第一話 違和感の胎動
前世の俺の人生は、一言で言えば「不条理の塊」だった。
いわゆる就職氷河期世代。どれだけ努力しても社会のシステムに拒絶され、非正規の職を転々とした挙句、実家の部屋に引きこもるようになった。昼夜逆転の生活の中で、ゲームや漫画を貪る日々。
だが、時間だけはいくらでもあった。俺はネットの海に潜り、国内外のニュースや世界情勢、法律や歴史の資料をひたすら読み漁るのが日課になっていた。知れば知るほど、この世界の矛盾や歪みが浮き彫りになる。なぜこれほどおかしなルールが当たり前として通っているのか。そんなことばかりを気にする、偏屈な中年男。それが前世の俺だった。
あの日も、夜中にパソコンの画面を見つめながらポテトチップスを口に放り込み、コーラで流し込んだ瞬間、胸を掴まれるような激痛が走った。
心筋梗塞だった。四十八歳。――死に際になって思い出した。そういえば、今年は厄年だった。さすがは厄年、人生の幕引きまでどこまでも不条理だ。何一つ報われない自堕落な人生は、あっけなく幕を閉じた――はずだった。
「……あれ?」
目が覚めると、見覚えのない部屋のベッドの上にいた。
起き上がって自分の手を見る。白くて、細くて、若い。慌てて姿見の鏡に駆け込むと、そこに映っていたのは、すっきりと痩せた健康的な男子高校生――佐藤の姿だった。
息を切らしても胸は痛まない。体が軽い。溢れるほどの体力が全身に満ちている。
「これって……まさか、巷で流行りの異世界転生ってやつか!?」
俺は心の中で狂喜乱舞した。神様がくれた二度目のチャンスだ。長年、社会の底辺で耐え忍んできた俺に、ようやく巡ってきた幸運。今度こそ、この若くて健康な体で、最高に充実した青春を送ってやる。
ファンタジーな世界じゃないのは少し残念だけど、普通の現代社会なら、それまでの人生で培ってきた世界情勢の知識やネットの経験がそのまま活かせるはずだ。
浮かれた気分のまま制服に着替え、朝食をとろうと居間へ向かった。 食卓には、どこにでもあるサラリーマン家庭の親父とお袋の姿。すべてが平和で、すべてが普通だ。お袋が淹れてくれた味噌汁の匂いを嗅ぎながら、何気なく点いているテレビの朝のニュースに目をやった。
『――続いて、オキュパイドジャパン政府の発表です。今期の実質GDPは……』
アナウンサーは、いつものNHKのような落ち着いたトーンで、平然とそう口にした。画面の下部にあるテロップにも、はっきりとその文字が踊っている。
「……え?」
箸を持ったまま、俺の思考がフリーズした。
オキュパイド・ジャパン。直訳すれば「占領下の日本」。
何だその名前は。ここは日本じゃないのか?
「なぁ、母さん。今、テレビでなんて言った? オキュパイドジャパンって何だよ。日本だろ、ここは」
お袋は味噌汁を注ぎながら、きょとんとした顔で振り返った。
「何言ってるのよ、寝ぼけてるの? この国の名前でしょ。早く食べないと遅刻するわよ」
親父に視線を送っても、新聞から目を離さないまま
「お前、義務教育やり直してこい」
と鼻で笑われるだけだった。冗談を言っている風では全くない。
嫌な汗が背中を伝う。
この国では誰も時計の針が逆行する音を聞いていない。少なくとも表面上は。
*
「はいはい皆さん注目〜」
担任の山崎先生が出席簿を閉じながら教壇を叩いた。
学校の教室の空気も、前世の俺が知っている「日本の高校」と何一つ変わらない。窓の外を見れば、離陸していく旅客機の尾翼に「JAL」のロゴが鮮やかに浮かび上がっている。何もかもが普通だ。国名を除いては。
休み時間、俺はすがるような思いで隣の席の親友に、自分のワイヤレスイヤホンの底面を突きつけてみた。そこには極小の文字で、確かに『Made in Occupied Japan』とレーザー刻印されている。
「なぁ、これ見てみ。変じゃないか? なんでこんな不気味な言葉が書いてあるんだよ」
「だから、それがこの国の正式名称じゃん。ひのもと、とか、にっぽん、とか、そういう古いアニメの国名とごっちゃになってんぞ、お前」
話にならない。俺は次に、教壇に戻ってきた世界史の教員に恐る恐る尋ねてみた。
「あの、先生。なぜ我々の国名には『占領された(オキュパイド)』なんて言葉がついているんですか?」
すると、前列に座っていたクラス委員長の御剣怜が、すっと背筋を伸ばしたまま冷淡な声で割り込んできた。白いブラウスに紺のベスト。常に学年トップを維持する、冷徹な優等生だ。
「それは単なる歴史的事実です、佐藤くん。第二次世界大戦で敗戦したことに由来する、我が国の正式名称ですよね。それ以上でも以下でもありません。何を今さら疑問に思っているの?」
担任の先生も満足げに頷く。
「その通り! オキュパイドジャパンという名称には長い歴史があって、国際社会も承認している。佐藤くん、変な冗談はよして早く席につきなさい」
後ろの席から、クラスメイトたちのクスクスという笑い声が漏れた。
「当たり前じゃん」
「佐藤って実はナショナリスト?」
「電波系かよ」
狂っている。
世界が変わったのではない。自分以外の全員の「常識」が、最初から歪んで書き換えられているのだ。せっかく手に入れた最高の第二の人生のスタート地点で、俺は得体の知れない恐怖に突き落とされていた。
誰もそこに疑問を持たない。誰も時計の逆行に気づかない。 だったら、やるべきことは一つしかない。
俺は自分の手帳を開いた。そこには、授業中に密かに書き留めていたスレッドのタイトル案が綴られている。
『オキュパイドジャパンの事実陳列』
感情ではなく、事実だけを並べる。そうすればきっと誰かが気づくはずだ――この世界が根本的に「異常」だということに。
その日の夜、僕は自室の明かりを消し、スマホの画面の光だけを浴びながら、匿名掲示板にそのスレッドを投稿した。
(第一話 終)
【作者より】初投稿です。アイデアを思い付いたのでAIの力を借りて文章化したものを投稿していきます。生暖かい眼で見てもらえるとありがたいです。昔なら思いついても絶対に書かなかっただろうなぁ。AIすごい。なんなら挿絵もAIで描けちゃう。無理のないペースで投稿していきますね。読んでくれてありがとうございます。(※もしよろしければ、ページ下部からブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!)




