50. 日常 - エピローグ -
タッタッタッ
最近、日課にした朝のランニングは、気持ちを切り替えるためのルーティーンだ。
犬を散歩する壮年の男性
朝早くに出勤する他庁の職員
オフィス街の木々に住む小鳥の囀り
いつもの風景が今日もそこにある。この"日常"に自分自身が支えられているのだと、灯里は最近気がついた。
サッとシャワーを浴びて、浄化師の制服を身に纏う。白い上着は真新しく、二着目だ。
先日の一戦で初代は駄目になった。染みついた血痕は、ついぞ落ちなかった。
昨晩買っておいたピーナッツコッペパンを自室で食べてから、オフィス棟へ向かう。
左右がガラス張りの渡り廊下は、梅雨が明けた夏の日差しを浴びて温室のようだ。
エレベーターに乗る。チラと医療班のある4階のボタンに目が行った。
水瀬は一命を取り留めたが、昏睡状態が続き医療班の集中治療室に留まっていると聞いた。
それに彼は厳重監視にあるらしく、一般の浄化師は彼の顔を見ることができない。
…実は、灯里は彼に会わなくて良いことに、心の奥底で安堵していた。
12階に着く。
エレベーターのドアが開くと、ガヤガヤとした戦闘班のフロアが目の前に広がった。
昨日は備品配布の日だったからか、皆の机の上は色々なものが積み上がっている。
ボールペン、タブレットカバー、デバイスホルダー、PCケーブル、コピー用紙の束に空ファイル…
整理整頓が得意なスタッフを雇い入れてくれないだろうか…。
それか分析班員からヘルプ要員を連れてきてほしい。
灯里は自分のデスクを見て、ハァ、と小さくため息をついた。
「こーら、灯里ちゃん。ため息つくと幸せが逃げちゃうんだぞ〜。」
灯里のため息に気がついた千景が、ちょい、と灯里の背中をこづく。彼女はたくさんの弾丸の箱を抱えて武器庫へ向かうようだ。
「だって千景先輩、この山を整理するんですよぉ…」
情けない声で項垂れる灯里を見て、千景が悪戯顔をする。
「あら?同期の白瀬君に手伝ってもらったら?彼、得意そうよ?」
蒼のデスクを覗くと、きっちり全てが整っている。
(うーわ、やっぱり優等生…)
自分とは土台が違うのだ。仕方ない、ひとつずつ片付けよう。
灯里がケーブルに手を伸ばした途端、腕につけたデバイスが鳴った。
ビーッ!ビーッ!
『レベルC、非融合個体が二体、東京の西部エリアに発生。』
「七班、みんなもう出勤してるなー?」
橘が七班のゾーンを見渡して確認する。
日勤メンバーは全員揃っている。
「よし。行くか。-こちら七班、出動可能です-」
『確認しました。七班、本案件を担当してください。お願いします。』
「装備を揃えて20分後に出動するぞ!」
「「「はいっ!」」」
灯里は腰にホルターをつけ、愛用の鞭をそこに挿す。
-今日も見えないところで人々の日常を守るために戦おう、これが私の仕事だから。-
第一部〈完〉
こちらにて第一部完結です!初長編で拙い点もあったと思うのですが、更新するたびに最新話を読んでくださった方々のおかげでここまで走り切ることができました。
この作品を読んでくださり本当にありがとうございました!
追伸: エピローグと一緒に、本日プロローグも追加しています。話の大筋が変わる内容では全くないのですが、完結後に読んでいただけると、またひと味違って感じられ、楽しんでいただけるかなと思います。




