ともあれクラスメイトを鍛えてみる。
今回の連続更新はここまでです。
放課後。
俺はとりあえずさっき騎馬戦をやったクラスメイト4人を鍛えることにした。
「負けたんだから、約束は守れよな」
「くっ、好きにしろいっ!」
そう吐き捨てるのは4人のリーダー格で図体が大きいだけでなく手の指も太いのにあやとりが得意なジェイソン・ストレンクス。
「ジェイソンが従うなら俺たちも従うよ」
あきらめ顔でそう言うのはジェイソンと一緒に俺たちに声をかけて来た早打ちが得意なスネイル・スケイル。
「いつの間にそんな約束をしたんですか?リーダーが決めたことだから従いますけどね」
4人の中では一番まともそうで真面目そうなディスク・ギーニー。
「やだよー、さぼりたいよー、かえりたいよー」
何もしてないのにもう半泣きになっているのはロヴィ・ロヴィーダ。
「ねえレイジ。いったいどうやって鍛えるんだい?」
「とりあえず基礎体力かな?校庭を3周」
「「「「「少なっ」」」」」
ここの校庭は聖トランシルバニア学園のよりはずっと広いけど、せいぜい一周7、800mくらいだ。
「じゃあ、ついてこいよ!」
「え?レイジも走るの?」
「当り前だろ?ほら、はやても来いよ」
「うん、わかった」
俺は校庭に出るとその外周を走り始めた。
「そうそう、ゴールするまでに俺に抜かれるたびに1周増えるからね」
「「「「え゛?!」」」」
「じゃあ行くよーっ!」
「ほらほら、抜いちゃうぞー!」
「くうっ、この化け物めっ!」
「何言ってるんだよ?俺は正真正銘人間だからな」
そう言いながらジェイソンたちを軽々と抜いていく。
「これで3周追加だな」
「くっ」
「じゃあ、お先っ!」
「どうなってるんだよ、てめーは!」
「その速さおかしいだろ!」
「いったいどうやったら…」
「「「「逆立ちでそんなに早く走れるんだよっ!!」」」」
そう、俺はずっと逆立ちで校庭を疾走しているのだ。
「小学校の時、運動会の練習でマリア姉さんに『手押し車』を手伝ってもらったら手だけで早く走れるようになったんだよ」
「どんな手押し車だそれはっ!」
「どんなと言われても、普通に姉さんが俺の両足を持って、俺が両手をついて歩くだけだぞ」
「それでなんでそうなるんだよ?!」
「姉さんが時速60キロくらい出したからかな」
俺が早く手を動かさないと顔面で地面をこすることになったからな。
あれは本気で怖かったぞ。
「どんな姉さんだよそれ!そいつ人間なのかよ?!」
「朝の全校集会であいさつしたうちの生徒会長がそうだよ」
「あんな美人がおまえの姉さんで人外も驚くようなバケモノでお前の姉さんだと?!」
「いや、うちの家族はみんな普通の人間だから」
あといくら似ていないからと言っても俺の姉さんということで2回も驚くな。
「時速60キロで手押し車できる姉弟のどこが人間だってんだ!」
興奮したジェイソンは急に膨らみ始めた。
え?え?
「しまった、興奮して擬態が…ブヒ」
ぼんっとジェイソンの体が膨らみ、背もさらに伸びて、顔がブタっぽくなってしまった。
「ブタマンか?」
「レイジ、それは関西での言い方で、一般には肉まんって言うんだよだよ」
そう言いながら側転やバク転などで校庭を走って(回って?)いたはやてが追い付いてきた。
さすがアールズマン、回転技は得意なんだな。
「俺はブタマンでも肉まんでもピザまんでもねえっ!ハイオークだっ!」
「ああ、高級なガソリンの」
「ハイオクでも軽油でも灯油でもねえっ!」
ルーマニア語でこういうダジャレって通じるんだな。
いったいどう翻訳されているんだろ?
冗談はさておき、まさかジェイソンが人外だったとは。
「ブヒ、これでパワーアップだっ!」
ズシンズシンと走っていくジェイソン。
大きな腹が出て太っただけのように見えるが筋肉太りなのか足はさっきよりずっと速くなっている。
「お先にだぜっ!」
「ジェイソンずるいぞ!よーし、俺も!」
「ぼくも」
「ぼくだって!」
あとの3人もメキメキと体が変形して正体を現す!
スネイルは半魚人に。
ディスクはダークエルフに。
ロヴィは…下半身が蛇の魔族ってラミアだっけ?
「男性の場合はナーガっていうんじゃなかったっけ?」
「そうなのか。はやては良く知ってるな」
「違う!ぼくは『半蛇人』だ!」
「そのまんまかよ!」
そして3人とも速度を上げて走っていく。
蛇でも速度が上がるんだな。
「よーし、じゃあ俺も本気出すぞ」
「え?レイジってそれで本気じゃないの?」
「だって今やってる逆立ち歩きは水泳でいう所の『クロール』だからね」
「???」
「俺の本領は『バタフライ』にあるから」
俺は両手を同時に地面に叩きつけると、そのまま飛び上がるように前進する。
ビターン!ビターン!ビターン!ビターン!
「なっ、なんだあれはっ?!」
「両手を交互に出すんじゃなくて同時に地面を叩いて飛ぶように前進している?!」
「そんなこと、普通の人間ができるのか?!」
「まさか人間の潜在能力は我々魔族より凄いのか?!」
「単にレイジが特別なんだって。そもそも水泳でもクロールの方がバタフライより早いし」
「そうじゃないぞはやて。俺はバタフライの方が早いからな」
「何で?!」
「水面を手の平で叩いてトビウオのように前に跳躍してドルフィンキックで水上を跳ねるように泳ぐんだ!」
「それはもうバタフライどころか水泳じゃないよっ!」
なんてツッコミを入れてくれるはやてとのやり取りがなんとも楽しい。
うん、友達っていいものだなあ。
早く親友になりたいけど、親友ってどうしたらわかるんだろうな?
友達から親友にレベルアップしましたとかお知らせが出るといいのにな。
1時間後。
「はい、お疲れ」
「ぶひぶひぶひい」
「はあはあはあ…」
「ふうふうはあはあ」
「うげえ…」
よしよし、4人ともよく頑張ったな。
「ちゃんと水分を取れよ。それが済んだら次は武術だ」
「レイジがみんなに武術を教えるの?」
「一番基礎の部分だけな。俺が父親に教わったのも様々な武道に派生ができる基本部分だけで、それさえやっておけばあとはどんな武術でもマスターできるようになるって言ってたよ」
「すごいんだな、レイジのお父さんって」
「俺が中学入ったくらいからほとんど家には帰ってこないけどねー」
クラス対抗の勝負が多種多様な上に短期間で鍛えるのなら力の底上げをするに限る。
Fクラスが強くなるためのやり方をクラスを牛耳っているジェイソンたちに教えておけば、俺たちが居なくなっても彼らがみんなを鍛えてくれるだろう。
「まずは基本的な『パンチ』だ。左右交互に全力で突くんだ」
そう言うと俺は右拳を突き出した。
ブンッ!
うん、いい音だ。
「レイジって右利きなの?」
「そうだな。でも左でもあまり威力は変わらないと思うぞ」
「ボクは両利きだよ。左手でも箸や鉛筆使えるからね」
「すごいなあ。俺も練習しようかな?」
「使いどころないけどね」
俺の真似をして左右のパンチを突き出すジェイソンたち4人。
俺はその様子をじっと見る。
「ジェイソンは体格がいいから体重を乗せたパンチを練習するといいぞ。こうやって重心をだな」
「わかったブヒ」
「スネイルは手が長いから正確なパンチで相手の急所を狙うんだ。全力で突くだけじゃなくて狙ったところに当てるのをイメージするんだ」
「わかったよ」
「そこはわかったギョとか言うと誰のセリフかわかりやすいんだけどな」
「半魚人だからってギョギョとか言わないからなっ!」
さて、ディスクは…
「腕が細いから手数を出せるようにしようか?みんなが1回突く間に2回か3回突いてみて」
「わかったでエルフ」
「いや、やっぱり語尾に種族名とか付けなくていいから」
「わかったでダークエルフ」
このやろ、わざとだな。
「ねえーぼくは?」
いちばん力が入って無くてだらしないロヴィは…。
「やっぱり駄々っ子パンチかな?」
両腕をぐるぐる振り回す奴ね。
「あれって威力出るかもしれないけど命中しづらくない?」
はやての疑問ももっともだけど、それが半蛇人だとちょっと違うんだ。
「腕をぐるぐる回しつつ、相手の動きに合わせて蛇の胴体を伸ばしたり曲げたりしてコントロールするんだ」
つまりぐるぐる回転している武器を使っているようなイメージだね。
人間では上半身を出したりひっこめたりできないけど、半蛇人なら楽勝なはず。
「こう?」
ぐるぐるぐるぐるっぐるっ
「そこで体を前後左右に動かしてみて!」
「こうだねっ?!」
ひゅひゅんひゅんひゅんっ
「おやおや、レイジ。意外とこれはすごいかもしれないよ」
「いや、まだ問題がある」
「何の?」
「威力がありすぎると相手に命中して自分がケガする」
「それじゃあだめじゃん!」
「だから狙うのは殴って自分が痛くない場所だね。もし手に武器を持っているなら問題ないけど」
「騎士戦の時にロヴィを上にしてやってみるブヒ?」
「えっ?ぼくが騎士やるの?!ジェイソンは?」
「俺は前で敵を跳ね飛ばすブヒ。レイジみたいにな!」
なるほど、それはいいかもしれない。
「騎士戦は来週初めにクラス対抗戦があるんダー、クサイドに堕ちたエルフがダークエルフ」
「そうだったギョギョギョハンギョ」
「ぼくもがんばるよスネーーーク」
「俺が悪かったから無理やり語尾変えないで!」
「そうだブヒ、まじめにやるブヒ」
「ジェイソンもな」
「これはハイオークになったときの口癖ブヒ」
あっそうか。すまん。
「レイジ、そろそろ下校時刻リュワ!」
「はやてまでそれやるの?!」
「ふふっ、楽しそうだからね」
くすくす笑うはやてをみて、ちょっとドキっとしたのは内緒だ。
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