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Episode48・(Waka. Misaki mother Side)

和歌、祥子のお話がしばらく続くかと思われます。





 大学から千歳家に訪れてから、

和歌は内心に警戒心を佇ませながら、

ぽつりとぽつりと少しずつ語り合う。




 和歌の話には全く隙がない。

母親が外資系会社勤務という事で、転勤族で海外に居た事、

キャリアウーマンである母親に憧れ、通訳士を

目指して母も卒業した最難関である外国語学部 国際文学・語学学科に入学した等。


 何処か機械的に聴こえるかも知れない。

けれどもこの傷だらけの心を開く事はない。



 祥子に写った和歌は「自立心と芯を固く持った才女」。

のほほんと何処か呑気で自覚に欠けている自分自身の

一人娘とは正反対の性格と思考の持ち主だ。


 はっきり言ってのほほんと何処か呑気で

あまり千歳家の令嬢として自覚がない様に見える美岬と

和歌を比較してしまい、自然と嫉妬に駆られた。


 本当の令嬢なのは娘なのに。

水瀬和歌は令嬢でもなんでもないのに………。



(全部、真似っ子)


 和歌は、自身の事をそう思っていた。

12歳で自身の自我というものが欠落し、

幼い頃の夢と言えば聞こえはいいが、

その目の前のレールは途切れている。



所詮は憧れていた母の背中を追い掛けている、

機械的な人形に過ぎないのだ。




 美岬の話を聞いた所によれば、水瀬和歌の成績は常にトップ。

外国人の教授からも一目置かれている、という事だった。


 大学1回生にして

外国語学部国際文学・語学学科の

学業優秀賞にも表彰されたと聞いている。




 常に落ち着いた声音と、低姿勢の態度と面持ち。

和歌と話を交わす度に、時間を過ぎていく度に

彼女は博識ある頭脳明晰な人物だと痛感していく度に

内心、祥子は苛立ちが心の中で煮え(たぎ)っていた。


____そして、疑問がもうひとつ。



(…………どうして、眠らないの?)




 和歌に差し出したダージリン、

ティーカップには強力的な睡眠導入剤を入れている。


 薬の常習者でなければ、身体には免疫がないので

紅茶を飲めばすぐに眠りに落ちてしまう筈だ。

実際に、和歌は紅茶を口にした。


____夫には元恋人が心の中には居座っている、

自分自身には勝てないと悟り、夫婦仲が冷めていた頃から

千歳家に重責に押し潰された事も重なり、

祥子は安定剤や睡眠導入剤を隠れて服用する様になっていた。




 祥子には、確かな“計画”があった。

それを行動に移すには、

最初の行動に、和歌を眠ってもらうしかない。

なのに彼女は眠る気配や、その素振りも見せない。


 千歳家に和歌が訪れて一時間が経過していた。

外はいつしか茜色の空が伺える。

結局、祥子は根を上げてお手上げになった。





 「………ありがとうございました。

言葉に甘えてしまい、

長くお邪魔してしまう形となり申し訳ございません」

「いいのよ。わたくしから誘ったのだから…………

美岬とのお話を来て良かったわ。ありがとう」


 ティータイムが終わり、和歌は静かにお辞儀する。

背に流れたさらさらのストレートの髪が、はらりと落ちた。

引き締まった口元には、淡い柔和な微笑みが浮かんでいる。


 あまり表情が変わらないせいか、

同一人物ながらも、微笑みを浮かべた彼女は新鮮の様に伺えた。




「送るわね」

「……いえ。此所までして頂いて申し訳ないです。

…………私は大丈夫ですから」

「そう?  じゃあ、玄関まで送るわね」

「…………はい。ありがとうございます」


祥子に続く形で、和歌も後ろに付いている。

クラシック調の廊下を歩いていると、

“ある二人の人物”に鉢合わせした。


____美岬と、賢一だ。


美岬は、和歌を見た瞬間、目を丸くして驚いている。

賢一は平常心だが妻と一瞬、合った視線はピリピリとしたものだ。


“賢一の自白”の話し合いを経て

賢一と祥子の仲宜しくはなくはギスギスとしている。




____しかし。








「____おや、君は」




 凛とした声で、賢一は呟いた。

賢一に注がれている視線は、祥子の後ろにいる、

端正な顔立ちをし黒髪ストレートロングヘアの女性だ。


 所見で見た所、

上品で人形の様な深窓の令嬢、という印象を与えた。

見慣れない人物だ。………だがその面持ちを見た刹那、固まってしまう。


(______似ている)


 


この心に、引っかかっている、“彼女”に。

 


 国会議員・千歳賢一を目の前にして驚きながらも

和歌は深々に静かにお辞儀する。



「お母様、和歌が要らして居たの」

「ええ。わたくしが呼んだのよ。

美岬と仲良しだからと聞いて一度、お話してみたいと思って」

「そうか。美岬の友人……なんだな、君は」

「はい」


 平常心を装う賢一に、微笑する祥子。


(____動揺、するでしょう?

わたくしよりも、愛しい女の姿と重ねているの?)



「ごめんなさい、お邪魔しておりました」

「もう帰るのか?」

「……はい。母が心配しますので」

「お母様、あたしも和歌をお見送りするわ」



 賢一の問いかけに、冷静に返す和歌。

礼儀正しく物腰の低い佇まいは、令嬢を思わせた。

しかし和歌を見た瞬間に、賢一は何故か複雑化した感情を覚えた。


(この世には3人似ている人間がいるという話があるように、

ただの他人の空似だろう?)


 他人の空似。

だって、彼女はもういない。








 茜色の空。

玄関までが、話をしていたら門まで二人は送り出した。


 

「楽しかったわ。

これからは和歌ちゃん、と呼んで宜しいかしら?」

「はい。………長時間、お邪魔致しました」

「気を付けて帰って?」

「ありがとうございます。…………失礼致します」



お辞儀した後にそのまま和歌は、真っ直ぐ歩き出す。

その凛とした姿勢とストレートロングの髪が揺れた。

美岬は忘れかけた言葉を微笑んで告げた。


「また大学でね、和歌」


 美岬の方に振り返ると、和歌は小さく手を振り微笑んだ。






(……………今度からは

警戒しなければならない。この家にいる限り)







 和歌はこっそり心の内で、そう呟いた。


しかし何故、

夫人に差し出された紅茶に睡眠導入剤が入れられていたのか。

それは不理解で和歌には心当たりのないものだった。






 自分自身の部屋に帰った祥子は、

苛立ち紛れに、机を軽く叩いた。

自分自身の予想通りに、計画通りには行かなかったからだ。


 その時、ようやく気付いた。



 和歌に差し出した紅茶のティーカップは、

紅茶が、波紋を写して揺らめいて残っている。


 口にして形跡すらないのは、

それは殆ど口を着けていなかった証拠だ。


 (やが)て、祥子は和歌が座っていたソファーを

血相を変えて粗探しを始める。

その瞳は血走り、充血し始めていた。










 まだ夕暮れならば、前を向いて歩ける。

千歳家から飛び出した和歌は帰路の道を歩きながら

美岬の母親への疑問と警戒心と不信感を抱き始めていた。




 警戒心が強い和歌は、失礼と思いながらも

お呼ばれされた家先にて出されたものを、絶対に口にはしない。


___また同じ過ちを二度も繰り返したくはないからだ。


もう誰かが仕掛けた罠には嵌まりたくはない。




 しかし

何故、初対面の他人に睡眠導入剤を入れられていたのか。

けれどもそれは、あまりよく思われていなかった証拠だ。




(…………美岬は、私が嫌いなのかも)


 娘の言葉を母親は、母性故に信じる。

そして娘の思いをまるで自身の想いの様に受け止めるのだ。



 ただ確かなのは、和歌は美岬にも、

美岬の家族にもよく思われていないのだと、

何処かでそう思っていた。



祥子の思惑とは?

いよいよ和歌が警戒心を……。

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