1. 門出
ひらひらと早咲きの桜が舞う中、霧島灯里は卒業証書を手に思いっきり手を突き上げた。
「やったぁーーーーー!」
なんとかここまで3年間、このエリート排出校である特務魔法学園で落第せずにこられたことは灯里にとって奇跡としか言いようがない。
「おいおい、灯里ぃ、そんな大声で叫んで恥ずかしいぞ〜」
幼馴染の奏太が、からかい混じりにあかりの肩を叩いて言った。
「いやいや、なんたって私、昨日まで卒業確定してなかったんだから、ちょっとくらい大袈裟に喜ばせてよー」
そう、何を隠そう灯里は昨日まで魔法省からの就職許可通知が届いておらず卒業できるかわからなかったのだ。
魔法学校で魔法を学び、魔法省の各部署や関連機関での就職先が確定すると、一人前の”魔法師”を名乗ることが許されるようになる。
魔力を持つ人々はこの国では人口の5パーセントほど存在している。その中でも実際に魔法師として働くのは4人に1人ほどだ。
魔法師たちはエネルギーや情報通信など、国の基幹インフラを魔法によって支えている。
「そういえば、灯里ちゃんはどこの官庁に決まったの?」
奏太の彼女でもあり、灯里の心の癒しである天音が尋ねた。
「えっとね、環境保全局!」
と灯里が答えると、周りの空気が凍りついた。
「え、マジかよ」
「あそこって本当に存在してる局だったんだ…」
「なんでも汚水処理みたいな仕事らしいって聞いたけど…」
周囲の動揺が止まらない中、高笑いが響いた。
「オホホ!環境保全局ですって!万年学年最下位の霧島さんにはお似合いね!」
花園澪だ。五大魔貴族の親戚だからなんとかで、いつも孤児で後ろ盾のない灯里に突っかかってくる。
「何よ、なんか文句あんの?」
灯里が臨戦態勢に入ろうとした時、後ろから涼やかな声が響いた。
「霧島さんも環境保全局なんだ?僕もだよ、明日からよろしくね」
学年トップ、体術も魔法もオールA、キラキラした銀髪に加え透き通るような水色の瞳、天に何物も与えられた、学園一の美男子が灯里に笑いかけた。
「蒼くん、それ本当?蒼くんはエリートコースNo.1の国立エネルギー管理局じゃないの?」
蒼白な顔をして澪が問いかける。
「うん、僕の憧れの人が環境保全局にいるんだ。あそこで働くのが僕の念願なんだよ。」
そう言って、彼は颯爽と過ぎ去っていった。
残されたのは、蒼と同じ職場だと信じきっていた澪と共に項垂れる女子達と呆然とする灯里。
「いったいどんな場所なのよ、環境保全局…」
さっきまでの勢いはどこへやら、灯里はがっくりと肩を落とした。やっと明日から夢の魔法師生活が始まるはずであったのに、どうやら曰く付きの職場らしい。なぜエリート中のエリートの白瀬蒼が万年ビリの自分と同じ職場なのかも皆目見当がつかない。
おそるおそる、奏太が口を開く。
「環境保全局ってさ、何してるかみーんなよく知らないんだよ。職場見学も出来ない上に、誰が局員なのかも秘匿されているんだ。たぶん新人での入局はいままでなかったはず。とりあえず、白瀬がいるから大丈夫だろうけど、灯里、頑張れよ」
灯里は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
「わーん!なんの慰めにもならないよー!」
兎にも角にも、明日からは職場の寮に移らねばならないのだ。急いで荷物をまとめようと、灯里は学園寮へトボトボと向かった。
つづく




