変装
投稿頻度はまちまちになるかと思います。
とりあえずプロット自体はあるので、加筆修正をしながらできたら投稿しています。
翌日、近藤・土方・沖田が信頼する幹部隊士を集め、ことの事情を説明するために広間に集まった。
かなたはちょこんと隅に座り、面子の顔を観察する。
「ほーん、それでどうやって監視すんだよ」
土方の説明を聞いて、永倉新八が口を開く。
「土方さんが一番疑ってんなら、土方さんの小姓ってことにしときゃいいじゃん。それで監視すればさ!」
次に永倉の隣にいた小柄な男 藤堂平助が続けた。
「確かに。俺らは今の話を聞いて特に異論は無いしな」
「逆に、なんであんなもんが信じられるのか聞きてぇよ」
原田左之助の言葉に、土方は眉をひそめる。
「だが、あの写真を見せられれば、信じてしまうだろうな」
落ち着きのある声でそう喋るのは、井上源三郎だ。
「あれは凄かったですね。俺も格好よく撮ってもらいましたよ」
井上に続き大柄の男が答える。
この男の名は島田魁。新選組の中でも一番の巨漢だろう。
「ただ...女性となると少し厄介ですね」
最後に口を開いたのは、新選組の二人目の副長である山南敬助だった。
かなたと同じく端に座っている二人は、会話には混ざらないようだ。
(多分、左の人が斎藤一で右の人が山崎烝かな?)
斎藤一だと思われる人物は、右腰に刀を指しているのできっと本人だろう。本来なら左腰だが、斎藤一という人物は左利きなので右腰に指している、というのはどの創作物でもお約束なのだ。
「芹沢さんに女がいると知られるのが一番厄介だ。しょうがねぇから、こいつには男の格好をしてもらう。平助、お前着るもんを貸してやれ」
「俺? 別にいいけどよぉ...」
「平助が一番背丈も近いだろ」
困ったように顔をかく藤堂の頭を、原田がポンポンと軽く叩いた。
「で、話の続きだ。どの監視下に置くか、だが...」
「私、土方さんがいいです!」
土方のその言葉を遮ってかなたが声を上げる。
「....は?」
驚く土方を目の前に永倉、藤堂、原田は笑いをこらえきれず肩を揺らした。
「ブフー!」
「おい、何笑ってんだお前ら...!」
「いや........そんなつもりじゃ...ねぇんだけどよ..ブフォ!!」
その永倉の笑いに連れられて、沖田も大口を開ける。
「あはは!やっぱり、かなたさんはおもしろいですね!」
「だって、土方さんの近くにいた方が、皆さんのお手を煩わせることもありませんし...」
「俺の手は煩わせていいのかよ」
土方は腕を組み、軽く舌打ちしながら不機嫌さをあらわにする。
「まあ、そういうなよトシ」
そんな土方を見て、近藤はなだめるように微笑んだ。すと、藤堂がかなたの肩をつつく。
「まあ、とりあえず俺の着物渡すからさ、こっち来いよ」
かなたは土方の怒気を避けるため、すぐさま藤堂の後を追いその場を逃げるように去った。
ーーーー
藤堂はかなたを連れ、とある一室の前で止まり襖を開ける。この部屋は物置になっているのだろうか、箪笥や衣紋掛けが複数並んでいる。どうやら、何人かの私物をまとめて保管しているようだ。
「俺の場所はここな」
藤堂は一番手前の箪笥の引き出しを開けると、着物と袴を取り出す。
「...ありがとうございます」
かなたが頭を下げると、藤堂は袴を手渡しながら、少し困ったように笑った。
「ていうかお前も災難だよなー、帰る方法もわかんねぇんだろ? まだ子供なのによく頑張ってるよ」
(子供?)
かなたの眉がぴくりと動く。今聞き捨てならない言葉が聞こえたが気のせいか。
「あの、私、子供じゃありませんよ?」
「へ? そうなのか? いくつなんだ?」
「十九です。数えだと二十かな?」
「ほんとかよ?!俺と同じ歳じゃねぇか!」
藤堂のあまりに素っ頓狂な声に、かなたは思わず肩をすくめる。そういえば昔、童顔だと言われたことを思い出す。そんなに子どもっぽく見えるだろうか。かなたは少し気にして、箪笥の上に置かれた銅鏡で顔を確認した
しかし、見たところ新選組の隊士の身長は、この時代の成人男性より高い。かなたも158cmはあるが、その中に混じれば子供に見えるのかもしれない。
(私の身長だと、江戸時代の成人男性の平均くらいなんだけどな....)
「じゃあ、敬語とかも使わなくていいからさ。名前も、適当に"平助"とでも呼んでくれよ」
「じゃあ、平助くんで...」
「おう!よろしくな、かなた!」
ほがらかに笑う藤堂は、気さくで話しやすい。だが、ふと部屋を見回して気づく。ここで着替えろということだろうか。かなたは着物の着方が分からない。
「あの、平助くん。私、着物の着方が分からないのだけど...」
「ん? 未来では異国の服が普通なのか?」
まあ、そうなのだが。
「俺教えんの下手だからさ、土方さんに教わってくれよ。小姓だろ?」
「えっ、土方さんに? なんか不安....」
不安というのは着付けではない、土方のあの怒気に晒されるのが不安なのだ。
「まあ、大丈夫だろ」
そう軽く言うと、藤堂はさっさと部屋を出ていってしまった。しかたなく、かなたは着物一式を抱え、土方の部屋を訪ねることにした。
ーーーー
「土方さんおられますか?」
「...入れ」
部屋の奥から、低くぶっきらぼうな声が返ってくる。
「.....失礼します」
かなたは恐る恐る襖を開け、部屋の中へと足を踏み入れた。江戸時代の作法はよく分からないが、土方を刺激しないように気をつけて座る。
「....なんだ」
土方はあからさまに不機嫌だった。その圧に負けそうになりながら、かなたは口を開く。
「あの、平助くんに着物と袴をお借りしたんですが、着方が分からなくて...」
あははは、とかなたの視線は土方の怒気を避けて宙を泳いだ。
「着方がわかんねぇって、本当に日本人かよ」
「れ、れっきとした日本人ですよぉ!未来じゃ着物を着る人は少ないんです!」
心の根を否定されたような気がして、ついムキになってしまう。
「ッチ、しょうがねぇな。じゃあサラシ巻いて襦袢を着ろ。これくらいなら分かるだろ」
そういうと土方は立ち上がり後ろを向く。当たり前だが、かなたの肌を見る気はないらしい。
少しの沈黙の後、かなたはSNSでチラッと見た着付けの記憶を頼りに、襦袢を着てみる。確か右前....左の襟を上にするのだ。ややこしい。
(肌着はそのままでいいか...)
そうして、襦袢を着終えると土方の方を向き声をかける。
「これであってますか?」
かなたの声に、土方は少し躊躇うようにこちらを振り返った。
「まあ....いいだろ」
何かが違うのか。教えてくれてもいいのに。
土方は襦袢の上からかなたに着物を羽織らせ、着付けを簡単に説明しながら手際よく整えていく。
「ちとでかいが.....問題は無ぇだろ」
そして、着物の裾をたくし上げ帯に挟むと、袴を履かせ紐を締めた。
「...出来たぞ」
「わぁー凄いですね!ありがとうございます!」
男物の着付けとはいえ、和服を着る機会なんてめったにない。かなたはテンションが上がり、ぐるぐるとその場でまわってしまう。
「今度、誰かと一緒に自分の丈に合うものでも買ってこい。一人で出かけるなよ。俺は信用して無ぇからな」
「はーい」
つい、にこにことしながら簡単に返してしまう。だが、土方の機嫌ばかり伺っていても疲れるので、少しくらいはいいだろう。
「そういえば私は一応小姓なので、土方さんのお手伝いをすればいいんですか?」
「そんなもんしなくていい。お前に触られると面倒だ」
さすがに、信用できない者に色々と触られたくはないのだな。だが、かなたとて何もせずに居座るのは気が引ける。
「じゃあせめて、掃除とか洗濯とかご飯の支度とか、手伝ってもいいですか?」
その言葉に、土方は小さくため息をもらした。
「....わかったよ。勝手にしろ」
「ありがとうございます!」
「ところで今朝は簡単に顔合わせしたが、他にも紹介しなきゃならん奴がいる」
「あぁ、芹沢さん達ですね」
その名を出した瞬間、土方が眉をぴくりと動かす。
「知ってんなら話は早え。さっさと済ませるぞ」
江戸時代の男性の平均身長は約155cm〜158cmと言われているのですが、新選組隊士は平均よりも高かったと言われているみたいです。




