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終幕

狩南のリベンジアーツでトマルを沈めると、つらつらと言葉を溢す。


『元は旅館を裏で荒らしてた客を懲らしめてただけだった。だが、そいつの関係者が復讐者を志すようになったのだ』


懲らしめてたの程度が気になるが、復讐者を目指すくらいだし、元から擁護する気にはなれないな……。


「身から出た乳酸か……」

「どういうことなの」


言葉のニュアンスでしか汲み取れない改変をするなよ。ただ、割と共感はしてるのか? あれか、筋次郎も弟だし思うところでもある……かなあ。


『そして復讐者を増やすために、たまに宿泊客を手に掛けるようになった』


やはり、同情の余地がなくて助かるような。


「仇果衆は、復讐者の数を増やすことをモットーにしてるけど、一般人を巻き込むことは復讐者としてタブーだからね……」

「兄――オオナはこのことを知っているのか?」

『あいつに知られる程度ならば、旅館自体が表社会で報道されているだろう』

「遺言があるなら伝えておくが」

『いい。あの年で復讐者にでもなられては困る』


ホログラムの輪郭がぼやけていき、トマルの姿は見えなくなった。クライマックスが終了したのだ。


「えーと。戦闘は終わり、仇果衆の刺客も対象の討伐を確認すると姿を消しました。チェックアウトの際には、トマルを探すオオナに出会います」


タブレットに再び映る無機質な文字に従って、シナリオを続ける。ここまで来ると後日談のようなものだ。特にRPでふざけるつもりはないが、余程のことがない限り自由にやって問題ない。


「朝から忙しそう……いや、何か探し物でも?」

「モノですか。まあ、宿泊してる弟が見当たらないんですよ」

「たまに泊まってるっていう」


果たしてオオナは善人なのか、悪人なのか。解釈次第だけど。


「知ってますよ」

「私が知らない何かをしていたことだけ」


「目を向けないでいいならと、時間が解決するのを待ってたら、先に時間が過ぎてしまったような気分です」

「いくつ歳を取っても、後で悔いるのが後悔なのには変わらないしな……」


惰性で続く前に切り上げてしまおうか? いや、確認はしてみよう。後悔しないようにね!


「筋次郎として、他に何かあります?」

「いや……」


狩南は周囲を見回す。RTRPGの範囲内は外から中の様子は見えない。ただ、中からはまばらに他のお客さん達がサロンを利用しているのが確認出来る。


「この空間は報酬を受け取ったら開放されるのか?」

「そうだね。クライマックス終了以降は、タブレットの方から報酬の受け取りと解散を」

「急にマニュアルスタッフ……まあいい、それじゃ狩南として話すことがある」


一応人目と言うか、知らない人に聞かれるのは嫌な話なのか。視覚情報はともかく、音は双方ともにシャットアウトされているので、隠し事にも適していたり。


「俺は友人の駒を壊したことがあってな」


何気ない告白だが、思ったよりとんでもない……! 表情に動揺が出てないか内心ドキドキだよ。

だけど、物理的に破壊する方法はないはず。ということは、狩南が拒否感を示していたPvPのシナリオが原因なのだろうか。


「RTRPGが出現した当時、友人と早速始めてみたのだが、始まったのはPvPのシナリオだった」

「でも、それは仕方ないことじゃないです?」

「いや。その直後に友人は体調を崩してしまってな」


駒の破損は当人の身体や精神に影響を及ぼすものではない。これは今や広く受け入れられている言説だが、当時は陰謀論や憶測が飛び交っていたし、一度思い込んだ人を変えるのも難しい。


「ここを予約したのも、先週には退院する予定だったからだ」

「退院予定、ですか」

「今は退院時期は未定」

「それでも予約はキャンセルしなかったんですね」

「その友人から楽しんでこいと言われてな」


愚直というか素直というか……。まあ、嫌いじゃないけどね。


「強く言えないけど。その言葉は、自分のことは気にしないでいいよ、って意味なんじゃないかと思うけど……」

「俺が勘違いするはずないだろ。今日にでも確認してやるか」


普通に心配になってるじゃん。と思ってたら、狩南は自身のPCタブレットに駒をのせる。


「報酬はなんだろうな……」

「結構楽しみにしてるのね」

「当たり前だろ、貰える手応えは貰う」


俺も報酬を受け取ろう。最初に貰えるのはRTRPGのKPとしての経験値。今回は戦闘技能と、リアルタイム制限に関するポイントがある。


「戦闘技能はともかく、リアルタイム制限とは」


戦闘技能の方は前に貰ったことがある。これでマスクデータを一部解除したんだよね。結構役に立ったし、今回も縦に伸ばしちゃおうかな。


「制限時間というと、今回の仇果衆との問答とかだな」

「時間プラス10%とかあるけど、今回は一分だから六秒延長?」


まあ、こういうのは積み重ねが大事だからね! なんなら、一番大事な報酬はまだ貰ってないという。


「RTRPGの領域が透過していく……」

「経験値を受け取ったらシナリオは完了だからね」


青い箱状の輪郭が徐々に薄くなっていき、他のテーブルで賑わうお客さんの一喜一憂も聞こえ始めた。


「タブレットが変色してないか? というか、駒はともかく残ったままなのか、これ」


狩南は紫色に輝くタブレットを前に、不思議そうな表情を浮かべている。


「タブレットが実世界の報酬になるからね。まあ、換金しても良いし、取っておいて家に飾っても良いと思うよ」

「え、報酬ってコイツのことだったのか!?」

「そこの下調べは甘いのね……」


初対面では突然のKPだったり、中々狩南のことが見えてこなくて不安しかなかったが、無事にクリアまで到達。

サロンを後にする狩南は、相変わらず澄ました顔をしているが、足取りはいくらか軽そうに見えた。






「もしもし。行ってきたぞ、RTRPGのサロン」

「え、一人で?」

「楽しんでこいって言ってただろ」


「心意気の話であって……お前が一人で他人と楽しめるわけないしな」

「いや? そこそこ楽しんだが? ただ、出来ればお前とも楽しみたかった。いや、こんな事言うべきではないか」


「イヤイヤ期か? まあ、入院先の機器も直ったし、来週には退院するわ」

「え、治らないとか未定とか言ってただろ」

「マジ? 勘違いさせてたか、コレ。直んねえって言ってたのは機械の話だぜ?」


「――ふざけんなよ。じゃあ、今度またRTRPGでもやってやるか。先輩に任せな……いや、ソロシナリオを持っていくから、RTRPGはその次だ」

「やりたいことが渋滞してんな」

「RTRPGは三人でやろう。紹介したい人がいるんだ」

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