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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第八章〜己が道〜

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転換期

 それからというもの、隊内は慌ただしく、落ち着く暇もなかった。

 まず、土方たちが決めた内容を隊士全員に伝えることになったのだが、やはり不満を抱く者も少なくなく、ざっと二十人ほどが組を去っていった。


 その次に行われたのが、会津藩主の松平容保まつだいらかたもり公への謁見だった。経緯を全て話し終えたところで、松平公が半刻《約1時間》ほど沈黙したまま動かず、ようやくお預かり解任の承認を得られた。もしかしたら彼も、新選組の信念に少し影響を受けたのだろうか。その真相は分からないが、最後には「ご苦労だったと」声をかけてくれた。


 それでも、かみしもを着て、堂々と闊歩する新選組の姿は、後日瓦版の見出し絵となり、町民からは壬生狼みぶろが帰ってきたと噂になった。


「壬生狼再来、かぁ..」


「その壬生狼が、良い奴か悪い奴かってのが重要なんだけどな」


 まあ、鈴木の言う通りではある。

 かなたは野村に貰った瓦版を片手に、茶を一口啜る。この見出し絵が意外と格好よく出来ているので、それが気に入り、たまに懐から取り出して眺めているのだ。


 そして、今日は新しい屯所で大工たちとの話し合いがあった。かなたは外出の際、いつも誰かを連れて行くのだが、今回は鈴木が暇そうだったので声をかけた。

 帰りに「疲れた」と言い出した鈴木の一言で、仕方なく茶屋に寄ったのだった。


「それにしても、西本願寺の和尚がよく土地探しを手伝ってくれたな」


「私たちが出ていくって言ったら、凄い嬉しそうな顔してましたよ」


 和尚のおかげで、不動堂村の土地も無事に買い付けることが出来た。取り急ぎ、屯所だけでも大工たちに建ててもらっているのだが、今回はその他の部分でまだ着手していない所を相談してきたところだ。


「ところで、お前は結局何者なんだよ。小姓のくせして大工と話し合ったりよ...」


 そういえば、鈴木にはまだ自分の正体を話してはいなかった。そろそろ話してもいい頃合いだろうか。かなたは身を乗り出すと、向かいに座っていた鈴木の耳元に顔を寄せて、コソコソと囁いた。


「実は私......未来人なんですよ」


 その一言に、彼はどんな反応をするのだろうか。かなたは少しワクワクしながら鈴木の様子を伺う。


「...そんな面白くねぇ冗談で誤魔化そうたって、無駄だぜ」


 そういって、かなたの話を信じない鈴木の姿になんだか昔の土方を思い出して、つい嬉しくなってしまう。どんな反応をされてもこんな考えに至るのだから、自分は変態にでもなってしまったのだろうか。


「おい、何ニヤニヤしてんだよ」


 つい、懐かしさを感じて口元が緩んでしまったことに、反省しつつ、笑みを引っこめる。


「どうせあれだろ、本当は偉いどこかの藩士で、脱藩して行く宛てが無くなったから浪士組に入ったんだろ? そうだろ?」


 そんな鈴木にまた笑いそうになりながら、かなたは一息つくと懐から一枚の紙を取り出した。


「...ところで鈴木さん」


「おい、話逸らすんじゃねぇよ」


 そんなことを言われても信じなかった鈴木が悪いので、かなたは無視をして話を進める。


「新しい屯所ですが、空いた場所に蔵を作ってその中を牢にしようかと思ってるんです。配置的にどこがいいかなーと思っていて....」


「牢? なんでそんな物がいるんだよ。捕縛者は町年寄に引き渡すんだろ」


「それはほら...夜中だったら、引取り相手も寝てるかもしれないじゃないですか。そういう時の、一時預かり...みたいな?」


「...なるほどな。でもそんな金あんのか?屯所も建ててんだから、かなりの金額になるだろ」


「あれ、知らないんですか? 松平公から慰労金を頂いているんですよ」


 慰労金とはいわば、手切れ金のようなものだ。色々あったが、浪士組の頃から京の警備を続けてきた新選組に対し、かなりの額を工面してくれたのだ。


「ほぉ、会津公も優しいもんだな。それで、どのくらい貰ったんだ?」


 かなたは再び、鈴木の耳に顔を近づけるとごにょごにょと耳打ちをする。

 すると、鈴木は顎が外れるくらいの大口を開けた。


「に、二千りよ......!!」


 その言葉が出る前に、かなたは勢いよく鈴木の口を塞いだ。半ば平手打ちのような形になってしまったが、誰がどこで聞いているか分からないので仕方がない。


「鈴木さん、声大きいです」


「す、すまん...」


 鈴木は申し訳なさそうに眉を下げ、湯呑みを傾けた。

 嫌味を言うが、きちんと反省もできるので悪い人ではない。


「...まあ、脱獄や仲間の襲撃を考えると、大体真ん中辺りの屯所に近い部分が良いと思うぜ」


「それなら、逃げられても非番の人達で対処できそうですね。だとしたら、中庭を大きくしているので、そこにしましょうか」


 そういうとかなたは、携帯していた筆と墨壺を取り出し、屯所の配置図に丸をつけた。

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