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034 それが正派のやる事か? 邪派に看板書き換えろよ!

「災厄を防ぐ為とはいえ、滅殭屍姫幇は罪の無い少女達を、殺し続けて来たって訳か」


 気分が悪そうに、沙門は言葉を吐き捨てる。


「それが正派のやる事か? 邪派に看板書き換えろよ!」


 厳しい言葉が堪えたのだろう、苦々しげに眉間に皺を寄せつつ、沙紗は言い返す。


「我々の活動が、褒められる様な活動では無い事は、分っている。しかし、蒼界の人々を守るという大儀の為なら……」


「この子を殺しても構わない……って言いたいんだろ」


 昨夜、札付きの殭屍の群に、槐花が襲われていた光景を思い浮かべつつ、沙門は続ける。


「成る程、札付きの殭屍の群を使って、槐花を殺そうとしたのは、滅殭屍姫幇だったのか」


「札付きの殭屍の群を使って? 何の事だ?」


 驚いた様に目を丸くし、沙紗は沙門に訊き返す。


「惚けるな! 昨夜、蒼岱そうたいで札付きの殭屍を使い、槐花を殺そうとしたの、お前らだろ?」


「違う! それは断じて、我々では無い!」


 沙紗は語気を強め、立ち上がりそうな勢いで否定する。

 無論、縛身点穴である四肢睡眠により、四肢の動きを封じられているので、立ち上がれはしないのだが。


「我々は決して、殭屍眼の持ち主を、夜に殺しはしないからさ!」


「夜に殺しはしない? 何故?」


「殭屍眼の持ち主が殭屍姫になるのは、夜に死んだ時のみ! 故に……その子を夜に殺してしまえば、その子は確実に殭屍姫になってしまう!」


 強い口調で、沙紗は言葉を続ける。


「殭屍姫の出現阻止を目的としている我々……滅殭屍姫幇が、その子を夜に殺そうとする訳が無いんだ!」


 沙門は沙紗を見下ろし、目線の動きなどを観察する。

 人が嘘を吐く時に有りがちな、目線の動きは確認出来ない。


(平気で嘘をつける程、器用な生き方が出来そうな人間じゃ無いな、こいつは……)


 沙紗の態度や口調、そして目線の動きなどから、沙門は沙紗の言葉には、嘘は無いと判断する。


「だったら昨夜……札付きの殭屍を使って、槐花を殺そうとしたのは、何者なんだ?」


 沙門は自問したのだが、自分への問いかけだと受け取り、沙紗は即答する。


「――おそらくは、我々の宿敵である黄泉招来こうせんしょうらい! 傀儡殭屍を悪用する、邪教だ!」


 武術とは違う方向で、常人を超えた力を得る為の技術が、蒼界には色々と存在する。

 人体を巡る様に大陸を巡る、「気」の流れを生かす、仙術せんじゅつ風水術ふうすいじゅつ、妖魔の如き妖しげな力をふるえる様になる妖術、その他様々な呪術などが。


 それらの様々な術や武術を悪用する者達が集う組織の中で、宗教結社的な性質が強い組織が、蒼界における「邪教」である。


「黄泉招来は、殭屍姫を現世に出現させ、殭屍姫の力によって人々を全て殭屍と化し、現世を動く屍……殭屍で埋め尽くして、黄泉同然の世界に変えようと目論んでいる」


 沙紗の語る、殭屍だらけの世界を想像し、気色悪い気分を味わいながら、沙門は呟く。


「そいつは、趣味が悪い連中だな」


「黄泉招来も我々同様、殭屍眼の持ち主を狙っている筈。殭屍眼の持ち主だと判明した風槐花を、夜に殺害して殭屍姫に変える為、黄泉招来は札付きの殭屍を差し向けたのだろう」


「成る程ね……」


 沙紗の意見に、沙門は説得力を感じた。

 殭屍眼の持ち主を殭屍姫に変えたい、傀儡殭屍を悪用する黄泉招来の方が、夜に札付きの殭屍を差し向け、槐花を襲わせた犯人として相応しいと、沙門にも思えたのだ。


「黄泉招来の術者が使う傀儡殭屍術は、並ではない。操れる傀儡殭屍の数も多く、戦闘力も高い」


 沙門は沙紗の言葉を聞いて、蒼岱で襲撃して来た術者が、一人で五体の殭屍を操っていたのを思い出す。


「そういえば、蒼岱で倒した五体の殭屍は、一人の術者に操られていたな。確かに普通の術者より、操れる数は多かった」


「滅殭屍姫幇の術者であれば、同時に五体なら少ない方だ、戦闘を得意とする術者ではないだろう」


「五体で少ない? だったら、多い奴なら何体くらい同時に操れるんだ?」


「実戦部隊の術者なら、数十から百を越える傀儡殭屍を、同時に操れて当たり前。中には千体を同時に操れる、凄腕の術者もいると言われている」


「一人で……千体!」


 驚きの余り、沙門は声を上擦らせる。


「操れる数だけじゃない、黄泉招来には強さにおいても、尋常ならざる者達がいる。竜銘を伴った竜銘主と、互角以上に戦える程に、強力な傀儡殭屍を操る術者が……何人もな!」


「竜銘を伴った竜銘主と、互角以上に戦える術者が、何人も……」


 愕然とした表情を浮かべる沙門に、沙紗は問いかける。


「――貴様は何故に、風槐花を保護しているのだ?」


「昨夜、殭屍の群に襲われていた槐花を、偶然にも見かけたんで……助けた」


 隠す様な事でも無いので、沙門は正直に答える。


「それで、話を聞いてみたら、女の子一人で仙水まで行くって、無茶を言い出したんでな、俺が連れて行ってやる事にしただけの話だ」


「風槐花の鏢客ひょうかくになった訳か」


 沙紗の言う鏢客とは、蒼界における用心棒的な職業の総称である。

 鏢客は江湖などに存在する、警備や護衛を請け負う組織……鏢局ひょうきょくに登録し、仕事の斡旋を受ける場合が多い。




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