第39話 魔法第1次試験 下
奴が杖を向けた時、幾つかの石が集まり頭ほどの大きさにまでなる。そして砲撃される。セナは右手の人差し指と中指を立て、男を睨む。すると、水の塊が4つ浮かぶ。セナは声を荒げて叫ぶ。
「ぶっ壊せ!!」
彼の命令が出ると、水は一気に噴射される。石は水を防ぎきれず粉々に粉砕される。男は陶器のように顔色ひとつ変えずに見下ろしている。セナは少し笑う。その好機を縫うように、トウカは少女に1発かます。だが、彼女はニタリと微笑む。トウカはハッと気づく。小癪な小娘だ。妙な結界で顔の一部を保護していた。小娘は勝ち誇ったように鋒で突く。
ゴキッッッッッッ!!!
「へぇ、硬いね。」
小娘は楽しげに言う。それはトウカも同じであった。
「わしの鱗は龍と同じ!鋼鉄よりも硬いぞ!!」
「あぁ〜 ドラゴンかぁ〜 大変だね〜」
小娘は距離を取る。トウカは2人のそばに戻る。あの2人は互いに目を向け合うと、少女は詠唱する。
【地雷式防御結果】
彼女が杖を地面に突くと、波紋が一体に広がる。すると、彼女の目にはまるで赤外線センサーのように敵の体が透けて見えた。やはり、ろくに魔力を貸していないのでバレバレだ。少女はあざら笑う。天空の男は淡々と敵を視認し、巨岩砲撃を続けた。地面が抉れ上も下も目がいかぬ中、木陰に隠れた。トウカは言う。
「まずどっちをやればいいのじゃ?!」
「一先ず!!地上はお前がやれ!!ワシはあの男をやる!」
「承知!!」
2人は息を合わせ、同時に木から飛び出した。トウカはそのまま一直線に飛び少女に回し蹴りを喰らわせる。少女は腹の一撃に思わず嗚咽を吐き吹っ飛ぶ。木々に直撃はしたものの、なんとか存命していた。畜生の様を見て、トウカは嘲笑う。少女は戦闘に飢える火龍を見てまた楽しげに笑う。互いに惹かれ合ったのか、両者共に向かう。少女は杖で地面を撫で上げるように詠唱する。
【関数術式】
刹那、地面が棘状に隆起し、トウカの目を突き刺さんとした。トウカは身体を捻らせそのままバク転し彼女を顎から蹴り上げる。蹴られた箇所が火傷を負ったように熱い。だが少女はトウカを見据えたまま鋒で彼女を突く。肩を刺されたトウカは微かに顔が歪む。なるほど小娘にしては良くやる。トウカは距離を取る。流石にこれではキリがない。トウカはセナを一瞥する。
セナは水を弾丸のように噴射していた。男はそれを空中に留まったまま防御結界で弾く。セナは下から睨みつける。そしてすぐさま地面に手を当てる。男は最初不思議そうに見たが、突如その地面から幾重の水が押し寄せる。男は少しそれを凝視したがなんてことはない。軽々と弾いてしまった。流石にこれもダメか。にしても奴め、虎視眈々と見下ろす割には結界が硬い。流石はと言ったところか。だが、じっとその場にとどまるのが不思議でならなかった。本当に飛べるなら、そのまま迎撃も出来たはずだ。それに、やけに右側が弱い。
「まるでその場にしか飛ぶ事を許されん鳥の様じゃ。」
セナは閃いた様に笑う。そして殴り合いをしているトウカが距離をとったタイミングで叫ぶ。
「トウカ!森を全部燃やすのじゃ!!!」
呼ぶ掛けられたトウカは少しセナを見た後、理解した様にニカっと笑う。
「単純で助かるのぉ!!」
トウカが拳を地面に叩きつける。すると、辺りが熱気に覆われる。地面の水蒸気も蒸発し、視界が覆われる。セナは暑そうにパタパタと服で仰ぐ。だがすぐさまニカっと不敵な笑みを浮かべると、また右手の人差し指と中指のみを立てる。狙いが定まった時、セナの眼光が鋭くなり、瞳孔が細くなる。瞬く間に四方八方から水が噴射される。雲海のように地面が視認出来ない。男は結界を展開する。
ビュッッッッ!!!ガーン!!!
雲海の中から更に勢いよく水が噴射された。結界に当たった時、男の結界はガラスの様に割れた。そのまま吹き飛ばされた男は焦燥の滲んだ顔をした。だが、男は巨岩をセナにぶつけつつ、何故かトウカでも誰でも無い方にも飛ばしていた。
「阿呆めが!!」
ビュッ!!!!ドン!!!!
また水圧が男に発射される。男は結界をなんとか展開するも、耐えられず地面に墜落する。撃ち抜かれた鳥のように無惨に落ちる男を見て、セナは勝ち誇ったように笑う。
「やはり、その場でしか飛べんか!人間め!」
トウカは蒸気でなにも見えない。だが、龍として魔力は察知していた。攻撃するなら速度が重要。彼女は姿勢を低くし、脚に力を込める。
––––––ビュン!!!!
「そうもいかんかぁ!!」
風を切り、鋒が飛んでくる。トウカは身体を反らして避けると、突き技を繰り出した小娘の顔が下から見えた。殺しを楽しむ外道の面構えだった。トウカはまた拳を繰り出すと、小娘は横に避けて言う。
「真っ直ぐすぎてわかりやすいんだよね。」
ゴスッッッ!!!
小娘はトウカの腹目掛けて槍の柄で殴り飛ばす。トウカは流石に堪えた。軽く悶絶するも、負けじとまた焔で蒸気を出す。
「小細工は得意なんだぁ〜すごいね。」
トウカは思いっきり拳を小癪な小娘の顔面目掛けて繰り出す。だが単純な攻撃を小娘は生意気にも躱わす。
「ダサっ。」
小娘は嘲笑する。だがトウカも大きく嘲笑う。
「お主もな。」
「–––––?」
小娘は一瞬何のことか理解できなかった。だがそれはすぐに嫌な予感として現れた。彼女の右背後から、何か風のようなものを感じた。ふと見ると、獣の形をした人間がいた。白い長髪の猫だった。彼女は白銀の剣で小娘の首を斬ろうとしていた。彼女も反射的に右腕で顔を隠す。だが奴は気にせず腕を斬った。妙だ。力を込められた感触はしなかった。まるで撫でられてようだった。白猫がザザザと滑りながら、火龍の元に戻る。彼女は腕を見る。千切れてはいない。単に撫で斬りにされただけだ。だが妙だ傷が深い。血が止まらない。なるほど、あの剣、西とは異なる形をしている。両刃でもなく、そこまで刀身も長くはない。アレが東の剣か。
トウカが元気よく言う。
「よく帰ってきたのう!!白猫!!」
「時間稼ぎありがとうございます!何とか塔を破壊してきました」
少女は絶望に伏した顔をする。おかしい。あの場にはもう何人か護衛担当がいたはず。自分達は攻撃を仕掛ける途中であいつらがいたため対処しただけだった。もしや、すでに皆殺しにでもあったのか?少女の頭の中は疑問と困惑で満ちていたが、今の傷ではどうにもできない。
「–––––帰ろ。」
少女は退屈になったような冷たい目でそう言い残し、蒸気に紛れてに紛れて消えてった。セナが言う。
「終わったか?!阿呆ども!!」
走り寄ってくるセナに、トウカは元気よく手を振って言う。
「終わったぞー!兄者!!!わしらの勝ちじゃ!!!」
にこやかに言うトウカのそばで、ティナも安堵の息を吐く。
「では、戻りましょう」
「おう!!!」
3人は傷の確認をしあいながら、呑気に帰って行った。
***
蠅の塔
少女は傷を強く抑えながら、森の中で墜落した男を探す。血が止まらない。流石に死ぬだろう。少女は男の魔力を辿る。微かなものになっているが、確かに蛇の様なねちっこい魔力を感じる。すぐそばの草の中だ。その方をかき分けていくと、疲れたように座る男がいた。互いに年齢は近いので馴れ馴れしく接している。男は彼女の傷を見る。一見冷たそうな目だが、少女は気にする事なく言う。
「心配してくれてるの?まぁ、気にしなくていいよ。そう言う試験だし。もう負けね私達。」
男は首を傾げる。少女は腕を握る力を強めながら言う。
「あの白猫が塔を陥落させたって言ってたんだ。やっぱり君の言う通り、君に前衛を任せればよかった。」
男は息を吐く。だがすぐに立ち上がり、少女の腕を掴んでボソボソと詠唱する。すると、血はだんだん止まっていく。傷は塞がった。少女は歩きながら、その癒えた傷をまじまじと見る。流石に跡は残っている。男は彼女の先を歩き出す。少女は呆れた様に大きな声で言う。
「もう皆死んでしまってるよー?」
彼女の言葉は彼にも届いてはいたが、歩みは止まらない。彼女はムッと呆れて息を吐くも、駆け足で追いかけた。少女は男の隣を歩く。大股だった男の歩みは彼女が隣に来ると一気に小さく遅くなる。少女は1人だけで話し始める。
「あのチーム異質だよね。特に獣人の方。」
男は頷く。少女は急に興奮して言う。
「やっぱり!?そうだよね!あんなに魔力消せるのは変だよ!!」
軽々しく話しているが、2人の心境はあの獣人への恐怖心が残っていた。魔導士として長く鍛錬をして来た2人の意表を突くほどの実力、アレは最早人間では到達できないだろう。そんな直感が、2人を支配していた。
塔に戻ってた時、2人は驚愕した。
「お帰りなさいです!!怪我とかしてませんか?」
塔のそばから、金の腕章をしたリリパッドの青年が走り寄ってくる。他にも皆いる。心配そうに2人を労っている。少女は目を丸くして言う。
「陥落したんじゃ––––?」
その時、リリパッドの青年が首を傾げて言う。
「陥落もなにも。誰も来ませんでしたよ?それよりも、聞いてください!!僕達、1次突破したんですよ!!」
2人は困惑で空いた口が塞がらなかった。もしや、あの白猫、別の所を陥落させたのか?2人の曖昧な確信は、合格の安堵に何となく流れていった。
***
ドラゴンの塔に戻った時、ウラドは疲れたように塔のそばで座り込んでいた。ティナは心配そうに耳をパタパタとしながら駆け寄る。
「怪我してませんか?」
ウラドは塔にもたれかかり言う。
「大丈夫、攻撃はあったけど、何とか撃退した。」
「よかったです。」
ティナが安堵したように微笑んで言うと、ミフェナが大きく息をはいて言う。
「何とか、一次試験は合格ですね。よかったです。」
「では、戻りましょうか!!」
ティナは指輪を一回転させると、光に包まれる。双龍はとっくに帰ったのかもういない。静寂に包まれる中、ミフェナは疲れで虚無になるウラドを見ながら淡々と言う。
「良いのですか?もう解除しても。」
「あぁ頼む。」
ウラドは力が抜けたように言う。ミフェナが杖をトンと叩くと、辺りはホログラムのように歪み別の風景となった。血溜まりが広がっている。人数は5人、2チームに相当する。ウラドは疲れ切ったように、呆れたように掠れた声で言う。
「2チームからの総攻撃は辛かった。」
「まさか地図の配置が異なるとは。」
「あぁ。ギャリケーは本当に性格が悪い。」
「はい。本当は北に3つ南に2つでしたね。」
「まさか、僕の固有魔法を改造するとは。本来ならできないはずだ。」
「いえ、ウラドさんの固有魔法そのものをどうにかすることはできません。ですが、内容を聞いて閃いただけです。私の術式範囲を広げたまでです。」
「良い才能だ。」
「にしても不思議です。この惨劇、わざわざ隠さなくても、そこまで酷いものでもありませんよ?」
「まぁ––––僕が苦手なんだ。」
「術師で苦手なのは珍しい。大抵はこの様子を見た後でも寝れていますよ。」
「–––––昔を思い出す。」
「昔––––?」
「あぁ–––––もう帰ろう。」
「––––そうですね。」
2人は淡々と静かに揺れる木々と風の中、指輪を回した。光がパッと明滅すると、そこには誰もいなかった。
試験が終わり、合格者は広間に集まっていた。皆土まみれになっており、野心の目は冷め切っている。ギャリケーは淡々と壇上の上で言う。
「皆々、ご苦労。ここにいる40名は1次試験合格とする。2次試験の日程は後日決まり次第連絡する。では解散。」
彼の一声で、魔導士たちは一斉に帰路を辿る。ティナもウラドも宿のベットに座った瞬間、疲れが一気に噴き出す。もう2日は動けまい。2人は風呂にも入らずそのまま眠ってしまった。




