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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第八章〜己が道〜

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不動堂村へ

大きな決断のお話が終わり、のんびりだけど新たなスタートのような、そんなお話です。

 慶応三年三月



 年が明けて、徳川慶喜(よしのぶ)が征夷大将軍になったとの報せから数ヶ月。

 ようやく人々の慌ただしさも落ち着いた頃、新選組の新しい屯所が出来上がり、西本願寺から不動堂村へと引越しが始まった。


「副長!行李こうりはこれで全部ですか?」


「ああ、よろしく頼む」


 土方は相馬にそう伝えると、文机に散らかっていた書類をまとめ始める。

 引越しの間際まで仕事を片付ける羽目になるとは思わなかったが、仕方がない。新選組が独立組織となってからは、色々な商家に連絡をしなければならなくなったのだ。


 人斬りだのなんだのと、言われて嫌煙されるかと思ったが、意外と町民や町年寄の人当たりもよく、少しずつ物事が上手く回りはじめている。


(これも、かなたが色々と変えてくれたおかげだな)


 土方がまとめた書類を風呂敷に包んだところで、後ろからカリカリと何かを引っ掻くような音が聞こえた。


「なんだ、お前か」


 振り向くと、部屋の入口に鈴木とかなたが拾ってきた三毛猫のミケ子が立っていた。

 最近は寒さのせいか、鈴木の部屋に篭もりっぱなしで姿が見えなかったが、外が騒がしいので気になって出てきたのだろう。


「なんだ? 鈴木と一緒に行かなかったのか?」


 ミケ子は「んにゃあ」と鳴くと、陽の当たる縁側で丸まり、そのまま寝てしまった。


「ほんとによく寝るな...」


 土方は苦笑いしながら立ち上がり、部屋を出てミケ子の隣に腰を下ろす。

 忙しさに追われていたが、気づけば季節はもう春だ。庭では、桜の花びらがひらひらと綺麗に舞い散っている。

 ここでの生活も早二年。浪士組として京に上ったのは四年も前になる。長いようであっという間だった。


「あ、土方さん!」


 聞き慣れた声に顔を向けると、かなたが湯呑みを二つ手に持ってこちらへ向かって来ていた。


「おう。作業はもう終わったのか?」


「はい。最後にお茶を入れたので持ってきました。...ミケ子もここに居たんですね」


 そういってかなたは土方に湯呑みを渡すと、ミケ子の隣に腰を下ろし、頭を優しくひと撫でする。

 その穏やかな笑みに土方はつい、見惚れてしまう。


 その視線に気づき、かなたが顔を上げると土方が真顔でこちらを見ているので、思わずきょとんとしてしまう。


「どうかしました?」


「...ああ、いや、なんでもねぇよ」


 土方は視線を前に戻すと、湯呑みを傾けた。

 しばらく、静かな時間が流れる。


「なんだか、この季節はボケっとしちゃいますよねぇ」


「春だからな...そういえば、新八が新しい屯所に着いたら花見でもするとか言ってたな」


「そうなんですか?」


「ああ。お前も来るだろ?」


「はい!行く途中に、お団子とか買いましょうか」


「そうだな」


 そんな穏やかな時間の中、遠くから沖田の声が響く。


「あ、土方さーん!かなたさーん!そろそろ行きますよー!」


「はーい!じゃあ、行きましょうか」


「ああ」


 かなたが立ち上がるその背中を見ていると、ミケ子も察したように伸びをしながら起き上がる。

 土方も腕を上げて伸びをすると、「よしっ」と小さく呟き立ち上がった。


 この後、新しい屯所へ向かう途中に立ち寄った団子屋で、土方とかなたは、沖田のどの団子にするか決められない優柔不断ぶりに、すっかり悩まされることになるのだった。

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