束されてなきゃいけないんだ。
ってことは、どこかに妖精を拘束する錠前の鍵を隠してなきゃいけないんだよね」
そこまでで、バンビの狙いが理解できた。
ルナナがニセモノの人質である以上、妖精を拘束する鍵を見つけられてしまったら、使い道のない鍵がひとつ余っちまうことになる。
見つからないようにと下手に隠すより、むしろ、ニセモノの人質を拘束しているダミーの鍵として利用することを考えたんだろう。
そうすれば、余った鍵の不自然さはなくなる。
「ダミーの鍵だらけにするとか、お姉ちゃんと妖精の錠前を同じ鍵で開くようにすることも考えたんだけど……。
でもそれってスマートじゃなくない? って気がして。
儀式で手に入る3つの鍵には、ちゃんと対になる錠前がひとつずつある……それこそがいいゲームの条件……。
たとえ三十郎が負けたとしても、納得してもらえると思って」
コイツ……ゲーム好きの俺の嗜好をよく知ってやがる。本当にお兄ちゃん思いの妹だな。
たしかにダミーの鍵だらけだったりしたら、クソゲーじゃねぇかって叫んでたところだった。
いまの仕掛けなら、残ったひとつの鍵に疑問を抱く余地があるから、綺麗に騙された気分になって……「やられたー!」って天を仰いでいただろう。
『ファイナルメンテナンス』で遊べねぇ心の片隅にあった鬱憤が、晴れたような気分だ。
「……そうだな、久々にゲームに夢中になれたよ……ありがとうな」
「どういたしまして」
微笑む俺に、微笑み返してくれるバンビ。
「それで……どうしたら、テュリスを返してくれるんだ?」
その一言で、兄妹のほほえましい時間は一瞬のうちに終わりを告げる。
バンビは再びラスボスの表情を取り戻していた。
「……このまま、部室から出ていって。そうしたら返してあげる」
「そうか、お前はハーレム同好会に反対なんだったな……なんで反対なんだ?」
俺は、根源的な疑問を投げかける。
コイツは首謀者になってまで、しかも屋上で我が身を危険に晒してまで、命がけでハーレム同好会を阻止しようとしている。
そうまでしてヤツを突き動かす理由は、いったい何なんだ……!?
「……ハーレムなんて、嫌い……!」
バンビは忌々しそうにつぶやいて、欄干を握る手に力を込めた。
手すりはヒビが入ったうえに力を加えられて、ミシミシとヤバそうな音をたてている。
「お、落ち着け、なにをそんなに嫌悪してるんだ?」
俺はなだめようとした。が、理由を聞いたのが気に入らなかったのか、バンビは一気に険しい顔になる。
「なんでって……そんなこともわからないの!? バカじゃないっ!?」
それまで冷静沈着だった我が妹が、弾けたように叫ぶ。
いや、今までは感情を抑え込んでいただけだ。それが一気に爆発したんだ。
その悲痛さは全ての者を黙らせる迫力があり、吹いていた風までもが沈黙した。
「ママがいなくなって、パパはニセモノになって……両親がいくなっちゃったんだよっ!?
それもこれも、ぜんぶハーレムのせい! ハーレムがぜんぶ悪いんだよっ!?
それなのに三十郎までハーレムにうつつをぬかして、同好会なんて言い出して……!
顧問になろうとしているお姉ちゃんなんて、何日も帰ってこなくなっちゃうし……!」
悲鳴のような絶叫が、静かな青空に響きわたる。
「私ひとりを残して、家族がハーレムに取り憑かれて……メチャクチャになっちゃったんだ!
ハーレムなんて嫌い! 嫌い嫌い嫌い! 大っ嫌いっ!」
ハーレムという名の注射を嫌がる子供のように、イヤイヤと顔を振り乱すバンビ。
母親譲りの、息を呑むほど美しい光の雫が……ぱらぱらとこぼれて足元に落ちた。
俺の胸がドクン、と高鳴る。
膨れ上がった心臓が、爆発するほどの苦しさを持って俺を駆り立てようとする。
しかし……人知れず歯を食いしばって堪える。
俺は深呼吸をひとつして、顔を伏せたままの妹に語りかけた。




