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038 鬼鎮(きちん)となったのは、この辺りが巨大な凶穴(きょうけつ)となったせいだ

 雲疎らな空の下に広がるのは、黄褐色の土に覆われた荒野の景色。

 表層部分の土は乾いて砂の様になり、時折吹き抜ける強い風に舞い上げられ、砂塵となって空の色を濁す。


 今でこそ荒れ放題であり、一見すると人が寄り付きそうに無い荒野なのだが、無人という訳でも無い。

 建物と瓦礫が半々といった具合の、殺風景を絵に描いた様な、廃墟の群があり、人知れず人間達が住み着いている。


 以前は荒野を旅する者達が、一晩の宿を求める宿場町として機能していた、小さな江湖であった。

 だが、数十年前に無人となり、滅んだ町……鬼鎮きちんとなってしまった。


 鬼鎮となったのは、この辺りが巨大な凶穴きょうけつとなったせいだ。

 凶穴とは、邪悪な妖魔だけでなく、様々な危険な存在を引き寄せる原因となる、盤気ばんきの流れが澱んだ場所の事である。


 蒼界がある巨大大陸……盤古は、それ自体が一つの巨大な生物であるかの様に、全体を「気」が流れ巡っている。

 この「気」は人間の持つ「気」と似て非なる存在であり、盤古をにおける経絡の如き経路を流れるが故に、盤気と呼ばれている。


 この盤気の流れが澱んでしまった場所は、大気や水までもが澱み、大地は荒れ果ててしまう上、邪悪な妖魔などの危険な存在を引き寄せてしまう。

 結果、まともな人間は住むどころか、近寄る事すら危険な場所と化してしまうのだ。


 故に、盤気が澱みし場所は、盤古における凶なる経穴という意味合いで、凶穴と呼ばれている。

 凶穴は多数存在し、付近に凶穴が発生したが故に、滅んだ江湖や国家の町の成れの果てである鬼鎮は、蒼界中に多数存在している。


 まともな人間は住むどころか、近寄れすらしない筈の、凶穴を原因とした鬼鎮に、人知れず住み着いた人々は、当然まともとは言えない。

 荒野の鬼鎮に住み着いた、まともではない人々は、鬼鎮の中央にある、他の建物よりも一際大きな建物に、集っていた。


 その建物は、石造りの部分が多くて丈夫ななのだろう、廃墟が多い鬼鎮の中であっても、利用出来る状態を維持出来ていた。

 破損だらけではあるが、派手で宗教的な装飾を施されている箇所が多い事から、神を祀る宗教的施設……いわゆるびょうであるのが分かる。


 屋根を持つ門である、牌楼はいろうに掲げられていた筈の、廟の名を示す看板は既に無いので、祀られていた神の名は分からない。

 だが、蒼界では珍しくない城隍廟じょうこうびょうであるのは、ありふれた廟の作りや装飾から明らかである。


 城隍廟とは、城隍神じょうこうしん……いわゆる土地神を祀る廟だ。

 江湖には大抵、城隍神を祀る城隍廟があり、信仰の対象となるだけでなく、大きな建物を持つ事から、会合などを開く寄り合いの場として、利用されている場合も多い。


 この鬼鎮の城隍廟も、多くの人々が集える広さを持つ、本堂がある。

 窓が少なく薄暗い、板張りの本堂の中には、百人を越える人々が集い、祭壇の方に向けて整然と並べられた椅子に、座っている。


 本堂の奥にある祭壇に祭られているのは、髪と瞳が青く塗られた、美しい少女の石像だ。

 祭壇の大きさと合わず、簡単に持ち運べそうな程に小さい事から、本来この祭壇に祭られていた城隍神ではなく、挿げ替えられた物であるのは明らか。


 祭壇の手前には木製の台が置かれ、一尺半程高くなっている箇所があり、他のよりも華美な装飾が施された二脚の椅子が、祭壇に背を向けて並べられている(一尺半は三十七センチ半)。

 中央に置かれた椅子には、眼光鋭い初老の男が、祭壇側から見て、やや右側に置かれた椅子には、妖艶な雰囲気を漂わせている、四十前後に見える女が、それぞれ座っている。


「殭屍眼の持ち主が、蒼浪の少女……風槐花である事に、間違いは無いのか?」


 肘掛に片肘をつき、右側に座っている女に目線を送りながら、初老の男は念を押す様に尋ねる。


「間違いありません。我等が宿敵……滅殭屍姫幇めっきょうしきほうも、風槐花が殭屍眼の持ち主だと特定した様で、蒼界各地に分散していた戦力を、蒼浪と仙水の間に集め始めたという報告が、各地に放った間諜かんちょうから、入り続けています」


 間諜からの報告がまとめられている、書類に目を通しつつ、女は話を続ける。


「無論、奴等は殭屍眼の持ち主である少女を、殺すつもりなのでしょう……我等同様に」


「奴等が殺すのは我等とは違って、太陽が出ている間なのだろうがな……」


 初老の男の苦々しげな呟きに頷くと、少しだけ腰を上げてから、女は座り直す。

 その際、白い長袍ちょうほうに包まれた、豊かな胸が揺れる。


 妖艶な女だけでなく、本堂にいる者達は全て、白い長袍を着ている。

 上下が一続きになっている、男女両用の蒼界の衣服である長袍を。


 他の者達よりも、台の上にいる二人が格上である事は、白い長袍を飾る刺繍で分かる。

 この場にいる者達の長袍には、銀糸で銀竜草ぎんりゅうそうの刺繍が施されているのだが、この二人の長袍に施されている刺繍は、他の者達の長袍に施されている刺繍に比べ、格段に手が込んでいるのだ。


 ちなみに銀竜草は、名に銀が含まれているが、葉や茎までもが白い植物であり、釣鐘に似た白い花をつける。

 蒼界では「死の花」として、銀竜草は扱われる場合がある。


 刺繍だけでなく、祭壇の前にある台という、言わば上座に相当する場所に、椅子を並べて座っている事からも、二人の立場が他の者達より上であるのは明らか。

 更に言えば、二人の口調と態度から、初老の男の方が女より、立場が上であるのも、容易に察せられる。



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