瑠璃人形は人間になりて
お待たせしました!
瑠璃っぽい人形はじっと俺を見つめてくる。
「あれえ?あなたってそんなに大きかったの?…はっ?!」
寝ぼけていたそぶりから我に返った途端、自分の体をぺしぺしと触る瑠璃人形。
「ああっ?!私、人形に戻ってる?!」
ぽんっ!
まるで久遠がキツネの姿になったり人間の姿になった時のような軽い破裂音がして瑠璃が元の姿に戻った。
「あ、あははは。見ちゃったよね?」
「うん」
「じゃあ、言わないと駄目よね。ううん、秘密にするつもりは無かったの。でも、言う勇気が無くて…」
瑠璃がどうして人形になったのか。
いや、瑠璃はどうして人形なのか。
それを語り始めた。
「私の両親はずっと子供が出来なかった。医者とかで色々な治療を受けたけど駄目だった」
両親が無精子症と無卵子症では人工授精すらできないとのこと。
そして母親が作ったのが先ほど見た人形だった。
それはただの人形だが、両親は『瑠璃』と名前を付けて我が子のように可愛がった。
しかしある時火事が発生し、両親は逃げ出したが瑠璃人形は家に残されたままだった。
「瑠璃ーっ!あの中には娘が居るんだっ!」
「お願い!娘の瑠璃を助けて!」
「何を言ってるの?あなたたちに娘なんて居ないじゃないの」
「違う!あれは俺たちの娘だ!」
「私たちの娘よ!」
「「今行くからっ!」」
近所の人や消防士の制止を振り切って火の中に戻っていった両親は、ベッドの上に鎮座する瑠璃人形を見つけた。
「良かった!瑠璃!」
「早く逃げましょう!」
二人が寝室を出ようとした時、天井が焼け落ちて来た。
「「瑠璃いいいいっ!」」
二人はとっさに瑠璃人形を自分の体でかばった。
その時、奇跡が起きた。
同時に壁も崩れて天井を支えてくれたのだ。
しかも逃げ道まで生み出して。
いや、そんなことは『本当の奇跡』の前では些事だった。
「お父さん?お母さん?」
「え?」
「え?」
二人の腕の中には可愛らしい女の子が居た。
「瑠璃?瑠璃なのか?」
「瑠璃なの?!」
「うん、私、瑠璃だよ」
「「瑠璃いいいっ!」」
二人は人間になった瑠璃を抱き上げると無事に脱出した。
「娘さんも無事でよかったですね」
「そうね、瑠璃ちゃん、助かって良かったわね」
「うん!」
両親は驚いた。
まるで『瑠璃が最初から存在したかのように』周りに認知されていたからだ。
そして両親はいつもお参りに来ていた稲荷神社にやってきた。
「子供を授けてほしいという願いを叶えてくれたのはきっとここのお稲荷様に違いない」
「お稲荷様、ありがとうございます!」
「お稲荷様、私を人間にしてくれて、ありがとうございます!」
両親と瑠璃が頭を下げると、社の中から美しい女性が現れた。
「あ、あなた様はもしや?」
「お稲荷様?!」
初見でも神とわかるほど久遠の母である永遠は神々しかった。
「うむ。お主たちがその娘を想う心に打たれたので魂を授けたのだ」
「おお!」
「ありがとうございます!」
「しかし、授けたのは魂だけだ」
「「え?」」
ぽんっと音を立てて瑠璃は人形に戻ってしまう。
「あれえ?」
「瑠璃っ!」
「瑠璃が人形に?!…え?動けるし話せるの?」
「魂があるから人形の体を動かすこともできる。しかし、人間としての体を成すにはまだ時間がかかる」
「時間とは?」
「これから100日欠かさずここに『おいなりさん』を奉納すれば、その娘の体は人間の物になるだろう」
「「おお!」」
「しかし1日でも欠かしてはならぬぞ」
「はい!」
「必ずお供えします!」
そして両親は毎日毎日おいなりさんを稲荷神社の永遠様に奉納し続けた。
10日目には瑠璃はまた人間の姿に戻っていた。
そして100日目の日。
両親は稲荷神社を訪れなかった。
「どうして?」
「私が熱を出したからよ」
人間の体である瑠璃は病気にもかかる。
そのため、風邪をひいて高熱を出してしまったのだ。
初めて瑠璃が熱を出したことに慌てた両親は医者に連れて行き、必死に看病し…
100日目の奉納を忘れてしまったのだ。
「その結果、私は100日に1度くらい人形の姿に戻ってしまうのよ」
「『くらい』って、いつ戻るかわからないの?」
「いつかはわからないけど、人形に戻っている時は朝起きた時なの。だから今まで誰にもバレることは無かったわ」
「そうなのか」
「それでも中学の修学旅行中に戻った時はあせったわね。夕菜にフォローしてもらわなければ大変なことになってたわ」
「夕菜はこのこと知ってるの?」
「うん。夕菜とはお互いの秘密を交換しているから」
夕菜の秘密…いったいなんだろうか?
「夕菜の事は夕菜に聞いてね。それよりも…私の事どう思う?」
「どうって?人前で人形になったらフォローはするけど?それとも人形の時に何かしてほしいこととかあるの?」
「あー。やっぱりそんな反応なんだ」
ちょっと嬉しそうな表情をする瑠璃。
「あなたは神様でも歴史上の人物でも受け入れるんだもんね。人形の私でも大丈夫かなとは思ってたけど」
ぽろっ
「思ってたけど、けどっ、ほっと、し、たっ、のっ…」
涙が止まらない瑠璃。
「ふええええんっ。嬉しいよおお」
俺の胸に顔を押し当てて泣いている瑠璃。
俺はその頭をよしよしと撫でてやる。
「ところで、自分の意志で人形になることってできるの?」
「もちろん!そうすれば入場料金も一人分で済むよね!」
「いや、そんなせこい使い方はしないけどさ。人形になっても動けるから色んな所に潜入できそうだなって思って。そんな場面無いだろうけどね」
「あ、うん。そうだよね」
あれ?どうして目が泳いでいるんだ?
「瑠璃」
「ひゃいっ?!」
「何を隠しているのかな?」
「にゃんでもにゃいでふ!」
噛みまくりじゃないか。
「まさか俺がトイレに入っている時に瑠璃が一緒に入ってきていたなんて思わなかったよ」
「そこまでしてないから!あなたの部屋でこっそり着替えを見ていただけだから!はっ?!」
「ふっふっふ。マヌケは見つかったようだな」
自分がそんなことしていないと言うために実際にしている別のことを口走るってあるあるだよな。
「一度だけだからねっ!ほんの出来心だから!」
「いいよ、気にしてないから。むしろあたふたする瑠璃が可愛いんだけど」
「はうっ?!」
「それよりも、支度してデートの続きに行こうか」
「うん!」
俺たちは朝食を取って宿を出ると、久留井花鳥園目指して移動する。
「バス、電車、徒歩、結構かかるわね」
「疲れた?」
「ううん、あなたと一緒だから楽しいの」
そう言って俺の腕にぎゅっとしがみついてくる瑠璃。
「俺も瑠璃と一緒で楽しいよ」
「嬉しい!」
「何だあのカップル」
「くそっ、爆発しろ!」
やっぱり瑠璃は可愛いからうらやましがられるんだな。
でも、爆発なんてしてやらないからな。
そんなこんなで花鳥園に到着。
ここの花鳥園は飼育されている鳥の他に、自然を丸ごと取り込んで野鳥観察ができるゾーンがある。
ピーピー
チチチチチチ
ピルルルピルルル
「鳴き声は色々聞こえるけど姿が見えないわね」
「そうだなあ」
ここは声だけ楽しむのかな?
ぴっころぴっころ
ぴっころぴっころ
「ん?」
「何だか変な鳴き声ね」
ぴっころぴっころ
ぴっころぴっころ
「は?」
「え?」
俺たちの目の前には怪しげな鳥が居た。
鳥の翼に鳥の鉤爪。
そして『人間の頭』と『人間の胴体』。
これはもしかしてファンタジー生物の…
「グリフォン?!」
「ペガサス?!」
「ハーピーよっ!」
ボケたらそいつに全力で突っ込まれた。
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