45. 大量発生
ビーッ
一息つく間もなく、再びそれぞれのデバイスに通知が届いた。灯里は次の融合個体の発生場所を確認しようとデバイスを開いた。
「今度はどこでしょう…?ってうわ!なんですかこれ?!」
画面には大量の通知が表示され、警告音が鳴り止まなくなった。
「オイオイオイ…こっからが本命ってか…?全員、通信用イヤホンを装着。司令本部からの指示が来るぞ。」
橘が緊急通達を見ながら言った。
「どうやらこの街全体で100体を越える融合個体が発生しているらしい。一箇所に追い込んで、そこで一気に浄化をするのが本部の方針だ。」
「追い込む…ってのはいいですけど…追い込まれてくれます?こいつら。めちゃくちゃオレらと戦う気っスよ。」
ビルの脇からウゴウゴと湧き出て来た融合個体達を見つめながら、長谷が苦笑いする。
「仕方ねぇよ。向かってくるやつは浄化して、逃げてくやつを時計台広場に追い込むぞ。」
橘が一気に戦闘態勢に入った。
「よーし!じゃあ早川!今度は分解魔法、よろしくな!」
「うわ〜ん!こわいこわい!これだから嫌なんだよ〜前線は!自分の身は自分で守らなきゃ!防護魔法陣"諍"を展開っ、行きます。」
早川は灯里の書いた魔法紙を懐から出し、防護壁を展開して身に纏った。
意外にも素早い身のこなしで融合個体のひとつに近づき、防護壁を解除すると分解魔法を放つ。
すかさず防護班員が早川を守るように防護壁を展開した。
分離した穢れが、防護壁を攻撃する。穢れの攻撃を受け、紫色の硝子のような防護壁が軋む。維持していた班員も、衝撃によろめいた。
「くっ…」
彼らを庇うように、灯里はひらりと穢れの前に降り立つと鞭を出す。鞭は大きな弧を描き、紫色の光跡を残しながら宙を舞った。
ヒュンッ
鞭で腹部を切り裂かれた穢れは、上下に真っ二つに分かれて消えていった。
「ふぅ…」
「あ、ありがとう。霧島さん。」
オドオドした小さい声で早川がお礼を言う。灯里は緑色のマッシュルーム頭を見下ろした。
「いいのよ。チームで浄化してるんだから。早川くんも、分解してくれてありがとう!」
灯里はニッコリ微笑んだ。早川は照れくさそうにフイッと顔を逸らす。
「おーい!悪いがこっちも分解してくれぇー!」
融合個体からの攻撃を受け止めている橘と長谷から声が掛かる。
「あっち、行こっか!」
「「はいっ!」」
灯里と共に早川と防護班員が走り出す。
長い長い戦いの夜が始まった。
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ズシャッ
ピシィッ
ドスンッ
パンパンッ
何体の融合個体と対峙したのだろうか。
途中からその数を数えることを七班の面々は止めていた。広場のシンボルである、石造りの時計台が遠目に見えて、灯里は声を上げた。
「橘さんっ!時計台広場が見えてきました!」
「よしっ!あともう少しだ!広場にこのまま追い込んでいくぞ。早川、大丈夫そうか?」
「はいっ!ただ…もうあと魔法紙が残り二枚しかないです…。」
早川が息を切らしながら返事をした。
「そうか…。早川は必ず防護班員の誰かとバディで行動しろ!霧島は浄化じゃなくて分解魔法側をメインで対応だ。」
「「了解です。」」
全員に疲労の色が濃く滲んでいたが、なんとか持ちこたえながら七班は時計台広場へと穢れを浄化しながら追いやっていく。
「やっと着いた!えっ………。」
時計台広場の光景に声を失った。
そこには数えきれないほどの穢れが集まり、蠢いていた。
「うそだろ…これ100体どころじゃないよ…。」
広場は大小様々な穢れがひしめきあっている。
加えて、複数の班が追い立てた穢れが、広場へつながる放射状の通路から次々に流れ込んできた。
蒼がその様子を見て、首を左右に振った。
「分解して個の力を弱めたとはいえ、広域浄化ができる浄化師数人がかりでも、一度に浄化できる数じゃありませんね…。」
「……それに、こんなに大量の穢れ、一体全体どうやっておびき寄せたのよ…。」
灯里も広場を眺めて呆然とした。つい、今は言っても仕方がない疑問が口から溢れる。
スタッと灯里たちのそばに人影が舞い降りた。
「霞が原の至る所に設置された黒い機器が誘引したんだ。それぞれの機器に親機からの指示が飛んで、穢れを呼び寄せ、融合させるためのエネルギー磁場が発生している。」
人影は東雲と九条だった。彼らは本部で分析、指令に当たっていたはずだ。
「東雲さんに咲良さんまで…どうして現場に?」
「局員の保護と、発生源を潰すためだよ。各機器に指令を出している親機は、エネルギー管理局にあることがわかったんだ。この親機を壊さないと、融合個体は造られ続ける。」
東雲がデバイスに霞が原の地図を映し出した。
黒い機器のある場所が赤く示され、それが線と線で繋がると、正八角形が表示された。その中心点にエネルギー管理局がある。
画面左上に表示された黒い機器の写真を見て、灯里の頭の中に何かが引っかかる。
「エネルギー管理局に親機…、それと黒い箱…?」
はっと息を呑む。灯里は水瀬の研究室で見た黒い機器を思い出した。
「あのっ…エネルギー管理局での研修中に、似たような大きな機械を研究室で見ました!」
「えっ!霧島さん、それ、本当?その機械がある具体的な場所もわかるかな?」
「た、たぶん。移動していなければ…。」
灯里はコクリと頷いた。その様子を見ていた橘がトン、と東雲の肩を叩く。
「よし、じゃあ俺と霧島、あと…そうだな…白瀬の三人でエネルギー管理局に行ってくるよ。」
「橘…頼んでいいか?」
「ああ。なにせ、おまえさんたちは"コイツら"をどう浄化するか、作戦を練らないとだろ…?」
橘が大量に集まった穢れを眺めながら言った。
「…ああ、ありがとう。」
「そうと決まれば、霧島!白瀬!急いでエネルギー管理局に向かうぞ!」
「「はいっ!」」
三人は急いで来た道を引き返すため走り始めた。
すると…
ドォォオン……!!!
時計台広場の奥にある人工池の水面が大きく揺れた。
「えっ?」
「こっちはいいから早くエネルギー管理局へ行け!!」
振り返った灯里に大声で東雲が叫ぶ。
なにが起きた音だったのだろうか…。気になる不安な気持ちを抑えて、灯里たちはエネルギー管理局へと向かって宙を飛んだ。
つづく




