あの日あの時助けた少女
遅くなりました申し訳ございませんっ!
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
お兄ちゃんと連呼しつつ俺にぎゅっと抱き着いてくる女の子。
「あなたの知り合いだったの?」
「いや…あっ、もしかして…」
俺の胸に顔を埋めている少女になんとなく見覚えがあった。
「もしかして、あの時助けた子?」
「え?!この子が東尋坊で助けた子なの?!それとも銀行強盗の人質の?!」
ブンブンと顔を横に振る女の子。
「外国で爆破テロに巻き込まれた時に爆発からかばった子だよ」
「あなた、どれだけトラブルに巻き込まれてるの?!」
茜崎社長は驚いているけど、俺にとっては結構日常茶飯事なんだよな。
というか、両親と一緒の時のほうがひどい事件に巻き込まれるから、たぶんトラブル体質の家系なんだろうな。
彼女が泣き止んだところで改めて面談が始まった。
彼女の名前は久比岐初音。小学6年生。帰国子女だ。
Gテレで『初音の英語でクッキンG』という番組を3年やっている。
その愛くるしさと料理の腕前と英語の歌声で人気を博していたが小学校を卒業したら番組も卒業して、一時的に仕事をやめて学業に専念したいとのこと。
それでも番組中の英語の歌やダンスを見て茜崎社長は彼女をスカウトしたいと告げた。
「本当は親がアメリカに留学してハリウッドを目指せってうるさくて、もう芸能界をやめたいと思ったんです」
小学生なのに多大な期待を掛けられているのがプレッシャーになっているんだな。
「いきなりトップを目指さなくてもいいのよ。うちで徐々に力を付けてもらってからデビューしてもらえば」
「…あの、お兄ちゃんは副社長さんですか?」
「え?俺は…」
「彼はうちの会社の社員で、面談の立ち合いをしてもらっているのよ」
「もしお兄ちゃんがマネージャーになってくれるのなら、事務所に入ってもいいです」
「俺がマネージャーに?!」
「それならいいのね?!」
「(小声で)俺、社員どころか高1ですよ?」
「(小声で)それなら卒業したらすぐに雇うわ。何なら中退でもいいし、高校通いながらでもやってくれていいのよ」
「(小声で)さすがに高校は出たいですけど…」
そもそもマネージャーってどういう仕事かよくわかってないんだけど。
スケジュール管理とか仕事を取ってくるイメージなんだよな。
「お兄ちゃんの名前、聞いてもいいですか?あの時は名乗ってもらえなかったので」
「俺は綿山レイジって言うんだ」
「ワタヤマレイジ?それってまさか100人の嫁さんをもらえるっていう綿山レイジさんのこと?」
「そうだけど」
「社長!決めました!私、お兄ちゃんと結婚します!」
「「は?!」」
俺と茜崎社長の声がハモる。
「お兄ちゃんとなら年齢とか関係なく結婚できるのよね?私、家を早く出たいの!それに、命の恩人のお兄ちゃんと恋人に、ううん、お嫁さんになりたいってずっと思っていたから!」
笑顔を輝かせてそう言う初音ちゃん。
「私をお兄ちゃんのお嫁さんにしてください!お願いします!」
と俺の所に来て手を差し出して頭を下げてくる。
「だめですか…?」
戸惑って手を取らない俺に対して、上目遣いでじっと見つめてくる初音ちゃん。
こんな可愛らしい子を嫁にしたくないわけないじゃないか!
「ちょっと駄目よ!うちの事務所の子たちを片っ端から毒牙に掛けないで!」
「まだ移籍してません!」
「でも芸能人として問題あるわよ!」
「じゃあ芸能人やめますから、お兄ちゃんのお嫁さんにしてください!」
ここまで言われて心が動かないはずがない。
俺はそっと彼女の手を取った。
「よろしく、初音ちゃん」
「はい!お兄ちゃん!」
そして俺たちはもう一度抱き合った。
彼女はまた泣いていた。
「結婚したならもう仕方ないけど、ちょっと見境なさすぎないかしら?」
「俺は自分が一緒に幸せになりたいと思った人を受け入れることにしていますから」
「私みたいなおばさんは無理よね」
「え?」
「あ」
ざざざざざっと会議室の反対側まで高速移動していく茜崎社長。
「まさか私まで毒牙に掛ける気っ?!」
「言い出したの自分ですよね?!」
「気のせいよ!言ってないから!」
「『私みたいなおばさんは無理よね』」
「初音ちゃん!私の声色真似しないで!」
「すごい、そっくりだ」
「親に知られるとまた何かさせられそうだから言ってなかったけど、声真似得意なの」
声真似って、出会ったばかりの人の声色真似できるってすごくない?
「やっぱり初音ちゃんはうちの事務所に入るべきよ!」
「『私みたいなおばさんは無理かもしれないけど、レイジくんのお嫁さんにして!』」
「私の声色で遊ばないで!」
「『もう処女じゃないけど、私をもらってください』」
「小6のくせになんてこと言うのよ!それに私はまだ処女よ!」
「「え?」」
「あ…」
しばらくお待ちください。
会議室の隅で茜崎社長が体育座りをして黄昏ている。
「社長さん、ごめんなさい。調子に乗ってしまいました」
「ううう…」
こういう時、どうやって慰めたらいいのかわからない恋愛経験値ゼロの俺。
「お兄ちゃんも慰めてあげて」
「でもどうしたらいいんだろ?下手なこと言うと逆効果だろ?」
「こういうときは、後ろからぎゅっとするのよ」
「え?それでいいの?」
俺は後ろから茜崎社長をぎゅっと抱きしめる。
「あ…いや…やめて…」
弱々しく言う茜崎社長。しかし、振りほどこうとはしない。
「……」
「……」
「……」
「…ねえ、もう落ち着いたから離して」
「わかっ…(ぽんぽん)ん?」
初音ちゃんが俺の肩を叩いて首を左右に振っている。
「(小声で)もっと強く抱きしめてあげて」
ぎゅううっ
「あっ、やっ…」
まるで少女のようにか細い声を出す茜崎社長。
俺はそのギャップにドキッとさせられる。
「本当に無節操なのね。私まで口説くつもり?」
最初はそのつもりなんてなかったけど、何だかとても魅力的に感じて来たのは事実だ。
「私とあなたはひと回り以上も歳が離れているのよ」
「俺の嫁さんの中には中世や戦国時代の生まれとか、4000年以上生きている女神も居ますけど」
「いくらなんでも今度は嘘よね?」
「会ってみます?」
「ほ、本当なの?」
振り向いた茜崎社長と俺の顔の距離はわずか数センチ。
「あっ」
「ご、ごめんなさい」
ぱぱぱっと体を離す俺たち。
その様子を初音ちゃんがニマニマしながら見ている。
「素直が一番なのに。社長さん、私が『代弁』する?」
「勝手なことを言わないでください!ちゃんと自分で気持ちは伝えますから!」
「「え?」」
「あ」
またこのパターンか。
「だから…えっと、そうだわ!あなたみたいな嘘つきの嫁になんかならないわよ!中世や戦国時代生まれの嫁とか、4000歳以上の嫁とか!」
「もし本当だったらどうします?」
「嫁にでも奴隷にでもなってあげるわよ!」
最後に盛大な負けフラグを立ててくれました。
そして俺はかなみさんたちがレコーディングしているスタジオに戻ってきた。
丁度レコーディングの最終段階で、かなみさんたちBWAが歌っているのがガラス越しに見える。
「やっぱりかなみさんはすごいな」
「当り前よ。私が手塩にかけて育てたんだから」
自慢げに言う茜崎社長は穏やかな笑みを浮かべている。
「茜崎社長、そういう表情しているほうがいいですよ」
「っ…子供が大人をからかうんじゃないわよ」
そしてレコーディングが終わって、かなみさんたちが出て来た。
「ダーリン、お帰りっ!見ててくれた?」
「見てたよ!いい歌だね!」
「だろ?…あれ?その子は確か社長が面談するって言ってた久比岐初音ちゃん?」
「はい。かなみお姉さま。ふつつかものですが、同じ妻としてよろしくお願いいたします」
「…ダーリン」
「はい」
「てっきり社長を口説いてくると思ったんだけど?」
あの時俺に向けて親指立てていたのは『がんばれ』とかじゃなくて『口説き落とせ』って意味だったのか。
「俺が昔助けた子なんだ」
「そうだったの?!じゃあ、あたしと同じだな!」
「かなみお姉さまもですか?!」
嬉しそうに手を取り合う二人。
「レコーディングしている間に小学生に先を越されたじゃん!」
「このあとすぐに移動だから、急がないと」
「そうね。社長に邪魔はさせないから」
「うちたちも嫁にして貰わんとな」
「そやそや。だから社長は黙っとってな」
「…レイジくん」
社長が相変わらずのドスの聴いた声で俺を呼ぶ。
「はい」
「BWAの全員を幸せにできるのね?」
「俺が幸せにするんじゃなくて、一緒に幸せになるんです」
「好きになさい」
そういってそっぽを向く茜崎社長。
「よし!それじゃああたいたちを嫁に…」
「みなさん!早く来てください!時間押してますよ!」
「マネージャー?!今いいところなのに!」
「ダーリン、この後の番組収録は夜遅くなるから先に帰っててくれよな!その代わり、今夜はBWA全員を連れ帰るから、改めてあたしの仲間を嫁にもらってやってくれよ!」
「ああ、わかった」
「マジかよ!やったじゃん!」
「プロポーズの言葉考えておいてくださいね」
「私、このあとの収録大丈夫かしら?」
「うちも集中できなくなりそうやで」
「ぼうっとしとったらわてが叩いたるやさかいに」
「それは勘弁や」
「じゃあ、またな!ダーリン!」
「おう、お前も頑張って来いよ!」
「あうーんっ、ダーリンっ!あいしてるうっ!」
手を振りながらフェードアウトしていくかなみとBWAの仲間たち。
「じゃあ、家まで送るわ」
「お願いします」
俺と初音ちゃんは茜崎社長の車で家まで送ってもらえることになった。
そこで茜崎社長は自分の負けフラグを回収することになるとも知らずに。
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