Episode99・(Ren Side)
何気なく
TVを付けると丁度、川嶋舞子の件で報道していた。
川嶋舞子の生家に群がる報道陣を見て
廉は凡庸とした気持ちを抱いた。
(___川嶋家って、こういう風な家だったんだ)
江戸を連想をさせる立派な日本家屋。
その日本家屋は流石、名家と呼べる日本家屋は
威勢を佇ませながらも現在何処か物寂しく、ひっそりと影を落としている。
そして
激しいメディアスクラムにより騒々しく彩られている。
家には誰もいないのか、居留守を使っているのか。
けれども、こんなに川嶋家を他人行儀の様に、
川嶋舞子というものに廉が見要られてしまうのは理由がある。
川嶋家の生家、
川嶋舞子の実家を初めて見たからだ。
父親は婿養子だったが、
川嶋家・舞子の実家に向かった事は
廉の32年の人生で一度も記憶にないのが事実である。
10年前は甥の心情に気を遣った杏子により
事件の報道やメディアスクラムとは無縁で、TVから入る雑音は一切遮断されていた。
同時に、杏子の転勤が海外支社に決まっていたからこそ
当時の報道では川嶋舞子の夫の現状を載せる事が出来たものの
息子は行方知れずで行方不明状態となったという。
あの頃が
箱入り息子状態だった事は否めない。
「ええ、被害者は加害者の息子である
川嶋廉さん、32歳。
危篤状態で意識不明の状態が続いており
現在も都内の病院にて入院しているとの事です」
現状は錯綜しているらしい。
廉は和歌と杏子の気遣いにより、こっそりと退院したのだが
まだ自分自身は危篤状態の意識不明、というのが世間の認識だ。
“川嶋舞子容疑者が、
20年前の放火殺人を犯した時、
今回の通り魔の事件の被害者となった息子は僅か11歳だった。
世間から誹謗中傷の的となった
息子を再び傷付ける川嶋舞子という女は、どんな鬼畜だろうか___”
報道番組は、川嶋舞子の特集を行っている。
祖先は武士がおり、
その家系は誰もが血統を引く重んじる名家だった。
その一人娘は非常に優秀で非の打ち所がない娘だったという。
マスメディアから逃げる様に、
こそこそと近隣住民は足早に去っていく。
しかし狙った獲物は逃がさないと言わんばかりに記者や、報道陣は逃がさない。
川嶋家のマスメディアが包んだ喧騒がなんとも滑稽な映像だった。
しかし、インタビューに応じた主婦の言葉に目を丸くする。
『え? 舞子ちゃんに、息子さんがいたのですか?』
と、まさに奇妙な物を見る様な、聞いた様な口振りをした。
確かに川嶋家に足を運んだ記憶は一度もないから
近隣住民が周りを知らないのは当たり前の様に感じて当然でも、
祖父母すらも周りに孫の存在をひた隠しにしていたみたいだ。
………まるで、後ろめたい事があるかの様に。
(僕の存在は誰にも知られていなかったんだ)
嘲笑にも似た感情で、
廉は微笑んで、自身を誹謗中傷する。
否、誰にも知られたくない腫れ物的な存在だったのかも知れない。
(………こんなに、ひた隠しにしたいのは、
やっぱり____)
脳裏の片隅、霞の向こうに、あの疑念が霞む。
『20年前でも大変驚きましたよ。
それなのに、今度は息子さんを殺めようとするなんて………』
『あの賢い舞子ちゃんが、そんな事をするなんて』
近所の貴婦人は、そう告げた。
廉は、母親について、
川嶋舞子という女性像を初めて知った。
けれど決まって秘密を共有するかの様に
川嶋舞子の大人になってからの姿や人物像は
頑なに口を嗣んでいる。記者が食い下がっても
問い詰めてもそれだけは口を割らない。
_____それは何故だ。
廉は思いもよらずに、過去の霞みが過去を思い出す。
そう言えば、
母親は自身の過去を語ろうとした事は一度もなかった。
そういう片鱗を匂わせて此方が発言しても、必ず父親にすり替えていたこと。
穏和で優しい母親が、
自らの過去をひた隠しにしていた事、
自分自身は川嶋舞子という母親を、女性を、
何も知らなかった事を今更ながら廉は思い知った。
近隣住民は皆、川嶋舞子に息子がいたとは
知らなかったらしい。
だからこそ、水瀬家に身を寄せて隠れているものの
自身に報道陣関係者、メディアスクラムが
無縁という事も辻褄が合った気がした。
最初マスメディアが視線を向けているのは、
「川嶋舞子の息子」ではなく「川嶋舞子の被害者」だった。
今になって川嶋廉が彼女の息子だと吐露され、
元は息子の存在が皆無、また、
20年前に川嶋舞子が起こした罪に関しても、
川嶋舞子の夫の所在は解っていても、
子供は居ない、または行方不明、としかされなかった。
事件後、廉が父親と過ごしたのはせいぜい1ヶ月程。
その後は現実を知った杏子が兄に絶縁同然を突き付けて
甥を引き取ったから、
“川嶋舞子の息子”を世間は見破れなかったのかも知れない。
水瀬家は当時、転勤族同然だったからこそそれ救いだったのかも知れない。
(あの人の目に、僕はどう映っていたんだろう)
誰も川嶋舞子か、
周りの大人に興味しかなかったのだ。
(………何を隠しているの?)
舞子も、過去に何があって、
皆、何かを隠しているのだ。
何か裏側があるのは、確実視すべきだ。
そんな中、
携帯端末に着信音が鳴る。
画面を覗くと見知らぬ番号。この物騒なご時世の現実に
スルーするのが明確だと思ったが、
廉は凛然とした態度で電話を受け取った。
(_____川嶋舞子の舞子の息子の存在、
それが世間に明らかになるなら、もう逃げも隠れもしない)
その行動は、無意味だと言う事だ。
「____川嶋、廉さん、の携帯でしょうか」
聞き慣れない余所余所しい低い声音。
通話口の男は、控えめな態度だ。
それにはい、と告げた刹那に電話の向こう側からは
息を飲む声がした。
廉のお話は一旦、休憩です。




