番外編短編・クリスマスのうどん
クリスマスといっても仕事だったし。しかも独身、彼女なし。友達はいるが、家庭持ちでなんとなく疎遠だった。
「ハァ……」
仕事帰り、バスに乗っているが、ため息しか出ない。某ブランド品のアパレル工場に勤めていた。もう十年以上勤めていたが、給料は雀の涙しか上がらず、典型的な不遇な氷河期世代だった三森聖次。かといって何かに文句は言えないし、結局は自分が悪かったのだろうと思ってはいたが、仕事のせいで腰が痛い。眠気もする。おかげで、うっかりバスを乗り過ごし、辺鄙な場所に来てしまった。
「は? ここはどこだ?」
土地勘にない場所だった。周りは山だらけ。山の谷間に家が見えるが、人気はない。クリスマスというのも嘘のように静か。もう夕方で薄暗い。余計に静寂さが身体を襲う。
運の悪いことにスマホのバッテリーも切れた。モバイルバッテリーも忘れた。余計に焦るが、目の前にコンビニがあった。チェーン店ではない。個人経営系らしい。ベンダーショップ・天国というコンビニらしいが、他に選択肢もなさそう。店の人に聞いてみるか。
「あれ?」
その予定は狂った。店には誰もいない。商品すら並んでいない。正確には昭和レトロな自販機はずらりと並んでいたが、他に客もなく、完全に無人だ。
「なんだ、この店は?」
昭和レトロな自販機、うどんやラーメンなどを提供しているらしい。自動販売機で食事ができる?
違和感もあるが、そういえば昔、どこかで見たような記憶もある。
昭和らしい派手なデザイン、悪くないじゃないか。今のようなスマートはなく、荒々しくも自由。ずらりと並んだ自販機は、当時の生命力がまだまだ現役みたいだ。丁寧にメンテナンスもされているようで、どの自販機も元気だ。特にうどんの自動販売機はステンドグラス調のパネルが目を引く。どんな出汁をきかせてくれるか。気になってきた。
クリスマスにうどん。そんな人、少数派かもしれない。チキンとピザとケーキが一般的だろうが、どうせもう、人生のレールも外れている。普通になれない人生だった。だったら、もうクリスマスも邪道でいこうじゃないか。
「は? 五百円玉使えないのか?」
そんなのも驚きだが、一瞬で完成したのも目が丸くなった。この自販機、手品か?
テーブルにつき、まずは一口啜るが、ちゃんと暖かい。麺もツルッとし、出汁も効いてる。プラスチックの安っぽい器に入っているくせに、このうどん、ちゃんと美味しい。そのギャップにやられた。
「あっち」
舌が熱でひりってしてきたが、それがいい。うどんを食べてる時の鼻水、ちょっと好きなのも邪道か。まあ、邪道でもいいか。普通の人生では得られない味もあるかもしれない。
気づくと完食していた。スープも全部飲み干し、鼻水が出てくる。
「ごちそうさま」
一人のクリスマスはかなり邪道だろう。でも、こんなうどんを楽しめたら、それでOKだと思う。
ご覧いただきありがとうございました。完結です。




