第16話 入隊
マリアはしばしの沈黙のあと、ゆっくりと口を開いた。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです…………」
「ええ、まぁ…………」
エミーは目をパチクリさせながら、全とマリアの顔を交互に見つめていた。
「にゅう~? マリアちゃん、あの人の名前何ていうの?」
「ああ、そっか。そう言えば、ちゃんとした挨拶がまだでしたね。俺は無創全です」
そう言いながら、全はマリアたちの方へ歩み寄った。
「…………こちらこそ、改めまして、私は伊邪那マリアです」
マリアは少しだけ目を伏せながら答えた。
「にゃんにゃん! ワタシは伊勢塚エミーデース! ヨロシクネ!」
「ああ、こちらこそよろしくお願いします」
「にゃははははははは! デスマス使わなくていいヨ、アキラくん!」
(アキラくん!?)
「じゃ、じゃあ、俺もエミちゃんって呼んじゃうけどいいの?」
「にゃんっ、にゃん♪」
それが肯定のサインであるかのように、エミーは両腕をパタパタと動かして返事をした。
全は頬に冷や汗をにじませながら、言葉を続ける。
「ところで…………、ここにいるということは、2人も電能隊に入るということですか?」
「はい」
「そうか…………。帯電力者だったのか」
「バチバチバチバチー!」
エミーは拍手をするようなしぐさで、両手から小さな火花を散らしてみせた。
マリアはそれを見て目を丸くする。
「あ、こ~ら!」
マリアは慌ててしゃがみ込み、エミーの両手をぎゅっと握った。
「ダメでしょ~? 人前で放電しちゃ!」
「にゅう~?」
マリアはエミーの丸い目を至近距離から覗き込む。
「ダメっ!」
「にゅう~…………」
「ははは。苗字は違うけど2人は親子なんですね」
全の言葉を聞いて、マリアの動きが一瞬だけ止まった。
(…………あ、なわけないか)
マリアは無言のままゆっくりと立ち上がる。
「にゅ?」
エミーはマリアの顔を不思議そうに見上げた。
「…………私はまだ18歳ですし、この子も18歳です」
(マジ?)
全は身長が100センチメートルほどしかないエミーを見下ろした。
「…………この前も、私がお金目当てで近づいてきたみたいな言い方をされてましたけど、もしかして、私が何か怪しい仕事をしているように見える、とでもおっしゃりたいのでしょうか…………」
マリアは不満げな表情で言った。
全はしまったという顔をして頭をかく。
「にゃんにゃん! ワタシ、マリアちゃんに何度もママになってって言ってるんだけど、なかなかなってくれないんだヨ!」
「もう、話をややこしくしないの…………」
マリアは小さくため息をつき、右手でエミーの頭を優しく撫でながら、左手の腕時計を見た。
「それじゃ、そろそろ時間なので行きましょうか」
「OH? じゃあ、レッツゴ~!」
全は自分の、マリアは自分とエミーの採用通知書を守衛所にそれぞれ提示し、基地の門をくぐった。
「そ~いえばマリアちゃん、最近、昔とおんなじような服着てるネ! あの果物みたいな匂いってコウスイって言うんだっけ?」
「…………それより、ほら、おなかのあたりが土で汚れてるよ? しかもビーチサンダルまで履いてきちゃって…………。ちゃんとした格好で行かなきゃダメって言ったよね?」
「にゅう~? サンダルってちゃんとしてないの? ねぇアキラくん、何でサンダルってちゃんとしてないの?」
「さぁ。俺はパジャマと普段着の違いすらよく分からんから…………」
時刻は8時50分。
基地内の講義室には、数十人の私服姿の若者たちがすでに着席していた。
室内のあちこちで和やかに雑談を楽しむグループがいる。
教壇に立つ恵はクリップボードを持っており、そこには新入隊員たちの履歴書が挟まれていた。
恵がどこか思い詰めたような表情でそれらを見つめていると、エミーの声が聞こえてきた。
「あ、あそこがゴールみたいだヨ! …………にゃっ、にゃっ、にゃあ!」
スキップをしながらやってきたエミーが勢いよくドアを開け、講義室へと飛び込んできた。
「コンニチハ~!」
エミーの元気な挨拶が室内に響き渡り、全とマリアも彼女に続いて部屋に入った。
「新人の無創全、伊邪那マリア、伊勢塚エミーね?」
恵は全たちの顔を見ながら確認した。
「「はい」」
「ハイ!」
全たちはその場に立ち止まり、声をそろえて返事をした。
その中から全の声を聞き分けると、恵は何かを探るような意味深な視線を彼に向けた。
「じゃあ、時間まで空いている席に座って待ってて」
「「はい」」
「ハイ!」
全たちは歩き出し、空席へと向かった。
「ふんふんふ~ん♪ なんか今までの学校より人少ないネ!」
エミーは室内の様子をきょろきょろと見回しながら言った。
「うん、全部で68人かな」
「ほにゃ? もう数えたの?」
「うん、私、その場にいる人数を数える癖があるから…………」
「電気バチバチできる人ってそんなにいないんだっけ?」
「うん。昔は注射をするだけで誰でも帯電力者になれたらしいけど、今はその体質が遺伝した人に限られてるから、日本全体で1000人くらいしかいないんだって」
「ほほ~?」
マリアとエミーが言葉を交わしている間、全は窓際の椅子に腰を下ろしていた。
「あ、マリアちゃんはアキラくんの隣ネ!」
マリアとエミーも腰を下ろし、奥から順に全、マリア、エミーという並びになった。
講義室に入ってきた拓也は、恵の前の教卓の上に分厚い紙束を置き、口を開いた。
「こちらが全員分の宣誓書です。身体検査と能力検査の準備も整いました」
それまで硬い表情をしていた恵だったが、拓也が姿を見せたときだけは口元にわずかな笑みを浮かべた。
「うん、ありがとう拓也くん」
「職場でその呼び方はやめてください」
拓也は淡々とした口調で返し、短く頭を下げてから部屋をあとにした。
恵は教卓の上で紙束をトントンとそろえる。
「じゃあ静粛に。予定より少し早いけれど、全員そろったから始めるわよ」
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