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第17章 柴原 武尊の1日(前編) ~転移後のきわめて穏やかな1日~

朝6時。

古民家の障子から差し込む薄い光で目が覚めた。

俺はすぐに布団から起き上がり、道場へ向かった。

ヤマトとムサシはすでに起きていて、

動きやすい格好に着替えて待っていた。

「パパ、おはよう!」

ムサシが元気に飛びついてくる。

ヤマトは少し眠そうにしながらも、

「おはよう……今日もトレーニング?」

と聞いてきた。


「そうだな。

体を動かさないと、朝がもったいないぞ」

俺は二人の頭を軽く撫でて、ストレッチから始めた。

朝トレは1時間。

ストレッチ・軽い筋トレ・片付け込みで、礼儀作法も一緒に教える。


「トレーニングは心を整えるものだ。礼儀を忘れるなよ」と声をかけると、

ヤマトは真剣に頷き、

ムサシは「はーい!」と元気に返事をする。


子どもたちの成長を実感する時間だ。

この世界に来てから、あらためて男の子には護身術が必要だと痛感した。

元の世界では自衛隊で鍛えた体が武器だったが、

ここでは双子を守るための体だ。

だから、毎朝のこの時間が、俺にとって一番大事な時間になっている。


朝7時。

道場の外から足音が聞こえてきた。

セキュ女の恵子さんと遥さんがやってくる。

恵子さんは大きな手提げ袋を持って、

「おはようございます、タケルさん。

双子くんたちもおはよう」

と穏やかに微笑んだ。


「恵子さん、毎朝ありがとうございます」

俺は頭を下げた。

恵子さんは業務外なのに、

毎朝朝ごはんを作ってきてくれる。

手提げ袋の中は様々なお惣菜でいっぱいだ。


今日のメニューは、

玄米ご飯・焼き魚・野菜たっぷりの味噌汁・納豆・卵焼き。

アスリート向けに栄養バランスが完璧だ。

遥さんは「セキュリティチェックです」

と言いながら、実は一緒に食べたくて来ている。


「恵子さん、いつもすごいですね……」

俺が言うと、

恵子さんは少し照れくさそうに、

「タケルさんが元気でいてくれないと、

ヤマトくんたちが困りますから」と答えた。

その母親のような優しさが、俺の心を少しだけ揺らす。

妙齢で、やさしい中に1本筋の通った美しさを持った恵子さん。


ヤマトは無意識に恵子さんのことを、

母である菜摘さんとダブらせているような気がする。


母親がいないヤマトとムサシにとって恵子さんの存在は本当にありがたい。

いろんな女たちが俺のことを意味ありげな視線で見るこの世界。

恵子さんの視線も例外ではない。

ただの「セキュ女」以上の温かさを持っていることに薄々気づき始めていた。

それを、嫌だと思っていない自分も確かにいる。


朝7時45分。

ヤマトとムサシを小学校へ送る。

セキュ女の恵子さんと遥さんも一緒だ。

というか本来はこちらが仕事としてはメインだ。


道中、村の女性たちが

「タケルさんおはよう♡」

「双子くんたち可愛い〜!」と手を振ってくる。

俺は軽く会釈を返しながら、

(みんな優しいな……

でも、視線が生暖かいのは変わらない)と思った。

学校の門でヤマトとムサシを送り出し、

「行ってらっしゃい」と手を振る。

ヤマトとムサシは元気に手を振り返し、

校舎の中へ駆け込んでいった。


1人で帰る道のりは、アップペースぎみにジョギングをして帰る。

体が温まったぐらいに家に帰り着き、筋トレの時間になる。

こっちの世界にフィジークの大会があるかはわからないが、身体を鍛えておく『習慣』を残しておくようにしたい。


今日は月曜日。

朝10時、公民館で腰痛体操教室が始まる。

常連の熟女たちがすでに集まっていて、俺が入ると一斉に視線が集まった。

「タケルさん、今日もよろしくね♡」

「昨日のお祭り、すごかったわよね……」

と、みんなの目が熱い。


教室はいつも通り。

簡単なストレッチから始まり、

腰回し、胸開き、パートナーストレッチ。


サポートに入る熟女たちが俺の背中や腰に手を当ててくる。

胸が軽く当たる感触、

甘いシャンプーの匂い、

無防備に足を開く姿勢……

こちらの女性たちは、もとの世界とは貞操逆転しているためか、隠すということをしない。

なんならあえて見せてきているような気もする。


俺は平静を装いながらも、内心でドキドキしていた。

(……この人たち、無自覚すぎるだろ……

でも、めちゃくちゃ興奮する……)


差し入れも多い。

今日もおにぎりやお菓子が並んだ。

セキュ女の遥さんの助言で、

「みんなが見ている前で食べる」ルールと決まっている。

それは

「中に変なものが入っていたら困るから」という現実的な理由だ。

俺は苦笑いしながら、みんなの前で一つずつ食べた。


「美味しいです、ありがとうございます」と言うと、

熟女たちは目を輝かせて、

「また作ってきますね♡」と喜ぶ。

そんな彼女たちを見ていると幸せな気持ちになる。

年上の女性が好きな俺にとって、至福の時間でもある。


そんな楽しい時間が過ぎ、

「みんな、今日もありがとう」と頭を下げた。

女性たちは名残惜しそうに、

「また来週ね♡」と手を振って帰っていく。


俺は一人残って片付けをしながら、

(この教室も、日常の一部になったな……

でも、視線が熱すぎるのは変わらない)と思った。


正午過ぎ。

公民館での腰痛体操教室が終わって家に戻ると、

俺はキッチンで簡単なアスリート食を作った。

鶏胸肉のグリルに玄米、ブロッコリーとトマトのサラダ。

味付けは塩コショウとレモン汁だけ。

栄養を計算して作るこの食事は、

フィジーク時代から変わらない習慣だ。


でも、この世界では「自分の体は武器」という意味が少し変わった。

双子を守るための体。

村の女性たちから視線を集める体。

どちらも鍛え続ける必要がある。


食事を済ませて少し休憩していると、

時計が午後1時30分を指した。

小学校へ双子を迎えに行く時間だ。


俺は一人で校門まで少し早めのジョグで向かう。

道中、村の女性たちが

「タケルさん、お疲れ様です♡」

「双子くんたちのお迎え?」と声をかけてくる。

俺は軽く会釈を返しながら、

(……みんな優しいな。)

と思った。


校門に着くと、恵子さんと遥さんがすでに双子と一緒に待っていた。

ヤマトとムサシは友達と一緒に走って出てきて、

「パパ!」

っと、ムサシが飛びついてくる。

ヤマトは少し照れくさそうに、

「パパ、お迎えありがとう!」と頭を下げる。


遥さんは「セキュリティチェック完了、本日も小学校では問題ありませんでした!」

と少し冗談めかして敬礼した。

俺は二人に頭を下げて、

「いつもありがとうございます」と言った。


帰り道は5人で歩く。

いつもは公園に寄ってブランコに乗ったり、近くの林で昆虫を探したり。

家族で村の散策を楽しんでいる。

今日は、ヤマトが突然、

「パパ!あそこに珍しい昆虫がいる!」

と叫んで野原の方へ走っていった。

ムサシも「待ってよ!」と追いかける。


遥さんがすぐに反応して、

「待って、危ないよ!」と走って追いかけ、野原で双子と一緒にしゃがみ込んだ。

セキュ女の方々のリアクションと異なり、当の本人のヤマトは

「これ、カブトムシの幼虫だね!」と楽しそうに説明している。


ムサシは目を輝かせ、

「すごい!ヤマトは何でも知ってるんだ!」

と、尊敬の眼差しでヤマトを見る。

「この村の里山では、カブトムシがいると聞きます。

捜せばもっとあるかもしれませんね。」

遥さんがそういうと、ヤマトとムサシは尊敬の眼差しで遥さんをみる。


こうしているとこの3人は、歳の離れた兄弟のようだ。

遥さんは32歳と聞いているが、体を動かしているためか見た目に若々しさがある。

この世界の女性は、整った顔立ちの女性が多く、遥さんもその一人だ。

双子と遊ぶ姿は、まるで本当の姉のように頼もしくて優しい。


恵子さんは俺の横で穏やかに見守っていて、母親のような安心感を与えている。


そんな光景を見ながら、

俺は少し離れたところで立ち止まった。

(……女性がいる子育ても悪くないな)と思った。


この世界で、

双子たちがこんなに笑顔でいられるのは、

恵子さんや遥さんのおかげでもある。

母親がいない分、彼女たちが埋めてくれている。


しばらくの間、子どもたちのやりとりを眺めていた。

すると恵子さんが、静かに話し始めた

「私にも娘が2人いるんです」


俺は少し驚いて、

「そうだったんですか……」と返した。


恵子さんは穏やかに続けた。

「長女は私が25歳の時に産んで、

次女は33歳の時です。

長女は政府の制度の遺伝子提供を利用して、

次女は男性とご縁があって、お願いして授かりました。

今、長女にはすでに子どもができていて……

今度の休み、孫にでも会いに行こうかしら」


彼女の言葉に、俺は不思議な気持ちになった。

恵子さんは50代と話は聞いているが、見た目はまだ40代半ばぐらい。

そんな彼女には娘が2人もいて孫までいる。


この世界の常識では普通のことなんだろう。

男性にお願いして授かった娘さん。

でもセキュ女の仕事をしているという事は色々あったのだろう。


恵子さんはそんな過去を淡々と、でも優しい声で話す。

母親として、祖母として生きてきた女性だ。


俺は元の世界の感覚で、

「恵子さんも、こんなに大変な思いをしてきたんだな……」と思った。

同時に恵子さんが双子たちに優しく接してくれる理由が、少しだけわかった気がした。


母親の温かさ。


俺にはないものだけど、恵子さんが双子に与えてくれているもの。


俺は小さく頭を下げて、

「恵子さん、いつもありがとうございます」と言った。


恵子さんは微笑んで、

「タケルさんが元気でいてくれれば、ヤマトくんたちも安心です」と答えた。


帰り道、いつものように神社に寄り道をした。

祭りの余韻がまだ残る境内。

提灯が揺れ、子どもたちが石段で遊んでいる。

ムサシが「もうちょっと遊んでいい?」と駄々をこね、

ヤマトも「カブトムシの幼虫、もっと見たい……」と目を輝かせた。

遥さんは「いいわよ、ちょっとだけね」と笑って、

ヤマトとムサシが遥さんの手を引いて境内を走り回っている。


遥さんの動きは軽やかで、汗ばんだ首筋や引き締まった腕が服の隙間からちらりと見えるたびに、

みずみずしい肉体のしなやかさが際立っていた。

双子と一緒に笑いながら追いかけっこをする姿は、まるで本当の姉のように頼もしく、どこか眩しい。


俺は少し離れた石段に腰を下ろして、

その様子を眺めていた。


恵子さんは俺の隣に静かに座って、

同じように子どもたちを見守っている。

境内の一角に、祭りの時に使われていた小さな建物——授かり処——が見えた。

今は静かで、ただの社殿のように佇んでいる。


俺はつい、独り言のように呟いた。

「……いつでも使えるんだな。

お祭りの時だけじゃないんだ……」


恵子さんが穏やかに顔を上げ、

「タケルさんが以前いた世界では違うのですか?

男性が遺伝子提供できるタイミングは貴重ですから、

神社で神頼みというのは一般的ですね」


俺は少し驚いて、

(そういえば、恵子さんは俺たちが『ジン・パーティクル』だと知ってるんだな……)

と気づいた。

凛さんがいない今、

村の人たちの中で、

恵子さんは俺たちのことを一番よくわかっているのかもしれない。


恵子さんは俺の表情を見て、優しく続けた。

「まだ若い凛さんには聞きにくいこともあるでしょう。

私でよければ、気になっていることがありましたらお答えしますよ」


俺は少し迷ったが、思い切って聞いた。

「遺伝子提供って、どうなってるんですか?」


恵子さんは静かに頷いて、

丁寧に説明を始めた。

「この世界では、15歳から50歳までの男性は、

週に1回以上『遺伝子提供』が義務付けられています。

指定の施設で『遺伝子提供用カプセル』に精子を入れるのが基本です。

でも、男性は保護されて育っているから、

一人でやるのは精神的に難しい人が多いんです。

だから、女性がサポートに入ることがほとんどです」


俺は「サポート……?」と聞き返した。


恵子さんは少し照れくさそうに、

「シリンジに採取してカプセルに入れるだけでも、

女性が手伝ってあげるのが普通ですよ。

直接……男女の営みを介した提供も認められていますが、

義務としてカウントされるのは指定の場所だけです。

プライベートな場所で男女の営みをした場合は、

カプセルを男性保護局に送付すれば達成として認められます。」


彼女は一呼吸置いて、

「妊娠確率も、現実的です。

人工授精の場合、周期に合わせても女性40%程度、男性2%程度。

直接的な営みの場合、周期が合っていれば女性60%、男性5%くらい……

だから、女性たちは『男の子が欲しい』と願うと、

何度も挑戦したくなるんです」


俺は少し沈黙した。


恵子さんはさらに続けた。

「女性はそういった行為に対して好奇心が旺盛です。

10代後半がいちばんピークで、歳を取るごとに落ち着きますけど……

いつでも男性の要望に応えられるように、

美意識が高くて、男の子にモテそうな子は遺伝子提供カプセルは持ち歩いています。

やんちゃな子は、いつでもエロできるようにカプセルを持ち歩いています。」


俺は思わず苦笑した。

(前の世界で言うと、いつでもエロできるように『コンドームを持ち歩いている』感覚かな?

ただ、前の世界は避妊目的だったが、こっちでは逆だな……)


恵子さんは俺の表情を見て、優しく微笑んだ。

「男性は女性に興味が薄い人も多いですし、

見られるのを嫌がる人もいます。

でも女性は……結構幅広くOKなんです。

『この男性の遺伝子が欲しい』というこだわりはあまりなくて、

『男性の遺伝子がほしい』という気持ちが優先されるんです」


俺は少し考えて、

「じゃあ……遺伝子提供のお手伝いをしてくれる女性って、どうなってるんですか?」


恵子さんは少し声を落として、

「他の男の家督に入ってなければ、交渉次第です。

一般男性で勝率80%くらい……タケルさんなら、断られないと思いますよ」


その言葉に、

俺は少し胸がざわついた。

恵子さんは俺の表情を見て、優しく微笑んだ。


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