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過去を忘れる僕と、今を生きる君  作者: 夢見る冒険者


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17話 向き合い続ける覚悟

翌日。僕は遥のところへ向かうと、開口一番に告げた。


「悪いけど、遥。神隠しに遭った人間が、どうやったら元の世界に戻れるのか。それを一緒に考えてほしい」


自然と目に込められた力が強くなるのを感じる。振り向いた彼女は僕の瞳をじっと見つめる。すぐには答えず、僕の真意を測るように、何かを試すように。やがて、少しだけ目を細めた。


「それって、君の関心からくるもの?」

「関心でもある。でも、それだけじゃない。解き明かすって決めたんだよ……不可能に挑んでみせるってね」


遥は一瞬だけ目を見開いて、ふっと笑った。


「へえ。いいじゃん。協力してあげる」


にぃっと口端を吊り上げて、不敵な笑みを浮かべる。それから、少し離れたところにいた颯真へ視線を向ける。


「ってことで、颯真も一緒に考えて」

「えっと……マジで話の内容が読めねえんだけど……」

「単純な話。困ってる友人を助けてほしいの」

「なるほど。それは分かりやすい。いいぜ」


あまりにもあっさりと受け入れられて、僕の方が戸惑ってしまった。普通なら、神隠しなんて話をすれば、意味が分からないと言われると思っていた。


神様がどうとか、元の時代に戻すとか。興味のない人からすれば、あまりにも現実離れした話だ。それでも、颯真は否定しなかった。


「……どうして?」


思わず口にすると、颯真は不思議そうに首を傾げる。


「何が?」

「いや……どうして、協力してくれるんだって思って……」

「そうだな……お前がいいやつだって知ってるからだよ」


そう言って、颯真は僕の胸に拳をこつんと当てながら続ける。


「ここ数日、なんかに追い詰められてるみたいなお前を見てた。助けたいとは思ってたんだよ。でも、声かけられるような雰囲気じゃなかったしな」

「……ごめん」

「なんでお前が謝るんだよ」


肩を震わせながら颯真は笑う。


「だって、気を遣わせたから」

「ふふっ……そうだな……そういうお前だから俺は協力したいって思うんだよ」

「……」

「今回のことも、きっと誰かのためなんだろ?」


僕は答えなかった。けど、内心を言い当てられた僕は驚きのあまり、目を大きく見開いてしまった。自分のことを、そんなふうに見てくれていた人がいる。そのことに、ただただ、驚いてしまう。


「ならいいよ。まぁ、お礼に何か奢れよ」


冗談半分告げる彼からは、気を遣わなくていいだぜなんて言われているようだった。それでも何かを返したいって思ってしまう。


「あぁ、焼肉でも奢るよ」

「ほら~颯真がそんなこと言うから、透が信じちゃったじゃん」

「いや……冗談だからな……」


慌てる颯真の隣で、遥が呆れたように目を細める。その二人を見ていると、自然と笑いがこぼれた。


「単純に僕が何かを返したいんだよ。二人に対してね」


そう言いながらも僕も少しだけ、いじわるっぽい表情を作る。


「その代わり、こき使うから」

「いいぜ。交渉成立な!」


そんな軽いやり取りをして、僕たちは神隠しについて図書館に訪れて調べ始めた。けれど、調べれば調べるほど、簡単な話ではないことが分かってくる。同じ神様に、二度願いを叶えてもらう。そのための明確な抜け道は、やっぱり見つからなかった。


「私の方も調べてみたけど……ごめん。この土地だと、やっぱり土地神様の影響が強いみたい」


遥が本を閉じる。


「俺の方もごめん、やっぱりないな」


この二日間、調べての結論は一度願いを叶えた同じ神様に、もう一度願いを叶えてもらう方法なんて存在しないということだった。


「だからこそ、可能性があるとしたら……」


僕たちの前に置かれる本に互いに頷き合う。


『遥見神社に祭られている縁結びの神様。ククリヒメノミコト様だよな……』


遥はページを指でなぞりながら互いの認識をすり合わせるように続ける。


「人と人の縁だけじゃなくて、土地との縁とか、場所との繋がりを結び直すことも考えられる。だったら、元々いた場所との縁をもう一度繋ぐことができる可能性がある」

「うん……もちろん条件がいくつか重なりそうだよね」

「そうだな……文献がすくなすぎるってのがネックなんだよな……」


彼女に関する記述は少なく、どんなふうに願いを叶えてくれるのか、そもそも願いを叶えてくれるのかさえも分かっていなかった。


「……元いた場所との縁を繋ぐ。もしくは……結び直すか」


その言葉が、妙に引っかかった。澄が今いる場所と、澄が本来いるはずだった場所。その二つを、もう一度繋ぎ直す。もし、ゆかりのある地と縁があるなら可能とのことの推測にならない。


「なぁ……その可能性ってやつについては遥が詳しいじゃないか。関連する本を読んでるくらいだし」


彼の視線の先には『神への信仰と願い』という本がみえる。彼女なりにその可能性をいち早く考えてくれていたようだった。


「そうだね。私個人の見解になるけど、異なる時代を繋ぐには、境界が曖昧になる時間や場所が重要になると思う。もちろん、その個人が向こうから求められている前提でね」

「つまり……条件をクリアすれば帰れるってことか?」

「うん……そう思う。ただし、期間は魂が定着する前の100日だよ」

「……うん」


彼女の言葉に僕は深く頷く。彼女に勧められた本を読んでいてわかったことがあった。民俗学とか新道ではその土地に100日で魂が定着するって考えがあることを理解した。


お食い初めという、赤ちゃんが初めて魚やお米といったその土地の食べ物を口にして魂を定着させるように。死後の未練を断ち切って、魂の不安定さがなくなる『百日祭』しかり、その土地との縁は100日で結ばれることが多い。


縁を紡ぐ神様が元の時代との縁を感じれるのはそれまでだ。だからこそ僕は早く彼女に伝える必要がある。彼女がまだ、元の時代に未練を残していないと帰れはしないから。


「二人とも、本当にありがとう」


僕が頭を下げると、颯真が手をひらひらと振った。


「いいってことよ」

「そうそう。まだ何も分かってないんだから、ここからだよ」


遥も笑っていた。僕は改めて二人を見る。この二日間、僕は二人にかなり世話になっていた。部活が休みの日には、午後のほとんどを僕のために使ってくれた。遥なんてずっと付き合ってくれた。僕はもう一度、深く頭を下げた。


「本当にありがとう」

「だからいいって」

「そうだよ……それに一刻も早く誰かに伝えたいんじゃないの?」

「うん、伝えたい」


澄に早く伝えたい。まだ終わっていない。帰れる可能性は、ちゃんと残っている。そう言ってあげたい。


「なら、早くいく」

「うん。ありがとう」


僕は二人にもう一度礼を言って、その場を離れた。家へ向かって走る。何も考えず、ただ走った。寝不足で重いはずの身体が、今日は不思議なくらい軽かった。足が勝手に前へ進んでいく。


これまでの僕なら、こんなふうに誰かを頼ることなんてなかった。一人で調べて、一人で悩んで、一人で答えを出そうとして。きっとたどり着けなかった。


でも、今は違う。一緒に考えてくれる人がいる。不安な気持ちを抱いた僕を励ましてくれる友人がいる。それが、たまらなく嬉しかった。同時に澄にとって僕がそういった存在になりたいと思う。そんなことを考えて、気づけば、家の前まで来ていた。


緊張する自分がいる。それでもふと、二人が背中を押してくれた気がする。僕は勢いのまま扉を開けるのだった。

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