0. プロローグ
突然、ビュッ、と強いつむじ風が街を駆け抜けた。
窓ガラスがガタガタと揺れる。
外を見ると、大きな看板のようなものが宙を舞っていた。
灯里は慌ててカーテンを閉じる。何かが飛んできて窓が割れたらどうしよう。
今日を入れてあと三日で卒業なのだ。退去時に修繕費を追加されたら堪らない。
ビュウビュウ、という恐ろしい風の音に、カーテンの端をギュッと握りしめ、目を瞑った。
…しばらくすると外は静かになった。まるで台風一過のようだった。
カーテンを開けて外を見ると、台風でもないのに、学園の外の街路樹がへし折れている。
ふと、いつもパンをオマケしてくれるマーおばさんがやっているパン屋は無事だろうか、と心配になった。
もうすぐ卒業だし、挨拶がてら様子を見に行こう。
---
商店街に着くと、灯里はその惨状に目を見開いた。
木でできた出店は潰れ、店舗の窓ガラスもいくつかが割れている。
「マーおばさん!」
ショーウィンドウの一部が壊れたパン屋の前に、店主がぽつねんと立っていた。
「おばさん!怪我はない?大丈夫?」
「あ、あぁ。灯里ちゃんかい。あたしらは大丈夫だよ。店はこの有り様だけどね。誰も怪我してないから大丈夫。」
気落ちしているものの、いつものおばさんの柔らかい笑顔は変わらない。
灯里はホッと息を吐いた。
「良かったぁ、怪我がなくて。でもこんなところに突風が吹くなんて…びっくりだね。」
灯里は辺りを見渡した。
色々なものが壊れ、道がめちゃくちゃだった。
近くに行政の職員でもいないだろうか。壊れた店の再建について尋ねたかった。一日でも早く元通りになってほしい。
白い上着を着た、救急隊っぽい人が何人か立っている。政府職員かもしれない。
「あのっ!すみません、災害復興支援の申請ってどうしたらいいんでしょうか?」
灯里が彼らに声を掛けると、変な顔をされた。
何か変なことを聞いただろうか…?
聞こえなかっただけかもと思い直し、もう一度、問いかけた。
「すみません、壊れたお店の人たちは、どこかで支援を受けられますか?」
ピンク色のド派手な髪色の人が灯里に尋ねる。
「キミ、僕らに話しかけてるんだよね?」
「えっ、ハイ。あれ?救急隊の方かなと思ったんですが…。」
「うーーーん。見えるのかー。キミまだ若いよね?どうします〜?班長?」
「その子の名前と連絡先、聞いておいて。それと被害に遭われた方の連絡先も。」
ピンクの髪の人に奥にいた背の高い男性が指示を出す。
「了解。じゃ、キミ、こっち来て連絡先書いてくれる?」
「はいっ。」
(良かった。これでマーおばさんのお店もすぐに直せるはず!)
ピンク色の人に渡された紙に、意気揚々と連絡先を書いている灯里は気が付かなかった。
少し離れた場所から、背の高い男がじっと彼女を見つめていたことに。
「……八年ぶり、か」
その金色の瞳が、ほんの少し揺れた。




