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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第二章〜正しさの代償〜

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粛清 壱

ここから少しだけシリアスな雰囲気が続きます。

 行灯(あんどん)の灯りが揺れはじめる頃、土方歳三は足早に花街の通りを歩いていた。そのすぐ後ろには、近藤勇と山南敬助の姿がある。


 土方は一軒の芸妓茶屋(げいこちゃや)の前に着くと、迷うことなく中へ入った。


「ここに、新見(にいみ)って奴はいねぇか」


 そう番頭に問いかけると、奥から女将が顔を出す。


「新見はんなら、二階のお座敷に居はりますけど…」


「少し邪魔するぞ」


 女将の言葉を聞くや否や、土方はずかずかと店の奥へと歩いていく。

 その後に続きながら、近藤は女将へと軽く頭を下げた。


「すまないな、女将」


「え、えっと…」


「申し訳ありません。少し、お話をするだけですので」


 戸惑う女将に、山南は柔らかな笑みを向けると、近藤の背を追った。


 やがて土方は座敷の前に立つと、勢いよく襖を開け放つ。

 そこでは、新見と芸者が、仲睦まじく酒を酌み交わしている最中だった。


「ひゃっ」


 突然の音に、芸者は徳利を持ったまま固まってしまう。


「新見さん、話があるんだ」


「なんだね、土方くん。急に失礼じゃないか?」


 土方がそう言い放つと、新見は扇子を手にしたまま、にやりと笑った。

 その背後から、近藤がゆっくりと姿を現す。


「新見さん。実はあなたに金策(きんさく)の疑いが掛けられているんだ。二十両ほど借りたと、耳にしたんだが…」


 その言葉に重ねるように、土方が新見をじろりと睨みつけた。


「金策は、局中法度(きょくちゅうはっと)で禁じられている」


「ほう。それで、私を疑っていると?」


 新見の隣にいた芸者は、場の空気を察したのか、わずかに体を震わせている。

 山南は近藤の後ろから静かに部屋へ入り、芸者へと目を向けた。


「すみませんが、少し席を外していただけますか?」


「あ、は、はい…!」


 芸者は慌てて立ち上がると、足音を響かせながら去っていく。その背を見送った山南は、ピシャリと襖を閉めた。


「あんたが金策をしていなかったとしても、()()()()の最近の素行は見逃せねぇ」


 そう含んだ言い方をすると、土方は懐から紙束を取り出し、数枚をめくって見せる。そこには、表立った乱行だけでなく、裏で探り出した芹沢たちの動向までもが事細かに記されていた。


監察方(かんさつがた)にでも嗅ぎ回らせていたのか? さすが、農家の出は育ちが悪い」


「はっ、そうだな。俺は子供の頃"(バラ)ガキ"と呼ばれてたくらいだ。武家の出のあんたらに比べりゃ、品は無ぇだろうよ」


 土方は静かに一歩踏み込み、新見との距離を詰める。


「新見さん、新選組はまだこれから名を上げていかなきゃならねぇ。だからこそ、身内の不始末を放っておくわけにはいかねぇんだ」


 静まり返った座敷に、土方の声だけが落ちた。


「これだけの証拠が揃ってる。最期くらいは、武士らしくしろ」


 新見はフンッと鼻を鳴らし、酒を一息に煽る。

 それを見届けると、山南は懐から短刀を取り出し、土方へと差し出した。


 次の瞬間、ガシャン、と音を立てて短刀が新見の前へ投げられる。


 外から聞こえる花街の囃子が、いつも以上に賑やかに聞こえた気がした。

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