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Episode16・(Misaki Side)





 自由な身になりたい。




 何ひとつ不自由のない生活の中で、

何故か心の片隅でそんな事を思っていた。


 代々から続く威厳のある家系。

子供は生まれ落ちる場所を選べない。

そんな事を強く意識しているからか、常に得体の知れない息苦しさを感じているのは否めない。


 きっと、普通の女の子でいられたら

父親や千歳家の事など、気にせずに生きられただろう。



 時折にして目に映る周りの人々が、

和歌が、羨ましいと思う気持ちが否めない。

凡庸な人間を見詰める中で、優雅な孤高の花は一際、憂いを浮かべていた。



 何処かぼんやりとしているのも

気長に構えている優美な立ち振る舞いも。

己にはない要素を持ち合わせている彼女の事を気にせずにはいられない。




(普通の女の子、ならこんな感じなのね)



 もしも自分自身が、

一般家庭で生まれ生きる事が出来たのなら、

もっと自由に息が出来るのではないか。

千歳家、そして美岬は始終、誰かに見張られている。

沢山の使用人、SP、設置された監視カメラ。



 常に誰かが、誰かを見張っている世界。

“見えない不自由”は、何処かに存在するのかも知れない。

優雅に心の鬱憤の溜息さえ吐けない、鳥籠のようだ。



 美岬の頭の片隅には、

常に父親の事、威厳ある千歳家の存在がある。

何時であれど無視は出来ない。



 これは何不自由のないの生活の代償とも言うべきか。

一つ一つの行動を起こすのも千歳家の存在が片隅にある。



 威厳ある千歳家。

国家議員である父親の顔、千歳家の名家というブランドに

泥を塗らぬように気を付けて生きてきた。



 けれど、その縛りは息苦しくさせる。

自分自身がこうして愛情を求めて、夜を彷徨い歩くのも

ある意味、千歳家へ、そして父親への反発なのかも知れない。



 温室の箱庭のお嬢様、

千歳家の常識しか知らない。

周りの大人も知らせないのは、可憐な花が毒を知っては駄目だから。



 そんな世界しか知らない美岬は、

周りを人間観察する癖が備わっていた。

 



 自由のある人達はどう過ごしているのか。

友人達は平然と、親への不満を躊躇う事もなく口にする。



親に対して不満はあっても、当たり前かのように

それを(おおやけ)に吐き出すのは、

美岬には呆気に取られ驚いた事がある。



 美岬にとって

親は気高い存在であり、不満を口にするなんて言語道断だ。

そんな事を口にしたら怒られ、泣かれ、宥められる。


 

(皆、自由そうでいいわね)



 浮かんだ感情が今なら、嫉妬なのだと言える。

周りは親や兄弟の不満や愚痴を素直に言える環境に居るのだ。

たとえ、それを口にしてもお咎めはないのだから。



 初日に親しくしてくれた女子達も、

やはり自分自身の身が可愛いのか、

徐々に距離を置き始め、今では美岬とは疎遠となった。


(一人にしないでよ)


 徐々に離れていく人を

追おうとしても、重たい千歳家という足枷が阻んだ。

離れていく背中をただ見詰める事しか出来ない。




(やっぱりあたしとは、誰とも関わりたがらない)




 知っている。

自身の名前を明らかにしてしまえば、周りは離れていくこと。

千歳美岬のバックボーンを知れば、周りはいい気はしないこと。



 気に止めない筈ではないだろう。

本人は気に留めなくとも

その親などは関わるなと言うのかも知れない。

千歳家では中々、人の人選など、自らでは出来ない。


「自身と釣り合う人物と付き合うように」

「子女に相応しい人物は大人が選ぶ」



 彼女の意思に関係なく

『優秀な人材』が選ばれ、美岬の脇に綺麗に備えられていく。

穢れを知らない潔癖な人が、気付けば傍にいる。





 美岬とは違って、

彼女達は人の好き嫌いを選べ、

簡単に距離を縮める事も離れていく事が出来るのだから。

身内の愚痴や悪口を簡単に口にする事すら、出来るのだから。

それは、なんて贅沢な美酒なのだろうか。


(あたしが、いるべき場所ではないのかも知れない)






 何よりも孤独を恐怖心を抱いているのに

現実は彼女を独りぼっちにしたがるのだ。

彼女の孤独に苛まれた感情を見る事もせずに、置き去りにしていく。



 本音を言えば美岬は他者へ依存症体質だ。

純粋無垢な箱入り娘故に、外界にあまり不慣れな面もあってから

その優しい言葉を安易に受け入れては信じ、

相手に惹かれては依存してしまいそうになる。




(冷たい孤独は嫌よ。孤立したくはない)



 今では自分自身に変わらず接してくれるのは

水瀬和歌、たった一人になってしまった。




 しかし正直言って

和歌が一人娘だと聞いて驚いた事がある。

そして彼女が母親と二人三脚で生きてきたとは意外だった。


 優雅な物静かな出立ちもあり一見、

美岬にとって自身と同等のお嬢様の様に見えたからだ。


 人は見かけに寄らない。

それを感じさせぬ、和歌の別け隔ての態度。


 それらは今だって微塵も変わらない。

周りからは冷たい、人間味のない人形、

言いたい放題言われている。それでも彼女は言葉を振り返らない。



 和歌の一歩、距離を置いているものの、

何時だって別け隔てのない態度で接してくれた。

ただ素っ気ないないだけ。物言いが物憂げなだけ。

現に初めて別け隔てのない優しく接された時、

思わず和歌に依存してしまいそうになった。



 けれど彼女はまるで

自分自身の思惑を察知しているかの如く、

まるで儚い霧のように消えていく。


「…………忙しいから、ごめんなさい」



 いつもの決まり文句はそれだ。

和歌はいつも、そう呟いては消えていく。

近付こうとすれば、不思議と自然と距離は開いていく。


 気さくに話している振りをして、和歌も

何処かで美岬の後ろにある存在を気にしているのかも知れない。 

やはり何処かで自分自身のバックボーンを

気にして、悟られているのかと気にしてしまう。

その後ろめたさに影を落とした伏せた瞳をしている事を。


(やっぱり、和歌もあたしには関わりたくないのね)



 和歌が周りの人間とひとつだけ違うのなら

その冷たくされたら追いかけてしまいたくなる態度と衝動に駆られてしまう。

本人の気質なのか、周りがそうさせているのか。



 まだ和歌が接点を持ち、

関わりを持っていたならば、

美岬の愛情依存は少しでも抑えられたのかも知れない。


だが、和歌は常に忙しい。

母親と二人三脚で慎ましやかに暮らしている和歌には和歌の予定があるだろう。


 独りぼっちの

冷たい孤独を感じる度に、愛情に渇望している、

孤独になりたくない、その感情が恋愛依存症の

美岬を夜の世界へと走らせた。




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