西村屋 重兵衛
坂本龍馬と会って、七日ほど経った頃にようやく彼から手紙が来た。差出人は才谷梅太郎とあり、中には京の呉服商の紹介が記されていた。
江戸時代初期から続く呉服屋で主人の名は、西村屋重兵衛という男だ。西村屋はとある依頼を果たせば、支援をしてやってもいいと言っているらしい。
かなたはすぐに土方と山南を読んで事の経緯を説明した。
「.....なるほどな。『とある依頼』か」
かなたの説明に土方は腕を組み、眉間に皺を寄せた。
「はい。しかも西村屋は京ではそれなりの大店らしいので、成功すればかなりの支援を頂けるんじゃないでしょうか」
「そうですね。行ったことはありませんが、京に居るだけで名前を聞く呉服商ですから、かなりの大物ですよ」
山南も知っているのだから、京ではかなり有名なのだろう。
「そうだな.....だが坂本にしろ、まだ信用出来ねえ部分もある」
「はい。なので西村屋の周辺を、山崎さんに探ってもらおうかと....」
かなたはちらりと山南を見やった。
「そうですね。調査をしてから考えても遅くは無いでしょう」
「ああ。身辺調査が終わったら、依頼の件も含めて、かなたと山南さんで西村屋のもとに行ってくれねぇか。俺じゃあ警戒されるかもしれねぇからな」
土方の申し出にかなたと山南は顔を合わせる。珍しい気遣いだ。
土方は二人の顔を見ると唇を少し尖らせる。
「なんだよその顔.。.......山南さんまで」
「い、いえ。土方くんはこういう場では、自ら出向く性格だと思っていましたので....」
山南の言葉にかなたも全力で頷く。
「俺が行ったら、迷惑をかけるかもしれねぇだろ....。それに手が出るかもしれねぇ」
確かにそれは遠慮してほしいところだ。
「まあ、とにかく、西村屋の素性が分かれば行動だ。いいな?かなた」
「は、はい!」
勝手に坂本に会ったことをまだ引きずっているらしい。もうしないと決めたので、そろそろ許して欲しい。
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坂本からの手紙が来て数日後、かなたは山南とともに西村屋重兵衛に会うため、指定された屋敷へ向かっていた。
「山崎くんの調査によると、西村屋はここ最近、多くの用心棒を雇っていたらしいです」
「らしい?」
「ええ。どうやらそれも長くは続かないようで、雇い続けていた....ということです」
「なにか裏でもあるんでしょうか?」
「それか、依頼に関することかもしれませんね」
そう話をしているうちに、西村屋の屋敷へ到着した。新選組と伝えると、すんなりと入れて貰えて拍子抜けする。
屋敷の中は、さすが京の大店とあって、贅を凝らした調度品が並んでいる。異国から仕入れたものばかりだろうか。
かなたキョロキョロと当たりを見回していると、落ち着いた雰囲気を持つ初老の男があらわれた。
「よう来なはったな。わてが西村屋重兵衛や」
「新選組の中村かなたです。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
「同じく、新選組 総長の山南敬助と申します」
二人が丁寧に挨拶を済ませると、西村屋は笑みを浮かべて席へと促した。
「噂には聞いとるけど新選組はんは、ほんまに若い衆ばっかりやなぁ」
「京の治安を守るためには、体力のある方が必要ですので」
山南が軽く微笑むと、西村屋は満足げに頷き本題を切り出した。
「さて、才谷はんから話は聞いとる。あんたらが資金に困っとるっちゅうことで、わてが力添えするかどうか....まずは一つ、頼みを聞いてもらいたいんや」
「はい。その件についてお話を伺いに参りました」
かなたの返事に西村屋は口元をゆるめ、扇子をゆっくり開いた
「実はなぁ......最近、わての商売相手の荷を襲う盗賊が増えとるんや」
西村屋の言葉に山南は顔をしかめた。
「盗賊......ですか?」
「せや。特に夜道での襲撃が多うてな、ちょっとした厄介事や」
「それで、新選組にその盗賊を捕まえてほしい、と?」
「まあ、そないなこっちゃ。用心棒も雇うてみたんやけど、どうにも手強うてなぁ。商人のわてらに武力はあらへんし....せやけどそれで商売が立ち行かんようになったら、京の経済まで揺らいでしまうかもしらへんやろ?」
経済が乱れれば町民に不安を煽るかもしれないと、言いたいのだろうか。確かに、治安維持にも直結する軽視できない問題ではある。
「せやから、新選組はんにちょっと手ぇ貸してもらいたいっちゅうわけや」
山南は少し考えるように俯くと、すぐに顔を上げた。
「なるほど。それで、その依頼を果たせば....」
「新選組を信用して、資金援助をさせてもらおか」
西村屋の言葉を聞いた瞬間、かなたは筆と紙を取り出す。我ながら用意がいい。
「書面に残しておくことって、出来ますか?」
横で山南が、どこか苦笑いを浮かべている。
「仕事ができる子やなぁ」
西村屋は豪快に笑うと、すらすらと筆を走らせた。
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屯所へ戻ったかなたと山南は、その足で土方のもとへ向かった。
「新選組が盗賊どもを捕まえれば、金を出すってことか」
「はい。まあ、試されているんでしょうね」
かなたはそう言いながら、饅頭を一口かじる。土方の部屋に行く途中、島田が差し入れてくれたのだ。皮はふわふわで、餡子がぎっしりと詰まっているのに、甘さは控えめでつい顔がほころぶ。
「彼にとっても、ただお金を出すのは損ですからね。試験、といったところでしょう」
山南が淡々と口にすると、土方はしばらく考え込み、やがて唸るように言った。
「しょうがねぇ。やってやるか」
「えっ、本当ですか?......罠かもしれないんですよ?」
かなたは土方の予想外の返事に声を上げる。
「これがうまくいけば、資金繰りも多少は楽になる。例え、罠だったら、西村屋ごとその場で叩き斬ってやるよ」
頼もしいのか、物騒なのかわからない。
土方は目を細め、鋭い視線を二人へ向けた。
「だが、野盗退治なんざ簡単な話じゃねえ。相手がどんな連中かもわからねえ」
「そうですね」
かなたと山南は同時に頷く。
「罠の可能性も踏まえて、信頼できる奴らだけを集めて、慎重に動くぞ」
「そうですね。戦力をしっかり整えて臨むべきです」
土方の言葉に山南がすぐに賛同する。
「まず、戦いで確実に動ける奴が必要だ。総司、斎藤、あと新八あたりは外せねえな」
「彼らなら、実戦経験も豊富ですね」
「それと、裏を取るために監察方の山崎を同行させる。西村屋の話が本当かどうか、実際の状況を確かめる必要がある」
「山崎さんがいれば、野盗の動きも事前に探れそうですね」
「では、私から声をかけておきましょう」
「ああ。あともう一人、動きが取れて、頭の回る奴......平助を加えるか」
「平助くんもですか?」
「あいつは機転が利くし、野盗退治の際に何かしらの役に立つはずだ。あとお前もだ、かなた」
「え!私ですか!?足でまといになりますよ!」
かなたは思わず饅頭を食べていた手を止める。
「戦わせるわけねぇだろ。お前は影から見とけ。西村屋に報告するためだ」
「わ、わかりました.....」
不安だが、仕方がない。また血飛沫を浴びないようにしないと。
こうして、 「土方、沖田、斎藤、永倉、藤堂、山崎、かなた」 の盗賊討伐がメンバーが決まった。




