《番外編1》久遠のキツネマフラー
エイプリルフールなので番外編を書こうとしたのですが短編を思いついて投稿したので、エイプリルフールどころか冬間近の話ですが、どうぞお納めくださいm(*_ _)m
本編は明日から2連続投稿します。
冬も近くなった週末。
俺と久遠は徒歩で食料品の買い出しに来ていた。
大所帯なので買い物は手分けして行っているのだが、俺は必ず誰かと行くことにしていた。
つまりはちょっとしたデートである。
ちなみに今日の久遠はキツネ娘モードなので毛糸のキャップに狐耳を隠している。
久遠に完全な人間の姿になれるかと聞いたところ、短時間ならなれるらしい。
耳の位置と尻尾の有無くらいの違いしかなくてもエネルギー消費が違うのだな。
「レイジよ。やはり荷物は『通い妻のお守り』で運ぶべきじゃろう?」
確かに俺の両手は買い物袋で塞がっている。
しかも片手に袋を4つずつ指一本一本に通して持っているのだ。
「1つくらいならわらわが持つのじゃが、これでは手もつなげないのじゃ」
だからといって片手で8袋持とうとすると買ったものが潰れそうだからなあ。
「でもお守りで帰宅すると二人の時間がすぐ終わるけどいいの?」
「それは困るのじゃ」
「ならこれでいいじゃない⋯くしゅんっ」
「おお、レイジでもくしゃみをするのじゃな」
「いくら体が丈夫でも寒さを感じたらくしゃみくらい出るよ」
「⋯そうじゃ!いい事を思いついたのじゃ!」
久遠は周りを見回して誰も見てないことを確認してからポンという軽い破裂音ともにキツネの姿に変化して、俺の首に巻きついた。
「どうじゃ?キツネのマフラーは暖かいじゃろう?」
「おお、本当だな!」
久遠の体温が直に感じられて暖かいだけでなくいい香りまでする。
「我ながらナイスアイデアじゃの」
そう言いながら久遠は可愛らしい前足で俺のほっぺに触れてくる。
「ここも冷たいのじゃ。ここもじゃな」
あちこち触ってくれたり向きを変えてくれたりしてまんべんなく温めてくれようとする久遠。
その久遠のお腹がちょうど俺の口のところに来た時、
「すうううううっ」
「ひゃっ?!な、何をするのじゃ!」
「『キツネ吸い』だけど?」
猫吸いと同じ要領で久遠のちょっぴり野生っぽさのある良い香りを吸うと気分が良くなるんだよ。
「すうううううっ、すうううううっ。うーん、いい匂いだ」
「だ、駄目なのじゃ!外ではして欲しくないのじゃ、恥ずかしいのじゃ!」
そう言って久遠は飛び降りつつ人間の姿に戻る。
「ごめん久遠」
「全く困った旦那様なのじゃ」
「そういえば⋯久遠ってキツネになる時にその服はどこかにいくんだよな?」
「それどころか人間に変化する時に思った通りの服装に変えられるのじゃ」
「その服はどこから来るの?」
「わらわにもよく分からんのじゃが、着ていた服が消えて、新しい服になっている気がするのじゃ」
「荷物もそうなのかな?」
「バッグやポーチはどこかに行っている気がするのじゃ」
「それなら、この買い物もそのどこかにしまえないかな?」
「なんじゃと?!」
服や靴だけでなく小物やバッグまでどこかに消えてキツネの姿になり、人間の姿になる時に元に取るのだとしたら、ほとんど異世界ものの話に出てくるアイテムボックスと変わらないのでは?
「では試してみるのじゃ」
久遠は右手に買い物袋をひとつ持つとキツネの姿にポンという軽い音を伴って変化する。
「買い物袋も消えたぞ!」
「本当じゃ!」
久遠が手に持っていた買い物袋はどこかに消えてしまっている。
「では、元に戻るのじゃ」
ポンっ
「はわっ?!」
「危ないっ!」
キツネ娘の姿に戻った久遠は右手に消えていた買い物袋を持っていたため、危うく転びそうになって慌てて支える。
「荷物の中身は⋯無事だな」
「本当なのじゃ!でも一体どういう仕組みなのじゃ?」
久遠が知らないなら俺に分かるはずもない。
「アイテムボックスみたいに異空間に入ってるのかもな」
「ううむ。全く分からないのじゃが、とりあえず買い物袋を全部持ってやってみるのじゃ」
地面に置いた買い物袋に久遠は指だけを掛けた状態で久遠はキツネに変化する。
ぽんっ
「おおっ?!」
なんと買い物袋は全て消え去った。
「全部消えたのじゃ!」
「元に戻ってくれるか?」
「わかったのじゃ!」
ぽんっ
久遠がキツネ娘の姿に戻ると、買い物袋は地面に置かれていて、その指一本一本に持ち手を引っ掛けた状態になっていた。
「これって元に戻る場所が悪かったら久遠の指が折れるかもしれなかったな」
「よく考えたらそうなのじゃ」
「ごめんな久遠。考えが足りなかった」
「わらわも一緒に試していたから謝らなくてもいいのじゃ。それより荷物を異空間らしき所に仕舞うにはキツネの姿になるしかなさそうじゃの」
それだと手はつなげないか。
「それならもう1回襟巻になるのじゃ。でも吸うのは禁止じゃぞ」
「吸うのは禁止だな。わかった」
「息をふきかけたり変なことするのも禁止じゃ」
うっ、バレた?
「荷物はわらわの異空間にしまうのじゃ」
久遠は自分の足元に買い物袋を置き、
「これは全部わらわの荷物なのじゃ!」
と宣言してからポンっとキツネの姿になる。
「おっ、買い物袋が全部消えたぞ」
「やはりそうじゃったか」
久遠が直接持っていなくても自分の荷物という認識さえあればいいと考えて実践したのだな。
「でも手は握れないな」
「そんなことは無いのじゃ。ほれ」
俺の首に巻きついてきた久遠がひょいと可愛らしいキツネの手(前足?)を差し出してきた。
「なるほど」
俺は久遠の手を握るとその肉球の感触を楽しみながら歩いて行く。
しばらく久遠のキツネ襟巻をしたまま歩いていると、ピクッと久遠が身体を震わせた。
「どうした久遠?」
「あれを見るのじゃ」
久遠が指さした先には甘味処があり、行列が出来ている。
「今日はたった25人しか並んでいないのじゃ!」
「しか?」
普段は100人以上並んでいるらしい。
「寄ってもよいかの?」
「構わないけど、人気の無いところで元の姿に戻って荷物を出さないとな」
さすがにキツネ同伴で食べ物屋には入れないだろう。
「マフラーの振りをしておれば大丈夫じゃ」
「いや、さすがにバレるだろ?」
仕方なく物陰で久遠を元の姿に戻して荷物を両手に持つ。
「誰かに取りに来てもらおうか?」
「荷物を頼んでおいてわらわたちだけが楽しむのは良くないのじゃ」
「今度逆の立場になった時に助けてあげればいいじゃないか」
「なるほど、それもそうじゃの」
人目の無い物陰で久遠は元の姿に戻り、スマホで誰かを呼び出している。
「誰にかけているんだ?」
「⋯あっ、フィーネかの?わらわじゃ、久遠じゃ。それで頼みたいことがあってじゃな⋯⋯わかった、みやげはまかせておくのじゃ!」
それからフィーネが『通い妻のお守り』で来て荷物を持って帰ってくれたので、俺と久遠は二人で手を繋ぎながらのんびりと列に並んだのだった。
お読みくださりありがとうございました!
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