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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第五章〜暦の彩り〜

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人形

前回に繋がるかなたの過去話です。

 かなたが小学2年生の時だった。

 当時住んでいた家の近所に、小さな公園があった。ブランコと滑り台だけの、夕方になると誰もいなくなるような寂しい場所だ。


 その公園の隅に、お世話人形が捨てられていた。赤ちゃんくらいの大きさで、ビニールの肌に綿の詰まった身体。目を閉じるとまぶたが下りる、当時はよくあるタイプの人形だった。


 だけど、その人形には首がなかった。


 頭の部分だけが、ごっそりなくなっていて、布と綿のちぎれた跡がむき出しになっていた。服は泥まみれで、裸足。誰かが引きちぎったような跡だった。


 怖いというより、なんとなく"見てはいけないもの"という気がした。でも通るたび、なぜか目がそちらに向いてしまう。気味が悪いのに、気になって仕方がなかった。


 その人形は、ある日突然、姿を消した。気づけば、首のない胴体も、周りに落ちていたはずの破片も、全部なくなっていた。誰かが捨てたのだろうと、そう思っていた。


 それから数日後。


 夕暮れの公園を通りかかったかなたの背後で、何かがぼとっと落ちた音がした。振り返ると、誰もいない。なのに、妙に肩が重かった。


 次の日、近所に住む友人の家に行ったときのこと。話の途中で友人が言った。


「......かなたちゃん、肩になんかついてるよ」


「え?」


「赤ちゃんの、頭みたいなやつ。ぐにゃってしてる」


 その友人はいわゆる、"見える"体質だった。でも自分では何も感じない。触っても、何もなかった。けれどあの日から、重さだけはずっと残っていた。


 友人の母は友人と同じように"見える"体質で、事情を聞いた母親はかなたの両親に説明し、お祓いを進めてくれた。


 お祓いに行ったその日から、かなたの肩は軽くなった。神主の話では、あの人形はとても強い念を持ったものだったらしい。完全に祓うことはできなかったが、かなたからは遠ざけることができたのだという。


 かなたの記憶には、人形のことは薄らとしか残っていない。だけど、高校生になった頃に、仲の良かった女の子の事をふと思い出した。その子はいつもボロボロの服で公園に来ていた。毎日、たくさん公園で遊んだ。けれどその子はいつしか公園には来なくなった。


 後から聞いた母の話では、その子は両親からひどい虐待を受けて、亡くなってしまったそうだ。その子の存在を忘れていたことに、少しだけ切なくなった。


 あの子は今、どこにいるんだろうか。もしかしたら、いまもどこかで誰かの肩にぶら下がっているのかもしれない。

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