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寿命の近いハイエルフのお師匠様と拾われ転生者の私の、森の隠れ家スローライフ  作者: たんぽぽ
第一章 プロローグ

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02

 暖かいものに包まれて、ゆらゆらと揺れている。


 時々、ふわっと光が満ちるのが、閉じた瞼の裏からでも感じられた。その光が私を包むと、少し息がしやすくなり身体もポカポカして軽くなる。


 顔やほっぺに感じる人肌のような温もりは、ひとの背中……?

 私をおんぶして、その上に厚手の上着を羽織って、その上にマントを羽織っているような感じ……?

 何でそんな変な服の着方を……私を温めるため……? まさかね、今、私奴隷だし……


 ぼんやりと考えたけど、熱を持った重い身体と、頬に感じる温かさ、気持ち良いゆらゆらとした揺れに、再び意識は遠ざかった。




 次に目覚めた時は、明るい部屋の柔らかいベッドに寝かされていた。


「気が付いたかな?」


 優しげな美しい青年が顔を覗き込んでくる。

 長い、淡い金髪を緩く編んで、肩に流している。色白の肌に、華奢な体つき。特徴的な耳は人間よりもはるかに長い。今世でも存在を聞いたことがないけれど、エルフかな?

 美しい翠の瞳を瞬かせて、心配げな顔をしている。


「……ここは……?」


 そういえば水分を取ったのがだいぶ前で、細い掠れ声しか出ない。

 美しいお兄さんが、私の身体をそっと起こし、水差しからコップに水を入れ、ゆっくりと飲ませてくれた。

 久々の水が、喉から身体に染み渡る。


 お兄さんが再びベッドに寝かせてくれて、今の状況を教えてくれる。


「君は、この町から隣町へ続く街道の途中で倒れていたんだよ」


 そうだろうな、男達に捨てられていったのだろう。熱を出したガリガリの奴隷の子なんて、移動中に死ぬかあそこで死ぬか、時間の問題だったろうし、連れて行くメリットも無くお荷物以外の何物でもない。


 ぼんやりと考えていたら、ゆっくりと話が続く。


「ここは、あの場所から近い方の町の宿なんだ。ひとりで倒れていたけれど、君にお父さんやお母さんはいるのかな?」


 私はふるふると首をふる。


 「帰る場所はある?」


 ふるふる首をふる。


 しばらく美しいお顔で私を見つめたエルフのお兄さんは、ゆっくりと右手で目を覆って、天を仰ぐ。


 「これは……これは、想定外だ……。心のままにとは言ったが、こんな出会いがあるなんて……」


 お兄さんがブツブツと小声で天井に向かって呟いている。


「よし! 君はまだ熱も高いし、とりあえず寝てしまうのが一番だね」


 よくわからない吹っ切り方をしたお兄さんが、私と同じ布団の中にゴソゴソと入ってくる。

 え? 同じお布団で寝るの……!?


「おにいさん、わたしおふろはいれてなくて、きたないよ」

「私は他のエルフと違って、細かいことは気にしないことにしたおおらかなエルフなんだ。それに、人間の子どもは大人と一緒に寝るのだろう?」


 そうなのか!? そうじゃないのか! ずっと奴隷をしてた私には分からない……!?

 とりあえず、お隣に潜り込んできた綺麗なお兄さんはやっぱり暖かくて、ほこほこしながら眠りに落ちた。



* * *


 毎日を過ごす、部屋の小さな窓から細く朝日が差したら。一日の始まりだ。


 いつもお腹が空いている。ぺこぺこを通り越して胃が痛いし、少し気持ちも悪い。朝方は特にだ。

 鉄格子で区切られた部屋で、剥き出しの地面に寝ていたから身体も少し痛い。周りには同じような子供達がわらわらといる。

 私が16番だから、他の部屋も合わせて最低16人はいるのだろうか?私が今3歳くらいで、他の子達も同じような幼児くらいの大きさだ。

 みんな揃ってボロを着て、ガリガリで、手も足も、顔も汚れている。

 私にもあるのだが、みんな細くて小さな背中の左上、心臓の裏側辺りに、模様のような火傷の跡がある。円形の中に鳥が囲われているような模様、奴隷紋だ。

 統一してあの場所なのは、左側を焼かれても右手は反対側だから痛くないし、問題なく働けるだろう、ということだろうか。もしくは心臓の裏側で命を握ってるぞ、みたいな意味だろうか? どちらにしろ、余計なお世話だ。


「お前らは奴隷から生まれやがったから、面倒臭くてしかたがねぇ。ガキ過ぎて何にも出来ねぇから、買い手がつかねぇ。ガキなんて、攫ってくれば一番速ぇのに……」


 鳩の餌のようなパンくずと、くず野菜のスープを配ってる男がボヤく。

 買い手がつく年齢になったら、売りに出されてそれぞれの主人の元に行くのだろう。幼児がこんな環境で、生きていられれば、の話だが。


 日が沈み、夜になる。薄暗くなった部屋には気休めのような蝋燭が一本あるが、男達に必要がなければ火が灯ることはない。

 何とか今日も生き延びたけど、頑張って生きてもあんまり先行き明るくないな……朝、起きたくないんだけど……そう思いながら眠る。

 それが、物心ついてからの毎日だったはずだった。



 瞼の裏から柔らかな光を感じる。朝が来たことを告げる、暖かな陽の光。ふかふかで暖かい、肌触りの良いお布団。ぽかぽかするのは、お布団の温もりだけではなく、隣にいるひとの人肌だ。

 そうっと目を開けると、色白で美しいお顔、キラキラと光を反射する長い淡い金髪に、特徴的な長い耳を持つエルフのお兄さんが、すぅすぅと眠っていた。


 本当に朝まで私の隣で寝てたんだ……? こんな、得体の知れない小汚い子供と一緒に……? 大人の義務だから? 多分、その義務だと思ってること、間違ってると思うけど?


 綺麗なお顔を眺めながら、私の頭の中をハテナマークが飛びまくる。

 私のお腹がぐーぐー鳴っても、眠り姫のお兄さんは、中々、本当に中々起きなかった。






 お腹がぐーぐー鳴っている。椅子に座っている今もだけど、お布団の中からずっと鳴っていた。いや、正確には物心ついた時からお腹は鳴っていたけれど。


 目の前のテーブルの上に、宿の人が作ってくれたパン粥とスープがいい匂いをさせて湯気を立てている。

 

「わたし、ごはんのおかねもってないよ」


 ぐーぐーなるお腹を押さえて、エルフのお兄さんを見上げて申告する。お兄さんはぷっと吹き出した。


「お金がなくても食べていいんだよ」

「おかねがなかったら、ごはんたべられないよ」


 小首を傾げる私を、お兄さんは優しく笑って頭を撫でてくれる。

 まだボサボサのままだけど、潔癖なエルフのイメージと違って、本当に細かいことを気にしないおおらかなエルフのようだ。

 お兄さんは美しい中性的な声で、優しく話す。


「私がね、お腹がすいている君に、温かいご飯を食べてほしいんだ」


 明るい温かい部屋。頭の上の大きい手と優しい言葉。ふわふわと湯気がでている、温かいごはん。


「いただきます」


 温かいパン粥をスプーンですくって、一口食べる。

 優しいミルクの味が口いっぱいに広がり、コトコトとゆでられて柔らかくなったパンが、口の中で溶けて広がる。


「おいしい…」


 今世初めてのちゃんとした食事にしばらく感動した後、夢中になって口に入れる。

 お兄さんはゆっくりと食事をしながら、私の食べっぷりをニコニコ見ていた。


「ご飯を食べ終わったら、お風呂だね」


 お風呂場前の脱衣所で、ちょっとごめんね、と言いながらお兄さんがボロボロの私の服を脱がす。お兄さんは、腕まくりをしてズボンは膝までまくって、犬を洗うような装いだ。


「うーん、洗ってみないと怪我があるかわからないなぁ。染みたら言ってね」


 泡をふわふわもこもこに泡立てて頭をわしゃわしゃ洗われる。一回ゆすいで、二回目わしゃわしゃ。

 身体に怪我がないか気にしながら、そっと洗っていく。

 手の指のあいだ、足の指のあいだ。


 温かいお湯をかけて泡を落とすと、今世初めてかもしれないピカピカのお肌が現れた。


 お兄さんは、ふわふわのバスタオルを巻いてくれて、上から下までざっと確認する。

 床に膝をついて目線を合わせ、顎に片手を添えて小首を傾げる。


「うーん、怪我は青あざと背中の焼印かな。焼印は消したくない思い出とかある?」


「ないよ」


「じゃあ、消しちゃっていいね?」


 ニッコリ笑ったお兄さんの手が暖かく光出す。


「光の精霊よ」


 お兄さんの手の光が私を包んだと思ったら、みるみる身体の青あざが消えていった。


「うん、背中の焼印も消えたね、良かった」


 すごい……!! 魔法……!? 魔法だ……!!

 最初におんぶしてこの町に連れてきてくれた時に、時々光って息がしやすくなったり身体が軽くなったのは、魔法をかけてくれてたんだ……!!


「いまのは、まほう!? かいふくのまほう!??」


 両手を握って興奮気味にお兄さんに聞いてみると、お兄さんがニコニコしながら教えてくれた。


「これは、精霊から力を借りる『精霊魔法』で、今のは光の精霊の力を借りたんだ。私達エルフがよく使う魔法で、人間達はあまり使わないかな。でも、君なら私が教えれば、使えるかもしれないね」

「せいれい、まほう……!! 」

「人間がよく使うのは、自分の体の魔力を使う『魔術』かな。これも、私が教えれば使えるようになると思うよ」

「せいれいまほう……まじゅつ……!!」


 ドキドキしながら、お兄さんの顔を見つめる。


「でも、魔法の前に。まず、よく寝て、よく食べて、元気いっぱいになる事が大事かな。君の、名前を教えてくれる?」

「……じゅうろくばん……」

「……16番……?」

「じゅうろくばん」


 お兄さんが、難しい顔をして首を傾げる。


「……ティア……」

「てぃあ?」

「君の名前は、私の名前に寄せて『ティア』はどうだろう? 真名は『ティツィアーナ』。真名は、人間ではなく私達エルフ一族のしきたりなんだけど、家族と、精霊との契約以外には、誰にも教えてはいけないよ」


 お兄さんが、そのキラキラとした澄んだ翠の眼を細めて、優しく笑いかけてくれる。


「私の名前は、ティオ。真名は『ティオテュース』。私と家族になろう、ティア」

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