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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第八章〜己が道〜

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大改革!

「で、幕臣の話を断るってんなら、これからどうするんだよ? もしかしたら、幕府お抱えじゃ無くなるかも知れねぇんだろ?」


 最後に座ったかなたを見て、永倉が口を開いた。

 近藤の部屋の中央では、火鉢が小さくパチパチと音を立てている。

 その周りを囲むように、近藤、土方、山南、沖田、永倉、原田、藤堂、そしてかなたが腰を下ろしていた。


「幕府の傍から離れるってんなら、新選組は存続の危機だぜ」


「...そうだな」


 永倉が続けた言葉に、土方は目を伏せて答える。

 自分の決断に迷いはないが、皆を巻き込んでしまったことをどこかで気にしているようだった。

 かなたはそんな気持ちを察して、土方に微笑みかける。


「土方さん、私が言うのはおこがましいですが、あまり気にしなくてもいいと思いますよ。隊士の皆さんは、土方さんが信念を曲げてまで幕臣になることの方が、嫌だと思いますから」


「そうだな。弱気になってる土方さんなんか、見たくねぇよ」


 藤堂はそういうと、呆れたように肩をすくめた。


「ああ...ありがとな」


 土方は眉を下げて苦笑う。

 本当はこんな姿、彼も見せたくは無いだろう。それだけ皆のことを考えてくれているのだ。


「それでかなた。お前は何かいい案ないのか?」


 原田が顔を向けて問いかけると、かなたは少し唇を噛んで考え込む。


「あるにはあるんですけど....それが最善なのかと言われると、ちょっと微妙ですね」


「珍しく弱気だなあー」


 藤堂は軽口を叩くが、新選組の運命がかかっているのだ。少しは不安にもなる。


「とりあえず、聞かせてくれ」


 土方はそういうと、持っていた湯のみを畳の上へ置いた。


「えっと...これは案ではなく考えなんですが、会津藩のお預かりを抜けなかった場合だと、このままの組織で問題ないと思います。けど、戦が起こった時に幕府から招集がかかるのではないか、と思っています」


 実際には、"思っている"どころではない。間違いなくそうなるだろう。生き抜くことを選んだ彼らにとって、幕府の下に留まることは、もはや難しい問題だ。

 その言葉を聞いた近藤は、静かに眉を下げた。


「それだと、我々が幕臣の話を蹴る理由が無意味になってくるな」


「そうなんです...」


「結局、幕府の傍からは離れる、という手しか無い訳ですね」


 沖田の言葉に、一同は静まり返る。

 その静けさを裂くように、土方が低く声を出した。


「じゃあ、抜けた場合はどうだ? 『抜けなかった場合』というなら、『抜けた場合』の考えがあるんだろ?」


「はい。抜けた場合は...」


 かなたは言葉の途中で口を閉じた。この考えを口にしてしまえば、もう後戻りはできない。もしこれが物語なら、今がまさに最大の分岐点になるだろう。なぜなら、この一言が、今まで以上に歴史を大きく変えることになるからだ。

 かなたは一人一人の顔を見つめ、しばし目を閉じると、真っ直ぐとした目で前を向いた。


「新選組を、独立した組織として存続するのがいいと思います」


「独立......?」


 山南の言葉に、かなたはこくりと頷いた。


「どこにも属さずに、京の治安維持をする部隊になるということです。いわゆる、"自警団"というやつです」


「自警団か...悪くはねぇな」


「...そうだな。それなら、町民優先でことを勧められる」


 ニヤリと笑う永倉に藤堂も賛同する。

 その反応にかなたはほっと息をついた。誰も反対しないことに、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 そんな想いも束の間、山南が疑問を口にした。


「ですが、会津藩からこれまで頂いていたお金は受け取れなくなってしまいますね」


「はい。なので...西村屋さんみたいに、商人や町民、町年寄まちどしよりから支援を受け取るんです。それなら、今より資金も増えると思いますし、人も増やして巡察地域の拡大も出来ます!」


 町年寄とは、町の有力商人たちが町の取りまとめや治安維持、災害時の対処などを担う役職だ。現代でいうと、行政のような存在である。

 彼らにも治安維持以外の仕事は山ほどある。その負担を分け合ってくれる存在があるなら、むしろ歓迎してくれるはずだ。


「見廻組は幕府の命令で動きますが、こちらは完全に町民優先なので友好関係は結べると思います」


「なるほど......」


 かなたがそう言うと、山南は顎に手を当てて感心したように頷いた。

 一方、近藤は腕を組んだまま、難しい顔をしている。


「だが、新選組の組織なんか相手にしてくれるだろうか?」


「そこは、これから頑張るしかないですね。一軒一軒お店を回って協力要請をするしかありません」


 塵も積もれば山となる。その言葉のように、こつこつ評判を上げていくしかないだろう。


「かなたが新選組の改革を行ってから、町での評判は前ほど落ちちゃいねぇ。だったら、組の評判を上げるなんて難しい話でもないだろ。自分たちの株は自分たちの行いで上げる。それを俺らの売りにしてやろうぜ」


「そうだな...なんか、やる気がみなぎってきたぜ!」


 土方の言葉に永倉は腕を鳴らしてにかりと笑った。


「そういえば、罪人とか捕まえた人たちはどうします?...評判を上げるとなれば、もう殺しはできませんよね?」


「そうだな。それに、見廻組や奉行所に突き出すとなっても、幕府を抜けた俺らじゃ、あまりいい顔はされねぇだろうよ」


 もちろん、沖田と原田の言う通りだ。殺すとなれば『人斬り』の名は消えない。かといって、幕府の縄張りで好き勝手に捕縛すれば、それもまた敵を作ってしまう。出来れば、穏便に済ませたいところだ。


「では、町年寄を通して奉行所に引き取ってもらうのはどうでしょう? もちろん、沖田さんの言う通り殺しは無しにして、捕縛のみということにしましょう」


「よし、じゃあそれで決まりだな!」


 かなたの提案に、藤堂が意気込むように膝を叩いた。


「あの、一つ気がかりな事があるのですが....」


「どうした?」


 山南の真剣な口調に、土方が眉をひそめる。


「幕府側を抜けるとなると、この西本願寺に来ていたという尊攘派の抑止力が無くなってしまいます。なので、引越しを検討した方がいいかと思うのです」


 山南のいう『尊攘派への抑止力』とは、新選組が西本願寺に移る前、この寺が尊攘派の拠点として使われていたという話のことだ。それ故、佐幕さばく派の新選組は尊攘派を牽制する目的で、この西本願寺を屯所に選んだのだが、幕府の庇護を離れるとなれば、その抑止力は失われ、恨みを積もらせた尊攘派に狙われかねないだろう。


「確かにそうだな...しかし他に、良さそうな場所はあるだろうか?」


 近藤が心配そうに口を開いたその瞬間、かなたが勢いよく身を乗り出した。


不動堂村ふどうどうむらという所の土地に新しく建てるのはどうでしょう? お金はかかりますが、この先も組織を続けるのであればその方が安いと思います!」


「悪くはねぇが...そこの地主は俺たちが来るとなれば嫌なんじゃねぇか?」


 土方の言葉に、かなたは再びずいっと前に出る。


「じゃあ、西本願寺の和尚おしょうさん手伝って頂きましょう!私たちが出ていくとなれば、彼らも協力してくれるはずです!」


 手荒な真似はしたくないが、仕方がないので和尚には一役買ってもらおう。


「そうと決まれば、他の隊士たちにも話を通さないとならないな」


 近藤の言葉に、土方も深く頷いた。


「ああ。分かってくれるといいんだが...」


「また弱気にならないでくださいよ、土方さん。こんな居心地の良い場所、誰も手放したりしませんって」


「沖田くんの言う通りです。でないと、今まで土台を作ってきた意味がありませんからね」


 山南はそう言って茶をすすると、にこりと笑う。この人には負担ばかりかけているので申し訳ない。


「じゃあ早速、今の話をまとめて他の組長に報告だな」


 原田が立ち上がりかけたその時、かなたが慌てて声を上げた。


「あの!よかったら、円陣組みませんか?」


「円陣? 円陣なんか組んでどうすんだよ」


 永倉は意味がわからず、首を傾げる。

 だが、そう思うのも無理はない。江戸時代の「円陣」は、ただ話し合いのために集まるだけのものなのだ。

 かなたは立ち上がり、手を中央に差し出す。


「未来ではこうやって一人一人が手を重ねて、『行くぞ!おー!』っていう風に、喝を入れる儀式があるんです!」


「へぇ、なんか楽しそうだな」


 藤堂が立ち上がると、他の者たちも自然と続いた。


「手を置く順番はあるのか?役職とか...」


 土方がそう尋ねると、かなたは顎に手を当てる。


「うーん。特に聞いたことありませんけど、組の長が『やろうぜ』って言って、最初に手を置く印象ですね」


「では、俺からだな」


 そういうと近藤は真ん中に手を差し出し、その後に土方、山南と順に続いて、最後にかなたが一番上に手を重ねた。


「号令も俺がかけるのか?」


「はい!お願いします!」


 かなたが力強く頷くと、近藤は小さく咳払いをして口を開いた。


「みんな、これから今まで以上に大変なことが沢山待ち受けているだろう。だが、我々は今まで力を併せ、難を幾度となく、乗り越えてきた。この仲間となら何だって出来る!そう私は信じているぞ!」


「近藤さん!早くしてくれ!腕が痺れてきた...!」


 永倉の悲鳴まじりの声に、近藤は思わず眉を下げて笑う。


「す、すまない...」


 近藤は一息つくと、改めて声を張り上げた。


「ではこれから、新しい世界に飛び込む我々の勝利と町の平和を目指して...行くぞ!!」


「おー!!!」

新・新選組のスタートでございます。

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