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032 殭屍眼を持つ少女こそが、殭屍姫(きょうしき)となる才を持つ少女なんだ

「何で青い瞳……殭屍眼とかいうもんの持ち主っていうだけで、お前等……正派の人間に、狙われなくちゃならないんだよ?」


 強い口調で、沙門は言葉を続ける。


「青い瞳の人間なんて、西の民族なら珍しくも無いだろうに」


「――西の民族の青い瞳は、生まれつきのものだ。生まれつき青い瞳を持つなら、何の問題も無い。蒼界でも西の民族の血が混ざり、生まれつき青い瞳を持つ人間はいるからな」


 真剣な調子で、沙紗は話を続ける。


「問題なのは、生まれつき黒い瞳を持っていた少女の瞳の色が、十二歳の誕生日を迎えるのと同時に、青に変わる場合なのさ」


 槐花の方に、沙門は目をやる。

 沙紗の言葉を開いて、槐花の顔色が変わったのを、沙門は見逃さない。


「十二歳の誕生日に、青く変わった瞳こそが殭屍眼であり、殭屍眼を持つ少女こそが、殭屍姫きょうしきとなる才を持つ少女なんだ」


「殭屍姫? 何だそりゃ?」


 沙門にとっては、初めて耳にする言葉である。


「最後に殭屍姫が現れたのは、九十六年も前の事。蒼界の者ですら知らぬ者が多いのだから、扶桑人の子供が知らぬのは当然だな」


 沙紗は沙門が扶桑人であるのを、噂で聞いて知っていたので、沙門が殭屍姫について無知であるのを、即座に察した。

 殭屍姫を知らぬ沙門に、沙紗は殭屍姫について語り始める。

「――ほぼ十二年に一度の周期で、蒼界に姿を現す殭屍姫は、最も危険な妖魔の一つに数えられ、古来より恐れられ続けて来た」


「最もって……竜よりもか?」


「ある意味、竜より恐ろしい存在といえるな、殭屍姫は」


「蒼界最強の妖魔は、竜だと聞いていたんだが、それ以上のがいるとはな」


 驚きの表情を浮かべ、沙門は呟く。


「いや、恐ろしさの意味が、竜と殭屍姫とでは別物なんだ」


「恐ろしさの意味?」


 沙門の問いに、沙紗は頷く。


「竜は単体での戦闘能力という意味合いにおいて、蒼界において最強であり、恐れられている存在だ。恐るべき妖魔である殭屍姫とはいえ、戦闘能力では竜に遠く及ばない。人の姿をした竜銘となら、五分だと伝えられているのだが」


「だったら、竜程には恐ろしく無いんじゃないのか?」


「殭屍姫が恐れられている理由は、戦闘能力のせいでは無い。世界を黄泉こうせんの如き世界に変えようと望み、望みを実現する能力を持っているが故に、恐れられてきた」


「――黄泉っていえば、死後の世界か」


 綴りが同じである、扶桑界の日本における「黄泉よみ」と同じく、蒼界における「黄泉こうせん」も、死後の世界を意味する。


「竜は強者であっても、人が害を為さぬ限り、滅多な事では人を害しはしないが、殭屍姫は違う! 全ての人間を殺して殭屍へと変え、この世を黄泉同様に、死者の世界にしようとするのが、殭屍姫なんだ!」


 沙紗の話を聞いて、沙門は驚きの声を上げる。


「全ての人間を殺して殭屍に変える? そんなバカな事が、出来る訳がないだろ!」


「いいや、殭屍姫には出来る! 黄泉歌曲こうせんかきょくを歌う殭屍姫になら!」


「黄泉歌曲? 何だ、それ?」


「殭屍姫の歌う死後の世界の歌が、黄泉歌曲。黄泉歌曲には、どんなに古い死体であっても、ほんの小さな欠片……例えば髪の毛一本からでも、死体を完全に復元再生し、、殭屍に変化させる力がある」


「――普通の殭屍というよりは、傀儡殭屍くぐつきょうしっぽいな」


 沙門の言葉に、沙紗は頷く。

 通常、余りにも古い死体は殭屍にはならないし、身体の多くの部分が失われている死体も、殭屍には成り難い。


 だが、死体を殭屍に変えて操る呪術である、傀儡殭屍術が作り出す場合は、死体の古さは問わず、失われた身体も、ある程度なら再生するらしいと、沙門は聞いていた。

 もっとも、傀儡殭屍術による死体の再生は、失われた腕や脚を、復元再生する程度でしかないのだが。


「如何に古い死体であろうと、髪の毛一本しか残されていなくても、黄泉歌曲が届く範囲にある死体は、全て元の姿に復元再生し、完全体の殭屍になってしまうのさ」


「全ての死体を、殭屍に変える……」


 驚きの表情を浮かべながら、沙門は掠れ気味の声で呟く。


「しかも、殭屍姫が作り出した殭屍には、陽の光という弱点が無くなり、夜だけでは無く太陽が出ている昼間も、活動出来るんだ。無論、殭屍姫自身もな」


 沙紗は熱心に、殭屍姫の驚異を語り続ける。


「古来より、殭屍姫が現われる度に、蒼界は桁外れの数の殭屍が発生する災厄に、苦しめられ続けて来た。殭屍姫が作り出した殭屍は人を襲って殺し、その新しい死体を殭屍姫が殭屍に変えるのだから、桁外れの災厄を引き起こすのも当然だろう」


(動く死体の大量発生か、気持ち悪いな……)


 殭屍姫が殭屍を増やし続ける光景を想像し、沙門は気分が悪くなる。


蝗災こうさいを引き起こし、作物を食い尽くすこうの如く、発生させて従える殭屍の圧倒的な数こそが、殭屍姫の恐ろしさだ。殭屍姫を倒さぬ限り、倒しても倒しても、殭屍どもは甦り……増え続けるのだから」


 沙紗の言う蝗とは、いわゆるバッタの事。

 要は、竜の様に単体で圧倒的な強さを誇るのではなく、蝗災を引き起こす蝗の如き、圧倒的な数の殭屍の軍勢を発生させて従える事が、殭屍姫の強さ……恐ろしさなのである。




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