プロダクションの社長を説得→心中?!
死にませんー!
「社長がどうしてここに?!」
「今日は来ないはずじゃん?!」
早苗さんとアンナさんの驚きっぷりから想定外の状況なのだろう。
「そんな男と結婚するだなんて一体あなたたちは何を考えているの?!しかも!かなみさんはもう結婚しているんですって?!」
「おう!あたしはもうダーリンの嫁なんだぜ!」
「ああ、何てこと…。でも!間に合って良かったわ!あなたたち!その男と結婚するなんて許しませんから!これは社長命令です!」
「恋愛禁止とは言われてたけど、結婚禁止とは言われてないじゃん!」
「そうよ。私たちは5年越しの恋を叶える所なんだから邪魔しないでください!」
「恋する乙女は社長の権力に負けたりしないんだから」
5年越しの恋って、ずっと俺の事を想っていてくれてたってこと?
アンナさんと早苗さんと星奈さんの真剣な表情に俺はドキドキしてしまう。
「それに真綾と紗彩。あなたたちもなに便乗して結婚しようとしてるの?この男とは初対面なんでしょう?!」
「うちらは『双子丼』をしたかっただけなんや」
「姉貴、それは高校生に言うたらあかんやつや。わてらは『双子両方を平等に愛してくれる彼氏』を探したかったんやで」
「そやそや。だから行き遅れ三十路のおばはんは黙ってえな」
「三十路じゃありません!私はまだ29よ!」
「カウントダウン中じゃん」
「だよねー。あと5日」
「みんなで盛大に祝ってあげるからね」
「ぬぬぬぬぬぬ」
茜崎社長がギリギリと歯噛みをする。
「とにかく!あなたたちはきちんとレコーディングをしていなさい!この男は私が預かっていきます!」
そう言って、茜崎社長は俺の手を引っ張って部屋の外に連れて行ってしまう。
「ダーリン」
かなみさんの方を振り向くと俺に向かって親指を立てている。
心配するなってことかな?
それとも俺に対して?
そうか!俺に茜崎社長を説得しろってことなんだな!
覚悟を決めた俺は駐車場につれて来られた。あれ?
「どこかの部屋で話すんじゃないんですか?」
「私は忙しいのよ。だから移動中に車の中で話すわ」
バリバリのキャリアウーマンみたいな感じなのに、車は外車のスポーツカーだ。
さすがやり手の社長は違うな。
茜崎社長は大手プロダクションからBWAを始めとしたアイドルやアーティストと一緒に独立して今の会社を作った人物で、大手プロダクションに居た頃はBWAのマネージャーをしていた。
それだけにBWAに対する思い入れは深いのだろう。
「あのう、茜崎社長」
「何かしら?」
「事後報告になってしまったけど、かなみさんを俺の…私の妻にさせていただきました」
「さっき聞いたわ」
「それでBWAのあとの5人もそうしようと思っています」
「何ですって?!」
グンッっと車が加速して高速道路に乗る。
「どこに行く気なんですか?!」
「ちょっと富士の樹海までよ」
「ええっ?!」
「東尋坊でもいいわね」
「どっちも自殺の名所じゃないですかっ!」
「たとえ私を犠牲にしても、これ以上あの子たちに手出しはさせない!」
グングン加速していく車。
今、時速は180キロだ。
「あなた1人で死なせるのもかわいそうだから私も一緒に死んであげるわ」
「やめてください!樹海をまた荒らしたくないんです!」
「え゛?」
「東尋坊の景色をこれ以上変えたくないんです!」
「い゛?」
法定速度まで減速する車。
「ど、どういう意味かしら?」
「中学校の時に銀行強盗の人質にされたことがあって、逃走中の犯人たちが追い詰められて一緒に樹海に逃げ込んだんです。そこで迷子になったので俺は樹海の木を折りながらまっすぐ進み続けて、どうにか脱出できたんです」
「樹海の木を折るって、冗談でしょう?!」
「いえ、本当です」
「何でそんなことしたのよ?!」
「迷路はとにかく直進すれば出られるっていうのがお父さんの教えなので」
「馬鹿なの?!」
「ですよねー。まったくうちの親と来たら」
「それを実行したあなたもよ!」
あの時は俺一人ならいつでも逃げ出せたんだけど、子連れの人質も居たから抵抗できなかったんだよな。
さすがに拳銃を持っている相手に全員を無傷で助けつつ逃げる自信は無かったよ。
それから樹海をさまよううちに犯人が『もう逃げられなくてもいいから早くここを出よう!』ってことになったので俺が父親伝授の『立木砕き』で樹海を進んだんだ。
やっとの事で樹海を抜け出したら犯人は『コワイコワイコワイコワイ』とか言いつつ警察に自首してくれたけど。
よほど樹海が怖かったんだな、
「東尋坊は両親と観光で行った時に目の前で飛び降りた家族が居たから家族総出で助けたんだけど、抱えた女の子ごと海上の岩に叩きつけられそうだったから、岩をいくつも蹴り飛ばしつつ岸に駆け戻ったら岩の位置が変わっちゃって、お土産の絵葉書を作り直さないといけないって売店のおばちゃんに怒られました」
「とんだ妄想ね。ますますあなたみたいな男にあの子たちを渡すわけにはいかないわ!…あら?渋滞?」
先の方を見ると、どうやら事故のようだ。
「タンクローリーとトラックが道を半分ふさいでますね」
「この距離で見えるの?!」
「視力はいいので」
「警察が来ていないから事故をしたばかりみたいですけど」
しばらくすると一車線でも普通に走れるようになりそのまま事故の横を通り過ぎようとした時、俺はタンクローリーから液体が漏れているのを見つけてしまった。
そして運転席でぐったりしている運転手の姿も。
「ガソリンが漏れているですって?!」
「運転手さんも気絶しているみたいなので、ちょっと助けてきます!茜崎社長はこのまま先に行っててください!」
そう言うと俺は窓を開けて走行中の車から飛び降りた。
どんっ、ごろごろごろごろっ。
時速100キロの車から飛び降りて父親直伝の前回り受け身と五点着地を組み合わせた技で回転しながら着地し、すぐに立ち上がってタンクローリーのほうに走っていく。
「トラックの運転手さん!すぐに遠くに逃げて通報してください!タンクローリーのガソリンが漏れてますから!」
「何だって?!」
トラックの前で警察を待って突っ立っていた運転手のおじさんにそう告げると、俺はタンクローリーの運転席に行く。
運転手は気絶しており、ドアは曲がっていて開きそうにない。
「力づくでドアを破ったら火花でガソリンに引火するかもしれないな。それならフロントガラスを破るか」
ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!
俺は貫き手でフロントガラスを数回貫いて剥がし、運転席に入り込むと運転手の女性を抱えて脱出した。
わずか1分後。
タンクローリーは爆音とともに炎に包まれていた。
「ふう、セーフ」
「セーフじゃないわよ!なにしてるのよ?!」
目の前には憤怒の形相の茜崎社長が立っていた。
「あれ?どうしてここに?」
「あれからすぐに車を止めて見に戻ってきたのよ!」
「危ないじゃないですか」
「あなたよりずっとマシよ!だいたい、あなたに何かあったらかなみが悲しむじゃないの!」
「え?だって樹海や東尋坊に行くって言ってたのに?」
「そんなの、あなたの気持ちを確かめるために言っただけよ!だけどまさかあなたがこんな規格外な超人だとは思わなかったわ!」
「規格外とか超人とか、うちの身内はわりとこんなふうですけど」
「ちょっとその身内に会わせなさいよ。日本版のアベンジャーズを撮影してもらうから」
「遠慮しておきます」
その後タンクローリーを運転していたお姉さんを救急隊員に引き渡してさっさと撤収した。
「お礼状くらい出ると思うのにどうして名乗らないのよ」
「うちの家訓は『人助けは自分の糧であって感謝されるためのものではない』っていうのがあるんです」
「…確かに100人の嫁をもらう資格があるわけね」
「別に俺はそんな偉い人じゃないですよ。でも、嫁にした人たちは必ず守りますし、幸せにしてみせます」
「あなた一人で養いきれると思うの?」
「そこは『共稼ぎ』で。俺も高校か大学を卒業したら働きますから」
「自分一人で100人の面倒を見るとか言わないのね」
「それは無理だと思いますし、全員で協力して幸せになれればいいと思っています。ただ…」
「ただ?」
「俺自身が100人の嫁さんに愛想をつかされないようにしないといけないとは思っています」
「あなた、高校生よね?」
「高1です」
「そういう考え方ってやっぱりご両親の影響なのかしら?」
「わからないですけど、うちの両親はすごい人なので」
「あなたにすごい人って言われるご両親ってどんな人か興味があるわね。本気で会わせてもらおうかしら?」
「撮影とかやめてくださいよ。そういうのを嫌う人たちですから」
「単に私個人の興味本位よ」
そういう茜崎社長さんの表情は穏やかなものだった。
穏やかで…あれ?思ったより綺麗系?
「社長さんって普段はわざと怒った表情作ってるんです?」
「な、何の事よ?!」
「その眼鏡も伊達ですよね?」
「う…そうよ!そうでもしてないと相手に舐められるからよ!」
そっか。この人はかなみさんたちのためにずっとこうやって頑張ってきたんだな。
「何よ、じっと見て?」
「ちょっと可愛いなって思いました」
「え゛?!」
キキイーッ!
「い、いきなり急ブレーキ踏まないでください!追突されますよ!」
「後ろくらい確認してるわよ!それよりいきなり変なこと言わないで!私はもう30なのよ!」
「まだ5日あるんですよね?」
「そうよ。たった5日しかないのよ。でもいいわ。私の生きがいはうちの子たちを全員売れっ子にすることなんだから」
知ってる。
茜崎社長がテレビに出演した時はいつもそう言っていた。
自分よりもかなみさんたちのことだけを考えているんだ。
「ところで、このまま戻るんですか?」
「レコーディングは夕方まで。それからバラエティ番組に全員で出演して、終わるのは夜遅くかしら」
「俺が居たら邪魔になりますかね?」
「邪魔というよりも、旦那様が見ていたらやる気を出し過ぎてしまうかもしれないわね。6人とも」
え?それって…。
「認めていただけるんですか?!」
「その代わり、ファンや関係者には黙っていなさい。彼女たちは信者たちの『天使』なんだから、夫が居たらまずいのよ」
「わかりました」
「それと、今からGテレに行くから付き合ってちょうだい」
「Gテレですか?」
義務教育テレビのことだよな?
そんなところに事務所のタレントいるんだな。
「違うわ。見どころのある子が居るから早いうちに確保に行くのよ」
Gテレに着くと、俺も一緒に面談に行くことになった。
「あなたを不慣れなテレビ局内に放置しておくわけにいかないからひとまず社員扱いにしておくけど、面談の間は黙っててもらえるかしら?」
「わかりました」
そしてあまり広くない部屋に入ると、10歳くらいの可愛らしい女の子がそこで待っていた。
「お待たせしたわね」
と、仕事モードの鋭い目つきに切り替わる茜崎社長。
「あ…ああ…」
すると女の子がぽろぽろと泣き始めた。
「社長、怖がってますよ」
「私のせい?!きっとあなたが怖いのよ!」
「…やっと会えた…」
ぎゅっ!
「お兄ちゃんっ!やっと会えたよおっ!」
女の子はそういうと俺にいきなり抱きついてきたのだった。
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