赤い提灯
「お前、知恵はあんのか?」
「…え?」
洗濯物を干していると、唐突にそんなことを聞かれ、かなたは思わず手を止めた。
振り向くとそこには、土方がいつものように不機嫌さを隠しもせず、腕を組んで立っている。
突然すぎる問いかけに、かなたは干しかけの布を持ったまま固まってしまう。
「知恵…ですか? 例えば、どんな?」
「夜目が効く方法を探してんだ。急に、灯りが消えることもあるだろ。そういう時に、対処する方法を探している」
「夜目かぁ……」
これは試されているのだろうか。いや、間違いなく試されているのだろう。
少し考えた後、ふと現代の知識が頭をよぎる。
そういえば、海上自衛隊の船などは夜に目を慣らすために、ランプを赤くすると聞いたことがある。
「提灯とかの和紙って、色つきのに変えれたりします?」
かなたのその答えに、土方は眉を寄せて顔をしかめた。
「色つきだ?」
「はい。明かりの周りの和紙を赤にすることで、夜目が効きやすくなるかもしれません」
「……そんなことで、本当に違うのか?」
土方は疑うように、更に目を細める。
「赤い光は、暗闇に慣れるのを邪魔しにくいらしいです。白い光はまぶしくて、一度目が慣れたら暗闇で見えにくくなる。けど、赤い光なら急に暗くなっても適応しやすいみたいです。夜間航海する船でも、赤い提灯を使っていると思います」
「なるほどな…まあ、やってみる価値はあるか」
そうボソボソ呟くと、土方は去っていった。
専門外では未来人のかなたでも、どうしようもないことが多いだろうが、なんとか今回は答えれてよかった。
そう思いながら、干していた洗濯物を再び竿に掛けはじめた。
ーーーー
それから数日後。
「そういえば昨日の夜、風が強くてよぉ……提灯の火が消えたのに、やけに周りがよく見えたんだよな」
「それ俺も思った! すぐ目が慣れたっつーか…なんでだ?」
永倉と藤堂の声が部屋の奥から聞こえる。それを廊下の奥から聞いていた土方は、無言のまま立ち止まった。
ふと視線を落とし、手に持っている提灯を見つめる。
(確かに、あいつの言った通りになった……)
「少しは使えるやつだな」
フンッと鼻を鳴らし、そう呟くと、土方は提灯の和紙を指先でなぞった。




