第七話 物資調達
ゾンビッ!ゾンビッ!
ジョンは駐屯地へ向け歩いていた、そんな中、少女が会話の中で出していた言葉が気がかりで居た。
少女は自分の事を「お兄ちゃん」と呼んでいた、ジョンは既に実年齢が30を超えた中年である。
それに踏まえドイズ国に居たときの自分はストレスにより顔の老化が早く、20代なのに30代後半に見られるほど老けていた記憶がある。
話している時は少女が気を使いお兄ちゃんと言っているのだろうと気にしていなかった、だが改めて考えるとおかしいことである。
10歳程の少女ならお父さんと同じくらいの年齢である、おじちゃんと呼ばれるのは嫌だがお兄ちゃんは今思うとむず痒い。
そんな事を考えながら歩いていると、ふとショーウィンドウに映る自分の顔が目に入る。
顔のことを考えていたから尚更確認したくなるのは仕方のないことだろう、ショーウィンドウに近づき改めて自分の顔を確認すると、そこには20代前半の時のようなハリのある顔をしていた。
ストレスによるシワは無く、白くなり短くされた髪は元の黒い髪へと戻っている。
「意味がわからん」
ジョンの素直な感想である。
しかし、老けるのならまだしも若返るのなら願ったり叶ったりである、ジョンは自分の体に起こった異変は考えてもキリがないと、もう気にしないことにした。
自衛隊の駐屯地へ向かう最中、何度か犬が襲いかかってくるが、返り討ちにしつつ駐屯地までは無事に辿り着くことが出来た。
駐屯地には相変わらず人は居ない、中のものは他の人が漁ったのか散乱していた。
その中から物を掻き分け弾丸や銃を探す、物資は少しは残っていた、ジョンが持つリボルバーの類は一般人には使いこなせない事もあってか弾丸は多く残っていた。
物の中に埋もれていたバックパックを取ると、物資の中に入るだけ詰めていく。
詰めている最中、何やら物が倒れる音が静かな駐屯地に響いた。
ジョンは他にも人が居るのだろうかと音がした方へと歩いていく。
音がした場所はそこまで遠くは無く、顔だけ出し物音がした場所を確認すると、人を発見する。
ジョンは声を出し呼びかけるが、その人は反応しない、それどころか何やら挙動がおかしかった。
壁に頭を打ち付けたり、脚がおぼつかないのか物に躓いては倒れる、そして倒れた時に聞こえる肉が崩れるような生々しい音を鳴らす。
不審に思い、先程弾を詰めたリボルバーを右手に持ち近づいていく。
近づいていくと、その人は厳密には人ではなかった、皮膚は焼けただれ、肉は脆く崩れ落ち、目は片方無い。
映画で見たことのあるゾンビがそこには居た、ジョンはその姿に嫌悪感を感じる、右手のリボルバーを向けるとゾンビは襲ってこず物を漁り続ける。
「何をしているんだ?」
よく見ると、ゾンビの服は自衛隊が身につけている服と類似していた。
そこでジョンは気づく、ゾンビは元人間の自衛隊である事に。
気づいたときにはジョンの頭は真っ白になっていた、動物が変異しているなら同じ動物である人間も同様の出来事が起こる事は考えていた。
だがそれが知性も無くただ歩くだけのゾンビになるとは思ってはいなかった。
ジョンは彼を見ることが出来なかった、だが目を背けることは許されないと思い、再び彼を見る。
呻くような声を出し続ける、既に人間では無くなった彼をどうするべきかジョンは考える。
「すまなかった、せめて楽になってくれ……」
ジョンは右手に持ったリボルバーを彼の頭に照準を合わせ引き金を引いた。
彼の頭は無残に飛び散り、絶命した、その姿を見たと同時にジョンは酷い吐き気に襲われ、吐瀉物を撒き散らす。
今まで人を殺しても吐くこと等無かった、だがジョンは彼らを全て背負っていく覚悟をするのであった。
駐屯地内部には無数のゾンビが彷徨っていた、全てが無害ではない、時にはジョンに襲ってくるものさえいた。
その全てをジョンは一発で沈めていく、痛みなど既に無くなっているだろうが、一瞬で楽に出来るよう惜しみなく弾を消費していく。
駐屯地にいる全てのゾンビを倒し終えた時には既に日は沈みかけていた。
日帰りで帰る予定だったせいか食料は今朝女性が作ったおにぎりが一個あるだけである。
ジョンはおにぎりを取り出すと十数年ぶりの何も味付けされていないおにぎりを頬張る。
久しぶりに食べた食事は美味しく、一粒一粒味わうように噛みしめる。
食べ終えると不思議と腹は満たされた、おにぎりを作ってくれた女性への感謝をした後、今日の寝床を探す。
寝床はあっさりと見つかった、見張り台として使われていたであろう場所に寝床を構える。
この場所は地上より高く、ゾンビや動物といった地上にいる生物は登ってこれない、ここでなら安心して眠れるであろう。
布団などなく硬いコンクリートの上でジョンは横になり瞳を閉じた。
しかしジョンは眠れなかった、それも無理もない、人体実験後、しかもゾンビや変異した動物を見た後である。
だが眠れない原因は他にもあった、それは下でしきりに聞こえる呻き声である。
ジョンは気になり下を見ると、無数のゾンビがジョンの居る建物を囲う様に取り囲んでいた。
「夜になると活発になるのかこいつら」
ジョンは全てのゾンビを倒すことを諦めきれないでいた、下に居るゾンビはざっと数えるだけで30は超えている。
弾をこれ以上仕様するわけにはいかない、もしもの時の為に取って置かなければならない。
ならばどうするか、ジョンは考えていた時、ビルから持ってきていたバットを思い出す。
ゾンビならば肉は腐敗してバッドでも容易に殺せるのではないかと考えた、ジョンには無視するという選択肢はない、一匹でも多く殺す事で救われる人間が居るのなら実行するだけである。
ジョンはバットを片手に下へと降りていく、ゾンビの群れは餌を求めるようにジョンへと群がり始めた。
ジョンは巧みにバットを振り回す、襲い来るゾンビの群れを一匹ずつ頭を叩き、殺していく。
明かりが無く、暗闇の中襲い来るゾンビは的確にジョンに襲いかかる。
ゾンビはジョンの脇腹や肩の肉を噛みちぎり、咀嚼する、そのゾンビをバッドで殴打していく。
最初、30人程に思われたゾンビは、街から徐々に現れ増える、いくら倒してもキリがない程に増えたゾンビをジョンは逃げも隠れもせず相手にしていく。
腕の関節が悲鳴をあげようとも、殴り続けている中、とうとうジョンの腕より先にバットが限界を迎える。
ゾンビを殴打した時にバキッという音と共にバットは中央から真っ二つに折れる。
ジョンは折れたバットを投げ捨て、バッドの代わりになる物を探した。
代わりになる物を探し辺りを見渡すがジョンの周り一帯はゾンビで溢れている、到底代わりになる物など探す状況では無くなっていた。
ジョンは仕方なく、見張り台へと戻る事にする、見張り台の扉に物を置き外から開かないようにする。
「しかし、どうするか……弾はこれ以上消費するのは抑えたい、けど外のゾンビの群れをこのまま放置するわけにもいかないし」
ジョンはこの状況をどうするべきか、手を顎に当て考え込む、
武器はリボルバーが1丁、アサルトライフルが2丁とその弾が各々百発程度。
近接武器はバットが壊れ、使えそうなものは建物の補強に使っていたのであろう角材等しかない。
角材でゾンビを殴打することは出来るだろうが、振り回すものとして作られていない角材は重く長い為、取り回しが効かない。
ジョンがゾンビに対してどうすべきかを考えていると、板が打ち付けられた窓の隙間から光が漏れ出てくる。
どうやらジョンがゾンビの相手をしている間に時間が経ち、既に夜が明けたようだ。
日が昇るに連れ、外で聞こえていたゾンビの呻き声も次第に収まり始めていく。
ジョンは恐る恐る、ドアの前に置いた物をどかしドアをあけると、先程まで居たゾンビの大群は何処にも見当たらなかった。
何故日が昇るとゾンビは居なくなるのかはわからない、だがそういう物なのだろうと自分を納得させる。
無残に頭を潰されたゾンビの死体が駐屯ちの中で倒れている、昨夜ジョンが倒したゾンビ達である。
その姿を見たジョンは、手を合わせ成仏するよう祈ると、死体を一箇所へ集めるはじめる。
一箇所へ集めている最中、一匹のゾンビを持ち上げると、服のポケットから一枚の写真が地面へと落ちた。
ジョンは写真を手に取り見ると、そこには家族らしき人たちの写真であった。
どうやらこのゾンビが人間だった頃に撮ったものだろう、ジョンはその写真を再び服へ戻し、運んだ。
この写真を見つけたことにより、ゾンビは元々人間であるという事が確定したのである。
自分が犯した罪の尻拭いを自衛隊の人達が代わりに行っていた事への敬意を示すために、埋葬する。
骨灰にすることは出来ないが、土葬はすることは出来る。
ジョンは硬い地面を手に血が滲み出そうが爪が割れようが掘り続ける。
倒したゾンビの死体は四十人はくだらない数、その数を埋めるだけの穴は数時間で終わるはずもなく、空腹も忘れただひたすらに掘り続けた。
早朝から行っていた作業は既に8時間も経過していた、既にそこには2m程の深さの穴が長方形に広がっている。
ジョンはそこへ一人ずつ丁寧に腕を胸に置き、土の中へ寝かせるように置いて行く。
一人を埋め終えると、もう一度手を合わせ黙祷し、次を埋めていく。
この行為を見たものは偽善と思われるだろう、だがそれでもいいと考える、自分がやらなければならない事であるとジョンは考えているからだ。
そして土葬が終わる頃には既に夕暮れ時になっていた、時間は17時、次の目的地であるスーパーへの道のりはそう遠くない事から、移動することにする。
ジョンは土葬が終わり、寝床として使っていた見張り台へと戻ろうとした時、何やら声が聞こえたような気がした。
「ありがとう」
それは感謝の言葉であった、ジョンが弔ったゾンビ達が発した言葉なのか、それとも疲れからの幻聴だったかはわからない、だがジョンはその言葉を聞き少し報われた気持ちになる。
実際には自分の勘違いかもしれない、だがそれでもいいと考える、ここで罵倒された方が自分には助かるだろう、だがそうではなかった。
ジョンはその言葉を胸に刻み、駐屯地を後にすることを決めた。
そのジョンの姿を遠くから一人の人物が見ていることに気づかぬまま―――。
ゾンビッ!




