プロローグ
その奇妙な店は、田舎にあった。
一応関東と呼ばれてはいたが、都心には遠く、山に囲まれた場所だった。坂道も多く、過疎化も進み、地元民の高齢者がほとんど。子供は珍しい存在だ。近年では「限界集落」とし、メディアの取材が入ることも。
店名はベンダーショップ・天国という。店構えは個人経営のコンビニのように見える。実際、数年前までは老夫婦がコンビニと手作り弁当や惣菜の販売をしていたが、過疎化の煽りを受け閉店。その後、とある男が店を引き取り、改装後、リニューアルを果たした。
男は氷河期世代の全く不運な男だった。仕事も家族もなかったが、機械いじりだけは得意だった。そんな時、親戚の老夫婦がコンビニをたたむという話を聞き、どうにか存在できる道がないか考えた。売り上げは悪かったとはいえ、地元の老人の憩いの場所にはなっていたらしい。
さらに詳しく事情を聞くと、昭和レトロな自動販売機で食事やお弁当などの提供していたらしい。それだけは熱心なマニアや外国人観光客に受け、安定的な利益があり、手放すには惜しい。主に一九七〇年代から活躍していた自販機でうどん、そば、ラーメン、トーストサンドなどが食べられる。コンビニや電子レンジの普及で現代では廃れてしまっていたが、老夫婦は我が子のように大切にしてきたそう。
男はそんな昭和レトロな自動販売機を見たが、大切にメンテナンスされ、機械の仕掛けも面白い。確かにこのまま潰してしまうのはもったいない。元々機械いじりも好きだったこともあり、火がついてしまった。
男は老夫婦に頭を下げ、この店と自動販売機を引き継ぐことになった。改装も完了し、二十四時間営業の無人食堂とし、生まれ変わった。
時々、老夫婦に手伝ってはもらっていたが、基本的に男がワンオペで働く。食事の準備から自動販売機のメンテナンス、顧客対応など業務は多岐に渡り、給料は別に高くもないが、やりがいはある。店に置いてある「お客様ご意見ノート」に感想コメントやイラストを見るのが唯一の楽しみだ。
それに、この店の周辺には自殺スポットや心霊スポットもあり、時々、迷えるお客様が紛れ込んでくる。
「そうだな。店に駅やバス停までの地図をはっておくか」
男は店の準備をしながら、壁に地図を貼り付けた。地図だけでなく、もう一枚、ポスターも貼る。男に手書きの文字で「逃げろ! 食え! 寝ろ!」と書いてある。自殺スポット絡みのお客様にはどんな対応がいいか悩んだ男は、老夫婦にアドバイスを受け、こんなポスターを貼ることにした。
「まあ、こんなんで効果があるかは謎だけどね……。ま、今日はどんなお客様が来るかね?」
男はそう呟き、店も壁一面に並んだ自動販売機を見上げた。どれもが昭和レトロな自動販売機。デザインも自由で華やか。今の時代には決して得られないない何かはあるはずだ。
「今日もよろしくな」
男は自動販売機に声をかけた。




