旅館って温泉旅館?しかも最高級のお部屋に露天風呂が?!
遅くなってすみません!
観覧車を降りてから恋人つなぎで瑠璃と歩いていた。
夫婦でも恋人つなぎっていうのはドキドキするもんなんだな。
そしてバスと電車を乗り継いで瑠璃が見つけて予約してくれた旅館に到着する。
「瑠璃、疲れてないか?」
「ちょっとだけ。でも、楽しかったから平気よ」
「それなら良かった」
俺たちは旅館に入ってチェックインをする。
宿帳には『綿山レイジ』と『綿山瑠璃』と書いた。
俺の場合は結婚をすれば自動的に席に入るらしいからこれで間違ってはいない。
それでもそれを見ていた瑠璃の喜びようったらなかった。
「きゃんっ、嬉しいっ!これでこそ夫婦よねっ!」
もうぴょんぴょん飛び跳ねている。
「そういえば、支払いにこのカード使えますか?」
俺は真紅のクレジットカードを見せる。
これは久遠から渡されたクレジットカードで、俺が働くようになるまではここから使っていいとのことだった。
そう言えばうちの高校は成績が悪くなければバイトしてもいいんだよな。
今度広重とはやてに相談してみよう。
「外国のカードですか?VIZAでもNASTERでもないみたいですけど?」
「『INARI』って書いてありますね」
「初めて見るわね、これ。ちょっと聞いてみましょうか」
受付の人たちが電話を掛けると、お偉いさんっぽい人が出て来た。
「見たこと無いカードは使えないんだが…こ、これは『赤いお稲荷様カード』?!」
それが正式名称なのかな?
そもそもクレジットカードなんて使ったこと無いから良くわからないけど。
「使えますか?」
「もちろんです!それだけではありません!通常のお部屋の価格で、当旅館最高のお部屋を提供させていただきます!」
「え?」
「このカードをお持ちのお客様をもてなすと、商売が繁盛するんです!ですから、どうかお受けください!」
「どうする?」
「あなたが決めればいいのよ」
「じゃあ、お願いします」
「ありがとうございます!」
帰宅してから知ったのだけど、お稲荷様は商売繁盛の御利益があって、このカードを持っている人はお稲荷様と深い関わりがある人ってことで色々とサービスが受けられるんだって。
「これは…」
「すごいよね…」
俺と瑠璃は絶句した。
旅館というだけあってホテルよりはこじんまりとした建物なのに、案内された部屋はものすごく広い。広すぎる。
「ホテルでいう所のスイートルームになります。どうぞごゆっくりお楽しみください」
とりあえず部屋の中をチェックすることにした。
「広い部屋が4つもあるの?!」
「ベッドルームも2つあるけど…一緒に寝るのよね?」
「もちろん」
ここまで来て別々に寝る選択肢はないよ。
だからって夕菜が居ないのに『初体験』をする気はないけど。
ガラッ
「うおっ」
「わあっ」
一番奥の部屋はオーシャンビューの露天風呂だった。
「すごい景色だな」
「海の匂いがするわ」
「対岸の明かりが綺麗だな」
「お空の星も綺麗ね」
「…」
「…」
必死にごまかしていた二人だけど、もうこれ以上は無理だ。
「これは二人で入るしかないよな」
「嫌そうに言わないでほしいんだけど」
「瑠璃が魅力的だから辛いんだけど」
「そ、それなら最後までしないなら夕菜も許してくれると思うけど…」
「それだと生殺しなので、今日はキスまでで勘弁してください」
「んもう、仕方ないなあ。じゃあ、瑠璃ちゃんの健康的な身体をしっかり目に焼き付けてね」
我慢する時ってどうするんだっけ?
手のひらに素数を書いて飲み込むんだったかな?
「3、1、4、1、5…あっ、これって円周率だ」
「何してるのよ?」
「緊張しちゃって。瑠璃は平気そうだね」
「ふふん。女の方が度胸はあるのよ」
そう言うといきなり服を脱ぎ始める瑠璃。ちょ、ちょっと?!
「結構汗をかいたから、早くお風呂に入りたいのよ」
「だからって、俺が居るのに!」
「夫婦だからいいじゃないの」
「くっ、こうなったら…こうだ!」
俺はじっと瑠璃を凝視した。
「ふえっ?!や、やめてえっ!」
恥ずかしくなったのか脱ぐのをやめてうずくまってしまう瑠璃。
その隙に俺はリビングに逃げ込む。
「せっかく勇気出したのにー」
「勇気出さなくていいから、自然体でいこうよ」
「じゃあ、先に入ってるからあとから入ってきてくれる?」
「うん。でも、バスタオル巻いてね」
「仕方ないわね」
そう言って先に露天風呂に入っていく瑠璃。
10分経ったところで露天風呂に入っていくと、瑠璃が湯船につかっていた。
「あなた、すっごくいい湯加減よ」
「そうか。ちょっと待っててくれよ」
とりあえず体を洗って汗を流さないとな。
「あなた。背中流すわね」
「いや、自分でやるよ(ざばっ)え?」
背後に立っている気配がするから振り向けない。
ごしごしごし
「大きい背中…んふふ。今夜は独り占めっ」
背中を洗ってお湯を流してから瑠璃が俺の背中に頬ずりしてくるから俺の心臓は高鳴りっぱなしだ。
かぽーん
「景色、綺麗だな」
「最高ね」
横を見ることができない俺は、瑠璃と並んで景色を眺める。
『タオルを湯船に入れるのはマナー違反』とか言って瑠璃は何も身にまとっていないから、もう横とか見られないんだよね。
とはいえ、この露天風呂は景色が良く見えるように薄明かりになっているから、横を見たところで水面下まで見えはしないのだけど…。
ぷかあっ
水面上にとんでもない大物が二つ浮かんでいた。
「は?!でかっ?!」
「えっ?!あっ?いやあんっ」
胸を隠すようにして向こうを向く瑠璃。
「見られてもいいって思ってたのに、いざとなると駄目みたい」
「すまん、先に出るよ」
俺は我慢できなくなりそうなので先に露天風呂から出てベッドに飛び込んだ。
「旅館なのにベッドなんだな。和室と洋室があるからか」
「和室に押し入れがあったから、そこに布団を敷く?」
「旅館だから布団のほうがいいなあ…ってもう出て来たの?!」
「だって先に入っていたからのぼせそうだったし。んふふ、あなたったらそんな格好でベッドに大の字になっちゃって」
俺はシャツとパンツだけでベッドに大の字になっていた。
そして瑠璃は浴衣をちゃんと着ていた。
「俺も着替えてくるよ」
「待って」
そう言うと瑠璃もベッドに寝そべった。
大きなベッドだから、俺が大の字になっている横で瑠璃が余裕で寝ころがることができる。
「何だかこうやっているだけで幸せー」
「そうだな、俺もそう思うよ」
「んふ、嬉しい」
俺の手をぎゅっと握ってくる瑠璃。
「今夜はこのまま寝て、明日は早起きして花鳥園行こうね!」
「そうだな」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
そして翌朝。
俺は隣を見ると瑠璃が…居ない?
代わりに小さなぬいぐるみが置いてある。
いや、ぬいぐるみというよりは女の子の姿をした人形で…瑠璃そっくりだった。
先に起きた瑠璃が自分の代わりに置いて行ってくれたのかな?
俺は女の子が遊ぶくらいの大きさの瑠璃っぽい人形を手に取ると着替えて起きて行った。
「瑠璃、おはよう」
そう言ってリビングを開けたのだが、瑠璃は居ない。
「こっちか?」
「ここか?」
「トイレか?」
「まさか朝から露天風呂に?」
瑠璃がどこにも居ない。
もしかしてフロントに行ってるのかもしれないと思ったが靴がある。
どういうことだ?!
もぞ
その時、瑠璃っぽい人形が俺の手の中で動いた。
「ん…おはようございます」
なんとその人形は瑠璃の声でそう言ったのだった。
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