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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第六章〜日本の夜明け〜

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少しの我儘

 夕刻、土方は屯所へ戻ると、まっすぐにかなたの部屋へ向かった。部屋の前に立つと、中からかすかなうめき声が聞こえてくる。


「うぅ......」


 襖を開けると、布団に伏せるかなたの姿があった。


「熱は下がったか?」


「....土方さん?」


 ぼんやりとした声が返ってくる。まだ熱は下がってないようだ。


 土方は部屋に入り、かなたの枕元に腰を下ろした。


「まだ、つらいです」


「今夜が峠だろうな。これを超えれば落ち着くだろ。まだもう少しの辛抱だ」


「はい....西村屋はどうでした?」


「あぁ、支援はしてくれる事になった。お前の言った通り、書面も貰った」


「.....よかった」


「西村屋が随分とお前の心配をしていたぞ」


「本当ですか?」


「ああ、悪い奴ではなさそうだな」


 坂本や西村屋が信じられる存在になって良かったと、かなたは安堵する。けれど心配事が消えると、代わりに熱と痛みがじわじわと意識を侵してくる。


「薬を持ってきた」


「....あ、石田散薬いしださんやくだ」


 石田散薬とは土方の実家で作っている薬だ。その名を聞けば目を輝かせるところだが、今はそれどころでは無い。


「知ってんのか。なら話は早ぇ。飲め」


 土方はかなたの体を起こすと、薬包紙を口元に差し出す。土方の体温と熱のせいで頭がおかしくなりそうだ。


「ほら、口開けろ」


 元気なときに飲みたかったと思いつつ、かなたは言われるままに口を開いた。


「.....うぇ....にがぁ....」


 前言撤回しよう。もう飲みたくない。


「薬なんてそんなもんだ」


 土方はかなたを再び寝かせると、少し目を伏せた。


「....次からはもう少し俺たちを頼れよ」


「もうしませんよ。あんなことは」


「あんなこと、じゃなくてもだ。.....なんでもいいから、言え」


「........はい」


「じゃあ、俺は行くぞ」


 土方が腰を上げかけたそのとき、かなたの細い腕が伸び、彼の袖を掴む。


「な、なんだ?」


「.....土方さん、もう少し.....ここにいてください」


 土方が忙しいことは分かっている。けれど、どうしても名残惜しくて、手を伸ばしてしまった。


 土方は呆れたように笑い、再び座り直す。


「はぁ.......わかったよ。お前が寝付くまでいてやる」


「ありがとうございます......」


 かなたは嬉しそうに笑うと再び目を閉じた。


 朦朧とする意識の中で、額に土方の手の温もりを感じた気がした。

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