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Episode12・(Ren Side)



 とある美容室のモデルルームには

カメラマン、美容師、少しばかりの関係者に緊張が走っていた。


 


 カメラマンがカメラを構え神妙で厳しい表情を浮かべ

レンズ越しに見詰める先には、一人の長身痩躯の青年がいる。



 成り響く続くシャッター音。

望まれたポージングの姿勢、目線を向けながら

壁に背を預けて微笑む青年がいた。


その中性的で端正な顔立ち、ミステリアスな雰囲気。

甘さと苦さ、どちらも同居する容姿端麗さ。

淡い笑みを微かに浮かべるだけで青年は美麗だった。




 理知的で真剣な表情。

時折覗かせている哀愁。


 今日は、美容室のカットモデルの仕事だった。

同級生の兄が美容師だった事、そのカットモデルをしていた事がきっかけだった。



 今ではこの美容室の専属のセルフモデルを

勤める青年は、此方の求めるものを、

ありのまま、自然体のままに出してくれる。



 今回の撮影は、

今日は今年流行りになるであろう、

髪色とヘアカットした髪型を広める為のもの。


 店内の雑誌カタログに載るものだけを、

(おおやけ)にならない事を条件さえ此方が呑み込めば

青年は快く、此方の承諾を飲んでくれた。


「川嶋君、いつも、ありがとうな。助かるよ」

「いえ」



 偽りの愛想笑いと

ポーカーフェイスを浮かべる事は、もう廉にとっては癖だ。

あまり自身の感情を、犯罪者の女の息子と悟られない様にと

染み付いた癖が身に付いていた。


 けれども

内心は『川嶋』と呼ばれる度に、何処かで怯えている。

もし此処に今いる誰か一人でも、廉の素性を知ったとしたら

態度はどうなるのだろうか。


 水瀬家を離れ自立してから、

どれだけ伯母の盾があったのか、守られていたのか。

痛い程に身に染みている今日この頃だ。





 水瀬家に引き取られた後の廉はかなり遠慮深かった。



「廉君、遠慮しなくていいのよ?」

「いえ、これくらいの事させて下さい」



率先して水瀬家の家事や炊事をする。

廉の家事スキルは家政婦も圧巻される程の腕前で

和歌も、和歌の母親も驚いていた。


 代わりに常に笑顔で、朗らかでいる事に努めた。

たとえ昔からの馴染みの人でも本心を知られたくない。

心労をかけたくない。


 いつの間にか自然と身に付いたポーカーフェイスは、

本来の心の悲しみの感情や抉られた心の傷を隠す盾であり武器。

母親が罪を犯し、父親は息子の存在を忘れた。



 それは両親を一度に無くしたに等しいだろう。

だが、そんな悲しみの感情を悟られない様に

自分自身の感情を隠し過ごした。


 だが、伯母、和歌の母親である杏子は気付いていた。

素直で無邪気だった優しい少年が、今はかなり遠慮して

昔からの、彼の軸である性格が無くなり消えつつあると。


 それは、廉が、廉でなくなってしまう。



 両親が自分自身の元から去り、

特に水瀬家に引き取られてからは、

廉が抱き、常に付きまとう感情はたった一つ。


(罪人の子供にでも、何か償いは出来ないだろうか)


(そもそも“償い”とは、なんだろう?)



 廉の頭の中は、その事ばかりだった。



 廉が求める償い。

その償いの意味を知る術もなく

行動で示せない事が歯痒い。



 大人達は教えてはくれない。

まるで、自分自身で探せと言わんばかりに。



 自分自身に出来る事ならば、何だってやるけれども

そんな中で償いの意味は誰も教えてくれず、

ただ形のない意味を求めて過ごした。



(これは、或いは一種の執着かも知れない)




 廉は、そう思った。

償いを求めて生きているけれど、

殺人を犯した女の子供に、償われて何になる?



 自分自身は、穢れた身。

そんな自分自身が、躍起になっていても

単なる自己満足に浸りたいだけではないのか。


 罪滅ぼしというかの様に、

学校では常にトップの成績を納めていた廉は

有名私立大学附属高校から声がかかり

特待生として入学した。




 高校生になった頃から、

廉は伯母に隠れて理由を付けてはアルバイトをする様になった。

そして稼いだお金の一部の大方を水瀬家の為に貯金していた。



 あの時、孤児になっても可笑しくなかった。

周りから犯罪者の女の息子、と蔑まれ哀れみを買いながら

生きる事をなっていたのは確実だったのに。


 そんな廉を救ってくれたのは、

伯母である杏子と和歌だけだった。


 伯母の仕事の関係で 

日本から遠く離れた他国で育った影響は大きい。


心のなかでは後ろめたい気持ちが難破している。

けれど後ろ指を指される事も冷たい冷遇を受ける事が

なかったのは、間違えのない二人の恩人のお陰だ。


 誰にも告げないまま

内緒で始めたアルバイトは和歌には悟られてしまった。

もともと急に従兄がいなくなる様になったものだから

怪しんでいたらしい。


 けれど気が知れている、伯母の娘である

和歌には話していた方が良いのかも知れない。



『これ以上、母さんにも和歌にも甘えられないよ』




 廉は微笑んで呟いた。

幸いか否か、伯母の仕事と自身のアルバイトの時間は被らない。

廉が初めていた伯母のフルタイムの仕事が終わり

帰宅するまでには帰れるアルバイトだった。


 母親が殺人者となり

父親の虐待からされていた自身に救いの手を差し伸べ、

別け隔てなく育てくれた和歌の母親の事を、

廉は自分自身の母親の様に、そして恩人だと思っている。


(これくらいしないと、バチがあたるだろう)





 廉にとって、実母はもういない。

父親と自分自身を裏切り、人生を狂わし壊した張本人。


 成長するにつれてそんな母親を、

思いたくないと軽蔑する様になったのが本心だ。

けれど彼女の事を忘れてしまえば罪も忘れてしまいで

駄目だと警告音が心を支配する。



 大学生になる事を勧められたものの、

早くに自立したかった廉は教師が推薦する

大学進学を押し切って、就職するの道に走った。




(こんな恩恵を、犯罪者の息子が受けていい筈がない)



 世の中は過酷だ。

廉は要領も良く、世渡り上手に生きていたが

殺人者の女の息子、犯罪者の息子、といつか明らかになるのは

時間の問題だ。


 償いの意味も

まだ見つけられていない廉にとっては

まだ遺族に合わせる顔もない。

償いの精神を持って、いつか遺族に詫びなければ

誠意は伝わないに決まっている。


 (まだ誠実さが足りていない)


(けれど遺族にとって俺が現れてしまう事は

遺族がまた苦しみ、葛藤するばかりになってしまう)

 

 遺族にとって、原因の根幹である女の

息子も夫も幾ら憎んでも憎しみは止まないだろう。

そして苦悩を思い出させてしまう。


 きっと自分自身が同じ立場でも、

相手を憎み許さないであろう。

だから


 対して、のうのうと過ごす事は

赦されない、赦されてはならないのだと感じる。

水瀬家から救いや恩恵を受けてもいいのだろうか。


 否。

苦悩の海底で溺れているのがお似合いだ。

ずっと忘れない様に呪いをかけ続けてきた。



 (俺に、幸せになる権利は微塵もない)


 (幸せになって良い筈がないんだ)




 犯罪者の息子というレッテルを抱えてきた10年間。

両親が消えて、母親が犯した罪の重さを知る度に

廉は心からそう思うのだ。



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