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CASE1

思い付きで書いているので矛盾等ご容赦ください。

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません


CASE1 加護持ち人と獣人

    ・リナ・リスター      ・サイモン・カーティス

    ・髪:チャコールグレー   ・髪:シルバー

    ・瞳:金          ・瞳:ネイビー


結婚……それはささやかな私の夢だった。

父と母がいて、妹がいて、裕福とは言えないけど日々の生活に困ることはなく、少ないけれど仲のいい友人がいて使用人との関係も良好。

毎日それなりに嫌なことと良いことがあって私の身体に不調はない。

本当に普通の幸せを嚙みしめている日々に何も文句はないのだ。

……だから私は、そのささやかな夢が叶わなくても構わない。


「お父様、お母様」

「どうしたんだいリナ」

「私結婚を諦めたので養子を貰うことにしました」

「そうかい、養子を……え?」

「何を言っているのリナ、貴女はまだそんなこと考える歳では」

「……流石に私も現実を見てますわ、こんな私の相手などハズレくじも同然だということぐらい」


困ったように肩をすくめたリナはさらりとドレスの裾を翻す。

ふっくらとしたものが視界に入り落ち着いたドレスがそれをまた隠した。


そう、リナの体型は標準の女性よりもずっと大きいのだ。

しかもそれが加護によるものなのだからどうしようもない。


この世界の人間には生まれたときに四柱の神いずれかから加護が与えられる。

豊穣の女神、勝利の男神、幸福の女神、平和の男神。

どの神からの加護もささやかなもので、例えば幸福の女神の加護を持つ者は運が良かったり、平和の男神の加護を持つ者は身の回りの争いごとに巻き込まれにくくなる。

毎回加護が働くわけでもないし、この国の人々も意識して生活しているわけでもない。いいことがあれば加護に恵まれたと感謝する程度だ。


けれども極稀に神に愛され強い加護を授かる者が現れる。

その者たちの加護は他の人と違い居るだけで効果が現れたり、時には状況を一からひっくり返すほどの一手を示すことができるのだ。


リナはその極稀の加護の力が強い者だった。

豊穣の女神、リナが生まれてからはこの領地で不作の年はない。


ただし、その強い加護には代償が付いている。

大きすぎる加護が受け入れられないのか、人の体の一部が変形してしまうのだ。

耳が獣のようになってしまう者、頭に角が生えた者、目は見えるのに目から羽が生えている者……リナの場合、一般的な女性より身長も体重も一回り大きい身体というのが代償であった。


小さい頃には心無い言葉や不躾な視線が投げかけられた。

いくら強い加護を持っているとはいえ、人ならざる見た目を人は恐れる。

家によっては、加護を授かった者を隠し虐げ利益だけ搾取するようなところもあるという。

そんな中で家族や周りの友人、使用人に恵まれたリナは腐ることなく素直に育った。


そんなリナも結婚適齢期を迎えると徐々に心の傷が増えていった。

友人たちの結婚、妹の婚約、相手に会うことすらままならない自身の縁談。

友人の結婚も妹の婚約も心から喜んだし祝福を贈った。

会わせてもらった友人の結婚相手もリナを見て眉を顰めるような心無い人でもなかった。

……だから余計に思ってしまう。

そういう人が世の中にはたくさんいるのにどうして自分にはそんな相手がいないのだろうと。


そうして小さな傷が増えていったリナは冒頭の発言を両親へと投げかけた。

リナが長子で加護がある以上、この家を守らなければならない。

ならばともに並ぶパートナーが居なくても跡継ぎさえいればいいのだ。


「リナ……そんなこと言わないで、貴女は十分可愛らしいのよ」

「そうだとも、お前の魅力が分からない奴などほおっておけ」


母が近づき優しく抱きしめ、父も優しい眼差しでリナを見ていた。

本当に自分は恵まれている。

だからこそ、私も決断しなければ。


「……では一年……一年間だけ頑張ってみます。それでも相手が見つからないときは、どうか私のお願いを聞いてください」


母を抱きしめ返し父を見つめる。

一度視線を外した父が大きく溜息を吐いて分かったと呟いた。


………


「ねぇ先輩、本当にここですか?こんな何もなさそうな田舎の領地に?」

「ええ、間違いありません」

「へぇ……それって感覚的に分かるもんなんですか?俺まだ理解できなくて」

「そうですね……貴方に運よく番が見つかれば分かるでしょうね」

「それって答えになってます?どんな感じかって聞いてんですけど」

「……」

「うわ、そんなめんどくさそうな顔しないでくださいよ」

「してませんよ、表現に困っていただけです……そうですね……自分の好物から漂う匂いを感じ取った、という説明で伝わりますか?」

「……どこかで焼いてる肉の煙の匂いに反応した、みたいなもんですか」

「そうですね、近づけば濃く、離れれば薄まる……あとは……勘です」

「へぇ~……んじゃ、行きますか先輩の番を迎えに」

「えぇ、行きましょう」


先輩と呼ばれた男はネクタイを締め直し帽子を正して眼鏡に指を添えた。

それを見て隣に並んだ男が屈伸して笑う。


「気合入ってますね」

「それはそうでしょう、生涯の伴侶に会えるのですから」

「でも相手、多分ヒトですよね?獣人なら向こうから会いに来てもいいくらいの範囲ですし」

「恐らくは」

「それだと先輩のこと番って分からないんじゃ?」

「……そうですね、しかしそんなことは些細なことです」

「おぉ」

「ほら、行きますよ」

「はーい」


軍服のマントを翻して先を行く先輩を追いかけるように男は軽く答えて立ち上がった。


………


「お姉さま!!次はこの方とかいかがですか!?」

「……また来たのレナ?」


温室で育てている野菜に水をあげていると妹であるレナが手にたくさんの釣書を抱えて走ってくる。


どこから嗅ぎ付けたのか私の養子発言を知ったらしく次の日から自分の周りの独身男性を紹介しまくっているのだ。


困ったように笑って水が入った如雨露を置くとレナが釣書ごと抱きついてきて顔を埋めた。釣書の固さが少し痛い。


「だって!!だって!だって!!!お姉さまが結婚に憧れていたのも、未来を夢見ていたことも知っているもの!!私は加護も普通だからお姉さまの変わりにはなれないし!!まだ年齢だって若いのに……っ……諦めたようなこと、言うから……」


ぎゅうっと回されている手に力が入る。

見目のよくない私にも懐いてくれて、私の問題を自分のことのように扱ってくれる可愛くて大切な私の妹。

自分の婚約のこともギリギリまで伸ばし先に私の縁を結ぼうとしてくれた優しい子。


つむじしか見えないその頭を撫でればゆっくりと顔が上がる。

涙でぐしゃぐしゃの瞳と目が合い思わず笑ってしまった。


「ふふっ、可愛い顔が台無しね」

「いいもん」

「良くないわ、今日はヴァルター様も来ているでしょう?」

「別にヴァルに見られてもいいもん……」

「レナ!」


温室に慌てたような声が響く。レナの婚約者のヴァルターが走って来るのが見えた。

二つ隣の領地を納める伯爵家の長子であるヴァルターはレナとは政略結婚だ。けれども婚約するまでの期間にお互いの想いは通じ合い仲睦まじくしている。

私にも偏見の目を向けず、誠実に向き合ってくれた稀有な人だ。


「お久しぶりです、義姉さま……お変わり無いですか?」

「えぇ、ヴァルター様も元気そうで何よりです……妹が申し訳ありませんね」

「いえ、こちらこそレナがすみません……」


レナは婚約者になった後からヴァルターの家に拠点を移している。本来は頻繁に帰ってこれる筈もないのだが、その当たりはヴァルターが手を回しているようだ。


ヴァルターもレナづてに私の事情を知っている。その証拠に釣書の四分の一はヴァルターの人脈だ。


私からレナを剥がすとそういえば、と私に視線を移した。


「最近領地で何か事件でもありましたか?」

「えっ?いえ、私の知る限りでは無いと思いますが……」

「ならいいんですが……先ほどここに来るまでに都の軍服を来た二人組がいまして、もしや何かあったのでは、と」

「都の……?」


この国の中心はここから馬車で一週間はかかるため大きな事件や行事でもない限り都の軍隊は動かない。彼らは所謂エリートである。完璧な実力主義でどれだけ身分が高かろうがそこでは何の意味を持たないと言う。

ちなみに一定の距離に駐屯地があり、地方の貴族たちは自分の領地にも近いこちらに所属することが多い。そして何かあったときに動くのはこの駐屯地にいる軍人だ。


だからこそ都の軍人がいると目立つ。


「そうね、お父様に聞いてみるわ……レナ、落ち着いたらヴァルター様と一緒に応接室に来なさいね」

「……はぁい……」


さりげなく立ち去ろうとしたらしっかりと釣書を押し付けられ仕方がなく受けとる。ヴァルターにも声をかけ踵を返したとき、温室の入口が騒がしいことに気づいた。


「……みつけた」

「?」


ふわりと風が吹いたかと思えば目の前には銀色に艶めく髪が揺れ安堵したような表情を浮かべた美しい人がいた。


あまりにも急に現れた人に対し驚きバランスを崩して後ろに体重がかかる。転ぶ、と思い目をつぶった時にピタリと身体の浮遊が止まった。恐る恐る目を開ければ先程の美男子が私の手を引き腰に手を当て支えている。


「え」

「申し訳ありません、急なことでしたのでお身体に触れてしまいました」


申し訳なさそうに眉尻を下げ、眼鏡越しの蒼い瞳には心配の色がありありと見えるその表情に私は思考を停止した。


お礼の言葉も言えないほど動揺している私を起こし、驚いた反動で手離し落ちていった釣書を拾おうと手を伸ばしたところで彼は動きを止めた。


「……釣書?」

「お姉さま!!」

「義姉さま!」

「ちょっと先輩!」


前後から同時に言葉が発せられようやく私も正気へと戻る。

レナとヴァルターは私を守るように前へと出て、走ってくる軍人は私の近くにいた軍人の腕を引き距離をとった。


改めて目の前にいる二人を見る。黒と白でデザインされた軍服は都の軍隊の証。先程のヴァルターが言っていたのはこの二人のことだろう。


一人は先程助けてもらった長い銀髪を一括りにしている男、もう一人は先程のこの男を先輩と呼んだ赤褐色の短髪の男。


「……助けていただきありがとうございました。都の軍隊の方とお見受けしますが、こちらにはどのような用事で?」

「あー……っと、えーっとですね……先輩?」

「父も……リスター伯爵も承知のことですか?」

「そのーこれから会う予定で……ねぇ、先輩!」


しどろもどろに受け答えする短髪の男に何故か微動だにしなくなった長髪の男。

怪しさしかないこの状況にどうしたものかと視線を外すと長髪の男がふらりとこちらに踏み出した。


警戒したヴァルターの肩に手を置いて首を振る。下手に動くとこちらの身が危険だ。なんせ相手はこの国トップの軍隊に所属している軍人。私たちなど片手でどうにでも出来るだろう。


彼は私たちの前に来るとおもむろに跪き私の手をとった。あまりにも予想できない行動にレナもヴァルターも私も動けずにいる。


「……か」

「……はい?」

「私では、貴女の伴侶に相応しくありませんか……!?」

「「「「え」」」」


目尻に涙を浮かべながらそう言った男に対し、それぞれ異なる意味を含んだ四人の叫びが温室にこだました。


お読みいただきありがとうございました。

ストックがあるうちは更新していきます。

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