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アクアイアの行き先

第九十七話

アクアイアの行き先


頂上は、想像していたよりもずっと静かだった。


三日月の中央、せり上がる岩山のてっぺん。

切り立った岩肌に囲まれ、風だけが低く唸っている。


運び屋が翼を畳み、僕と少女、濁将が地面に降り立つ。


「……私が居なくなって、ずいぶん寂しくなったものです」


濁将が、足元の岩を見下ろしながら言った。


「ここも、もう少しすれば人の領域になるのでしょうね」


少女は周囲を見回し、素直に声を漏らす。


「鎧将様の所より……切り立ってて、高い……」


「そうだね」


僕も同じ感想だった。


風が強い。

足を踏み外せば、真っ逆さまだ。


「大丈夫です。すぐ済みますので」


濁将は振り返り、淡々と続ける。


「では少年、申し訳ありませんが、一緒に少し山を下りましょう。

 空から着陸するには、少々面倒な位置にありますので」


そう言って、先に歩き出した。


「……本当にすぐみたいだから」


僕は振り返って、運び屋に声をかける。


「飛べるように、準備してて」


「わかってる」


運び屋は短く答える。


「私も行く」


少女が一歩踏み出す。


「ちょっと行ってくるだけみたいだから」


僕は軽く手を伸ばして、彼女を制した。


「大丈夫」


少女は少し不満そうにしたが、立ち止まった。


僕は濁将の後を追い、岩場を下りていく。


少し進んだところで、濁将が足を止めた。


「……私が静止するつもりでしたが、手間が省けました」


「?」


「おそらく、想像はできているでしょう」


濁将は僕を振り返る。


「少年のアクアイア。

 その大元を、君の首に下げているものに集約しようと思いまして」


「……集約?」


「君と過ごした時間で、私のすべきことが定まりました」


穏やかな声だった。


「本当に、頼りになります」


「……僕が、これを身につけていれば」


首元の飾りに触れながら、聞く。


「それで十分、ってことですか」


「ええ」


濁将は即答した。


「それで十分だと判断したまでです。

 ……到着しましたよ」


視線の先。


岩肌に走る大きな割れ目。

その奥で、光が脈打っている。


「……こんな大きなもの」


思わず声が漏れる。


「首から下げるのは、さすがに無理ですよね」


「ご心配なく」


濁将は淡々と答える。


「魔力を移すだけです。

 余った分は、私が自分に回収しますので」


「……」


「座っていただいて結構です。

 少々、お待ちください」


言われるまま、僕は岩に腰を下ろした。


――そのころ頂上。


運び屋が、空を見上げて低く言う。


「……風向きが変わった」


少女が身構える。


「なんだ? 危ないのか?」


「乗れ」


それだけだった。


少女は迷わず、運び屋に掴まる。


再び、岩の割れ目。


濁将が詠唱を始める。


低く、静かな声。


割れ目の奥で輝いていた巨大なアクアイアが反応し、

光が流れ出す。


それは、糸のように細くなり、

僕の胸元へと吸い込まれていった。


首飾りが、強く光る。


一瞬、視界が白く染まり――

次の瞬間、その光の一部が濁将の身体へと戻っていく。


「……さて」


詠唱が止む。


「終わりましたよ」


濁将は一礼した。


「では、翼将の所へ戻りましょう。

 お時間を取らせて、申し訳ありませんでした」


歩き出しながら、続ける。


「これからが大変ですよ。

 何と言っても、相手は――」


その言葉が、途切れた。


――胸に、衝撃。


光。


剣。


いや、剣に包まれた抜き手。


それが、まっすぐに、僕の胸を突き刺した。


呼吸が、止まる。


視界の端で、濁将が振り向く。


「……相手は――」


声が重なる。


「私だ。

 ……濁将。」


低く、冷たい声。


ArkKnight

 フィロ・ライトフィールド

つづく

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