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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第六章〜日本の夜明け〜

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心配

 屯所に戻ると、かなたはすぐに山南の元を訪ねた。


「山南さん、お話ししたいことがあります」


「かなたさん? どうかしましたか?」


「.....実は、坂本龍馬と接触してしまいました」


「.....ええ?!」


 山南は思わず持っていた筆を落とした。畳に墨が飛び散る。後で掃除をしなければ。


「才谷梅太郎のことを聞き回っていたら、突然現れて......そのまま一緒にお茶をしました」


「自分のことを探っている輩とお茶とは......坂本さんも、なかなか風変わりなお人ですね」


 山南は呆れたようにため息をついた。


「ははは......それで、なんやかんや話してたら坂本に気に入られてしまって............」


 かなたは、坂本とのやりとりを順を追って話した。新選組の資金難のこと、商人を紹介してもらえること、そして近々その商人と交渉することになるだろうということ。山南は黙って聞き、うなずきを返す。


「なるほど......坂本龍馬が、あなたに興味を持ったのですね」


「ええ。彼は、私のことを『おもしろいやつ』だと言っていましたね」


 自分では微塵も面白い人間だと思っていないのだけれど。


「ふふ、あなたのことをそう評するのは、彼に限ったことではないかもしれませんね」


「そう....ですかね......?」


 山南は茶を口に含み、穏やかに微笑んだ。


「商人との交渉、あなたに任せてもよいと思います。ただし.......」


「……ただし?」


 笑みを残しながら、山南の表情にわずかに陰がかかる。初めて見るその顔に、かなたは恐怖を覚えた。仏の顔も三度まで。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。


「もうここまできたら、土方くんに相談無し、とはいかないでしょう?」


「うっ.......そう、ですよね」


「彼は怒るかもしれません。でも、あなたが隠している方が、もっと怒るでしょう」


「...はい」


「土方くんは合理的な人間です。最初は感情的になっても、最終的には新選組にとって最善の判断をしてくれるでしょう」


「......ありがとうございます、山南さん。少し気持ちが楽になりました」


「無論、あなたへの心配の方が大きいでしょうが....」


「え?」


「何にせよ、その商人についても調べる必要はありますね」


「はい、近々坂本さんから手紙が来ると思うので、そこから商人の調査をお願いできますか?」


「わかりました、それではまたご報告をお待ちしておりますね」


「はい。よろしくお願いします」


 次は土方の部屋だ。腹を括らなければならない。かなたは重い腰をあげて立ち上がった。





 ーーーー





 物凄く胃が痛む。


 そんなことを考えながら、かなたは正座をしたまま嫌な汗をかいていた。向かいには腕を組み、あぐらをかいてこちらを睨む土方。まるで、屯所に来たばかりの頃のことを思い出す。......もしかしたら斬られるかもしれない。


「......で?その坂本がなんだって?」


 山南にした説明と同じことを土方に話したのだが、かなり機嫌が悪いようだ。それも当然だろう。かなたがここ数日コソコソ出かけていることに、土方が見抜かないはずが無い。ようやく切り出した話題が坂本のこととくれば、腹を立てるのも当然だった。軽率に動いたことを、かなたは今さら後悔する。


 けれど、坂本に接触したのは不可抗力だ。声をかけてきたのは向こうなのだから。そうだ、悪いのは坂本。......そういうことにしておこう。


「えっと...........坂本さんって人が、資金援助のために商人を紹介してくれるって...........」


 怒気をまとった土方の前で、自然と声が小さくなる。


「一人でその男に会ったのか?」


「は、はい.....でもそれは不可抗力で........」


「ッチ」


(......早くここから逃げ出したい)


「しかもそいつは、薩長と繋がりがある人間ときた」


「はい.....。ただ、話を聞いてみるか? という感じで、こちらの情報は一切与えていませんのでご安心ください........!」


「ったく、勝手に先走りやがって。だが......確かに今、金は足りねぇ。使えるもんは使うしかねぇか.....で?その坂本とやらが、商人を紹介するってのは本当なのか?」


「は、はい。もちろん、私もすぐに信用するつもりはありません。でも.....」


 ひと呼吸おき、かなたは真っ直ぐに土方を見た。


「隊士たちの生活も、決して楽じゃない。少しでも余裕ができれば、皆もっと安心して働けるようになると思うんです」


「......」


 土方は目を伏せた。黙られるのが一番怖い。しばしの沈黙の後、土方は深くため息をつく。


「.....お前が本気でそう考えてるなら、俺は止めねぇ」


「え....」


「だがな、危ない真似はするじゃねえぞ」


「は、はい!」


「.......あと、今度そいつと会う時は、俺にも報告しろ」


「え?」


「.....お前が、変な男に気に入られでもしたら、面倒だからな」


 つまり、土方はかなたが男にうつつを抜かすと思っているのか。それに関しては安心して欲しい。土方以上に良い男はいない。

 無論、自分が想っていることすら彼は知らないのだけれど。


 ともあれ、資金問題の第一関門はどうにか突破した。

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