ヒトに成れなかったモノたちは
大変長らくお待たせしました!
「ハーピーだって?」
なるほど。
顔と上半身は人間で翼と下半身が鳥なのだから、ハーピーには違いないだろう。
二足歩行で身長は瑠璃と変わらないくらいある。
「でも服着てるよな」
「そうよね」
俺と瑠璃は二人で首をかしげる。
ハーピーと言えば普通は裸なんじゃないのか?
「裸は恥ずかしいからよ!」
「モンスターなのに?」
「魔物なのに?」
「それを言うならあなたも人間じゃないでしょ?!」
そう言ってハーピーが瑠璃を指差して俺たちはギョッとする。
「何を根拠にそんな事を?」
「だってその人間からは『ヒトではないにおい』がしてるんだもの」
俺はクンクンと瑠璃の匂いをかぐ。
「うん、確かにいい香りだ」
「だめよ、あなた。こんなところで…」
肩を抱いてすううっと息を吸うと瑠璃は顔を赤らめて身動ぎする。
「何をいちゃついてるのよっ!」
ハーピーのお嬢さんは何かとキレやすいみたいだ。
って、俺たちがおちょくってるからしかたないか。
「それで、何か俺たちに用があるのか?」
「あたいを人間にしてほしいのよ!」
え?どうやって?
「最初から話をしないといけないわね。元々あたいは人間に飼われていた普通の鳥だったのよ」
その飼い主が彼女を溺愛するあまり、彼女が人間になることを願った。
そして百日間お参りをしてお供え物をすれば願いが叶うと神様に言われた飼い主は百日参りを始めた。
「私と同じだ…」
「でも!百日経つ前にあたいは捨てられたの!それでこんな中途半端な姿になってしまったのよ!」
「捨てたなんてひどいな。どうしてなんだ?」
「『小さくて黄色い君が可愛らしくて大好きだったのに、どうしてそんな白豚のようになってしまったんだ!』って言われて捨てられたのよ!」
「白豚?白鳥じゃなくて?」
「あたい、鶏なの!」
なるほど、羽は白くてふさふさしていて、髪の毛が赤くて鶏っぽい色合いのハーピーだ。
しかし白くて大きいだけで白豚扱いってひどいなあ。
しかもひよこは可愛がるけど大人になったら捨てるとか、その飼い主はひどすぎやしないか?
「それであたいをこんな姿にした神様に文句を言ったら、前の飼い主以上にあたいを溺愛してくれる人間が改めて百日参りをすれば人間になれるって言われたのよ!」
「ふんふん」
「それで新しい飼い主を探そうと思ったんだけど、この姿を見て怖がられたり殺されたりしたら嫌だからずっと隠れていたの!でも、人間じゃないモノを連れているあなたを見て、きっとあたいのことを大切にしてくれるんじゃないかって思って姿を見せたのよ!」
「言っておくが瑠璃はれっきとした人間だぞ」
「でも人間になりきってないんでしょ?どうして百日参りをして本当の人間にしてあげないの?その子を愛していないから?」
「違うの!私がその方法を教えていなかっただけなの!あなたに百日参りを強いるようなことをしたくなくて…」
「何言ってるんだ!瑠璃が完全な人間になれる方法があるならすぐにでもやるよ!百日くらい問題ないから!」
「あなた…」
「瑠璃…」
「だからいちゃつくのはあとにしてほしいんだけど?それより、お願いだからあたいの飼い主になってよ」
「飼い主か…」
「ねえ、あなた。お嫁さんには無理なの?」
「え?」
ハーピーを嫁に?!
「人間みたいなものだから、ペットよりはその方が良くない?」
「うーん」
ハーピーの少女は正直言って可愛らしい。
ハト胸で…いやニワトリ胸?…で胸も大きい。
羽もフサフサでフワフワで…
「ねえ、もし完全に人間になったら、その羽は無くなるんだよね?」
「そうよ」
「久遠みたいにキツネと人間の切り替えとかできないのか…ちょっと残念かも」
「キツネ?!あんたの所ってキツネのペットが居るの?!怖っ?!」
「いや、久遠は俺のお嫁さんだよ」
「キツネなのに?」
「お稲荷様だからな」
「神様がお嫁さんなの?!そっちのほうがビックリよ!」
「ビックリと言えばさっきの鳴き声なんだあれ?」
「さっきの?」
「『ぴっころぴっころ』ってやつ」
「ハーピーは歌うって聞いたからやってるのだけど?」
「歌?あれ歌なの?」
「ぴっころぴっころ、ぴっころりー、ぴっころらー」
おお、ちゃんと音程があるじゃないか。
「でもなんで『ぴっころ』なんだ?」
「あたいが可愛らしいと思ったから!」
そう言って自慢げに胸を張るハーピー。
「そういえば、君の名前は?」
「あったけど、飼い主に捨てられたからその名前も捨てたの」
「そっか」
「だから、新しい飼い主のあんたにつけてほしいの」
「飼うって決めたわけじゃないけど…」
「えっ?ここまで話を聞いておいて見捨てるの?」
「違う違う。嫁さんにするかどうか悩んでるんだよ」
面白くて可愛らしくて、こんな子が嫁さんになってもいいかなとは思う。
「あたいを嫁さんにしてくれるの?!本当に?!」
眩しいくらいに表情を輝かせるハーピー。
その表情は俺に決心させるには十分な魅力だった。
「わかった。じゃあ俺の嫁になってくれる?」
「はい!」
「じゃあ名前も付けるね。ピコちゃんでどう?」
「チキ美とか白ちゃんみたいな短絡的な名前じゃないみたいだけど…なんでピコなの?」
「ぴっころぴっころって鳴いてたから」
「意外と短絡的だった?!」
「それ以前に、ニワトリが短絡的なんて言葉を使うのに驚きだよ」
「この姿になった時に頭が急に良くなったのよ」
「そうなんだ」
「でもピコちゃんかあ…」
「可愛いと思ったんだけどな」
「可愛い?そう?可愛いかな…えへへ」
照れてると本当に可愛らしいな。
「じゃあ、あたいはピコね!よろしくレイジはん!」
「レイジはん?…あ、ああ。よろしくピコちゃん」
こうして元ニワトリで今はハーピーの嫁さんが出来たのだった。
だったが…
「家に連れ帰るのは『通い妻のお守り』を使えば何とかなりそうだけど、百日参りはこことは別の神社じゃダメなのか」
「うん…言い忘れててごめんなさい」
しゅんとうなだれるハーピー。
俺と瑠璃がピコに案内されてやってきたのは花鳥園からほど近くの山の中にある小さな神社。
たまに来るにはいいけど、百日参りをするにはちょっと遠い。
「とりあえず『通い妻のお守り』でこっちに来るか」
『それでは駄目ですの。百日参りは自分の足で神の元に通うべきなのですわ』
突然神社に厳かな声が響き渡った。
これって久遠に初めて会った時と同じ?!
「まさかこの神社の神様?!」
『そうですの!』
そして神社の神様が俺たちの前に姿を現したのだった。
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