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境界を呼ぶもの 前編 -現実反転-  作者: ミッチー


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第六話 【脱出】



リョウが居た空間から距離が、開く。


背後で、何かが崩れる音。


振り返らない。


振り返った瞬間


“関係”が成立してしまう。


ミサキは、歩き続ける。


人間を、人間として終わらせるために。


そして、外なるものに“続きを与えない”ために。


空気が、少しだけ軽くなった。


ミサキは、それを感じ取った。


—— 上がある。


地下特有の、肺に溜まる重さが薄れている。


突然、視界の壁に白い矢印のようなもの。


だけど、誰かが後から描いたものだ。


チョークか石を押し付けて書いたような矢印。


(……タケル ?)


名前を、心の中だけで呼ぶ。


声には出さない。


呼べば、誰に届くか分からないから。


矢印の方向に進むと上に続く階段を見つけた。


喜びと安堵の感情が湧いた。


だが、それ以上に、知らない感情に阻まれる。


思考を深くしない為にも、淡々と進むしかなかった。


階段の踊り場。


そこに、ノートが落ちていた。


手帳サイズの小さいノート。


湿って、角が折れている。


中身は、びっしりとした走り書き。


 ——隔離

 ——呼称不可

 ——祓いではない

 ——残すことで防ぐ


ページの端に、血で書かれたような文字で。


—— タケル


まだ血が新しいように感じる。


「……無事なの?」


だが、最後のページだけ、違った。


文字が、崩れている。


 ——代替が必要

 ——境界に立つ者

 ——“看取らない存在”


ミサキの喉が、鳴る。


「……私」


書かれていない。


だが、意味は明確だった。


再び階段を上り始めた瞬間。


空間が、歪んだ。


音が、遠のく。


視界に、病院の廊下が重なる。


目の奥が痛い、明るい。


——昼間。


病院の一室、患者用ベッド。


そこに、ヒナがいる。


「ミサキー?」


穏やかな声。


「迎えに来てくれたの?」


喉が、締めつけられる。


介護士として、何度も聞いた言葉。


「……怖かったよー」


ヒナが、笑う。


ミサキは、一歩下がる。


それは、ヒナじゃない。


分かっている。


「……おーい‼︎」


今度は、タマキの声。


その病室にある古びたブラウン管テレビから聞こえる。


「最後まで、配信できなかったな‼︎」


テレビ画面の向こうで、タマキが手を振る。


リョウが、その奥に立っている。


静かに、こちらをじっと見ている。


レイコは、そっぽを向くようにこちらに背を向けている。


——全員が、待っている。


役割を、求めている。


ミサキの中で、声がする。


 ——呼べ

 ——名前を

 ——意味を


だが、ミサキは、何も言わない。


代わりに、深く息を吸う。


そして、介護士としてではなく、一人の人間として言う。


「……私は、ここにいない」


現実に、戻らない。


だが、巻き込まれもしない。


曖昧な立ち位置。


境界。


ノートの言葉が、脳裏に浮かぶ。


 “境界に立つ者”


景色が、揺らぐ。


ヒナの顔が、ノイズのように崩れる。


タマキの声が、途切れる。


リョウが、初めて目を逸らした。


レイコが振り返ろうと顔をこちらに向けようとしている。


—— その時。


歪みが、ほどける。


気づくと階段は登り切っていた。


そこに、非常階段と書かれた扉があった。


錆びた鉄の扉。


だが、外の匂いがする。


地下とは違う空気の温度差。


ミサキは、振り返らない。


名前を、呼ばない。


それが、この場所への唯一の勝ち方だった。


そして、扉に手をかけ、力いっぱい押し開ける。


ぎ、ぎぎ、と金属音が背後の階段に響き渡る。


開き始めた扉から光が差し込む。


その瞬間。


背後で、紙がめくれる音がした。


タケルのノート。


開きかけた扉から空気が流れこむ。


パラパラと、ページが捲れる。


そして開ききったノートの、最後のページに、新しい文字。


 ——生存確認

 ——境界、成立


誰が、書いたのか、ミサキは、考えない。


考えた瞬間、意味が生まれてしまう。


扉を、開けた。


地上に出た瞬間、ミサキは崩れ落ちた。


空は、あまりにも普通だった。


みんなで歩いた、廃病院の入り口すぐの、倉庫のような空間。


すぐ目の前の割れた窓ガラスの枠からリョウのハイエースが見える。


——昼。

——太陽。

——遠くの車の音。


「……助けて……」


声が出たのは、それから少し経ってからだった。


スマホで配信していた履歴を確認すると配信は、途中まで残っていた。


ヒナが笑っていたところ。


そして。


 ——暗転。

 ——悲鳴。

 ——混乱。

しばらく扉の前に座り込み、動けずにいた。


しばらくして廃病院から出た。


リョウのハイエースのドアに寄り掛かる。


鍵はない、ただ車体に体重を預けてポツリと言葉が漏れる。


「終わったの……?」


それだけで、十分すぎるほどだった。


安堵や悲しみなどの現実が押し寄せて涙が溢れだすのに。


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