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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第八章〜己が道〜

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選んだ道

 かなたはいつものように、せっせと中庭で箒を動かしていた。この時期は落ち葉が多くて大変だ。いつか、甘薯かんしょで焼き芋でも提案してみようか。沖田や藤堂あたりなら、きっと喜ぶに違いない。

 そんなことを考えながらも、手を止めるとどうにも落ち着かなかった。

 原因は、四半刻ほど前に遡る。


 土方が突然、近藤に「大事な話がある」と告げて近藤の部屋へと入っていったのだ。

 その瞬間から屯所内はざわつき、あれこれと憶測が飛び交った。


 けれど、かなたや幹部隊士たちは理由を知っていたため、他の平隊士たちをなだめるしかなかった。


 かなたは箒を握り直し、ちらりと近藤の部屋を見やる。

 部屋の前には、永倉・沖田・藤堂のわんぱく御三家が、まるで聞き耳を立てるように並んでいた。





 ーーーー





 近藤に声をかけたのはつい先程のこと。それから外がなにやら騒がしい気がするが、気のせいだろうか。

 障子の向こうに人の気配がするが、こればかりは気のせいではないだろう。

 なぜか目の前にいる近藤でさえ、少し緊張している様子だ。


「...近藤さん。なんであんたまで、そんなにソワソワしてんだ?」


「い、いや...トシがどんな決断をしたのか、それを考えるだけで少しドキドキしてな....」


 この人は隊の長だというのに、外の空気に影響を受けやすい性質タチなのだ。


「ということは、どんな話か分かってるってことだよな?」


「あ、ああ。幕臣の件だろう?」


 先日、幕府から直々に"幕臣にならないか"と打診があった。土方は悩みに悩んだ末、一つの決断を下した。

 だが、その答えを聞いたとき、近藤はどう思うだろうか。

 もしかすると、その瞬間に絶縁を言い渡されるかもしれない。そう思うと、喉の奥がひどく乾いた。

 それでも、武士として。いや、一人の人間として、伝えなければならなかった。


「そ、それで...どうするんだ?」


 近藤は痺れを切らしたように問いかける。

 土方は手を揃えると、勢いよく畳に頭をつけた。


「と、トシ?!」


「すまねぇ、近藤さん。俺は...幕臣にはなれねぇ」


 近藤はいま、どんな顔をしているだろうか。尊敬する同士だからこそ、自分の想いを曲げるわけにはいかなかった。


「俺は最初、近藤さんを立派な武士にしてやろうと、この地に上った。けど、俺たちの周りでは色んなことがあったよな。そして今じゃ、見廻組をも超える勢いでこの京の町を守ることが出来てる。最初は武士だのなんだのと、身分に囚われていたが、今は自分たちの力でも上を目指せるんじゃないかと、そう思えるようになったんだ。それに....」


 土方は一呼吸置いて、強く言葉を放つ。


「俺はあんたに、皆に、生きるために剣を振って欲しいんだ!そしてその剣で、一緒に誰かの未来を守りてぇんだ!」


 いつも店の前にいる商人も、偶然出会った親子も、まだ見ぬ町の人々も、仲間や自分自身も、全ての人の未来のために。


 土方の声が部屋に響き渡った後、しばらく沈黙が続いた。その時間が、異様なほど長く感じられる。

 やがて近藤は一息つき、ゆっくりと口を開いた。


「......そうか」


 そして、土方の肩に手を添える。


「まあ、まずは顔を上げてくれ。トシ」


 その言葉に、土方はおそるおそる顔を上げた。

 近藤の顔には、少し寂しさが滲んでいるように見える。


「すま...ねぇな......近藤さんの想いを踏みにじっちまって」


「...いや、それはこちらの台詞だよ」


 近藤は眉を下げ、微笑んだ。


「トシの答えなんか、とうの昔に分かっていたはずなのに、嬉しそうに話をしてしまった俺が悪かった。すまない」


 そう言って、今度は近藤が頭を下げる。


「お、おい。やめろよ。顔を上げてくれ」


 土方はその姿に、慌てて手を伸ばした。


「俺はその話を断るが、近藤さんだけでも幕臣になるっていう手もあるんだ....」


 だが、近藤は首を横に振る。


「いや。トシが下りるなら俺も断る。お前に新選組の運営を任せてきたのだから、当たり前だろう?それに、最初は嬉しく思っていたが、今はお前と同じ考えなんだ」


「え...」


 近藤は恥ずかしそうに鼻をかき、笑った。


「よくよく考えてみれば...の話だったがな......この時期に幕臣の話が来るなんてのもおかしなもんだ。俺達はきっと、利用されるだけの存在なんだろう」


「......」


 その時、土方の脳裏に坂本との会話がよぎる。幕府もそろそろ終わりを迎えるかもしれない、そんな話が。


「だが、この話を蹴るとなると、色々と問題も出てくるぞ。会津藩のお預かりのままではいられ無いかもしれない」


「...そうだな」


 そうなれば、新選組の存続どころではない。だから、話すのに勇気が要った。

 責任を感じる土方に、近藤は肩をバシバシと叩きながら笑った。


「だが、我々には頼もしい仲間たちがいる!それに、未来人も!」


「ああ、そうだな」


 にこにこと笑う彼女の姿が頭に浮かぶと、自然と笑みがこぼれてくる。不思議なことに、これだけで土方たちの心には自信が湧いてくるのだ。


「まあ、この話は皆を混じえてしようじゃないか」


 そう言って近藤が障子を開けた途端、どさどさっと何かが部屋の中へ雪崩込んできた。


「いたた.....あ、お話、終わりました?」


 そこには永倉、沖田、藤堂、そしてかなたの姿があった。


「あはは、すみません....」


 かなたは申し訳なさそうに謝るが、他の三人は反省の色など微塵も無い。やはり、最初に感じた気配は間違いでは無かったようだ。

 土方は呆れたようにため息をつく。


「おい、お前ら....」


「ん?お前ら、何やってんだ?」


 土方がそう言いかけたところで、かなた達の背後から原田が盆に乗せた湯呑みを手にやって来た。


「何やってって、左之さんこそ何やってんだよ」


「そうですよ?なんですかそれは?」


 藤堂と沖田は、目を細め原田に詰め寄る。


「い、いや、近藤さんと土方さんに茶を持って行こうと思ってよ....」


「お前、ちゃっかり話を聞こうとしてんじゃねぇか!」


 普段は茶の用意などしない原田に、永倉がここぞとばかりに突っ込む。


「おやおや、皆さんお揃いで....」


 すると、反対側の廊下からは、原田と同じく盆を持った山南が現れた。


「山南さん?どうしたんだよ....」


 土方が眉をひそめると、山南は気まずそうに笑いながら盆を掲げる。


「ええっと...原田くんがお茶を持っていこうとしているのを見て、お菓子をと思いまして......」


「山南さんもか....」


 山南の言い訳に、永倉は苦笑混じりに頭をかいた。


「結局、みんな気になってたってことか...」


「当たり前だろ〜、俺たちがどんだけ心配したと思ってんだよ」


 土方が肩を落とすと、藤堂が即座に口を挟む。


「そうですよ。他の隊士たちなんか、お二人が不仲なんじゃないかーとか、いい加減な噂を口にしてましたからね。あんまり、心配かけないでくださいよ」


 沖田の唇がいつも以上に尖っているのを見て、土方は眉を下げて笑った。


「じゃあ、早く中入れ。これからの事考えんぞ」


「.....え?」


 いつもより、素直な土方に一同は思わず目を丸くする。


「...なんだよ、その顔は」


「土方さんが珍しく素直だ〜!」


「うるせーぞ、総司」


 そのやり取りに、かなたも他のみんなも釣られて笑ってしまう。


 本当にタイムスリップしてきた場所がここで良かった。これからも皆と共に頑張っていこう。

 それだけで、前に進む理由になれるのだ


 かなたはそんなことを思いながら最後に部屋に入ると、静かに障子を閉めた。

活動報告でも言いましたが、次のお話からかなり歴史改変になりますm(_ _)m

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