シフト制
慶応元年四月
春の陽気も抜け、少し暑さを感じ始めた頃。
かなたは数日に一度の恒例となった、隊士たちの相談内容を山南に聞くため、監察方の執務室を訪れていた。
「山南さん、最近の調子はいかがですか?」
「そうですね....法度が緩くなったものの、疲れから辞めたいと言う声はまだ多いですね」
不眠不休が当たり前の新選組では、心身の疲弊も当然だった。そもそも、江戸時代の休みは現代よりずっと少ない。それに、新選組内で休みと呼べるものは曖昧で、人によって捉え方も違っていた。
このままでは、隊士たちの不満が募るばかりだ。かなたは少し考え込んでから、ぽつりと呟いた。
「.....シフト制、導入するか」
「しふと制?」
初めて聞く言葉に、山南は首を傾げる。
「はい。いわゆる当番制です。今も見回りの交代はありますが、それ以外の業務は曖昧ですよね。はっきりと『休み』を定義して、制度として設けたほうが良いと思います」
「そうですね。確かに今のままでは、隊を辞める者が多くなるばかりです。早速、近藤さんと土方君を交えて話をしましょう」
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「なるほど、明確な休みか....」
そういって、近藤は興味深そうに頷いた。彼は、かなたの提案にいつも前向きでいてくれるのでありがたい。
問題は、隣で腕を組んでいる土方だった。
「休みを与えたら気が緩むだけだろ」
未来だったら、ハラスメントなどと呼ばれて炎上しそうな土方のその言葉に、かなたは人差し指を立てる。
「土方さん、"休養は英気を養う"ですよ!人間、ずっと走りっぱなしじゃ息切れするものです。たまには立ち止まるから、また全力で走れるんです!」
「....まあ、一理ある」
どうやら彼のこのお堅い性格は、自分が少しずつほぐしていくしかないみたいだ。
かなたはそんなことを考えつつも、両手で膝を叩いて威勢よく声を張った。
「なので、見回り以外のお仕事も交代制にすることを提案します!」
「それなら、武士などのお役人と同じようになりますね」
山南の建設的な補足に、かなたは頷く。
「はい!新選組のように、武士の志を重んじる組織には最適だと思います!それで、交代制となると三交代くらい必要なので、隊士の数も増やす必要があるんですけど...」
かなたは少し躊躇いながらも、近藤を見やる。
近藤は、かなたの目線に気づくとにこっと歯を見せた。
「では、新しく隊士を募集しようか!」
その判断に、自分の顔が明るくなるのが分かる。許可を貰うと、つい別のことも上乗せしたくなってしまう。
「...あと、戦う隊士だけではなく、監察方や事務の人員も増やしたいです」
「それは良い案ですね。記録管理を専門にする人がいれば、私の負担も軽くなります」
かなたの言葉に山南もまた、顔を輝かせた。前回の局中法度の改正で、山南の仕事は山ほど増えたので、せめてもの提案をして良かった。
上手く話がまとまってきたが、一つ懸念がある。
「でも、できるだけ信用できる人間がいいですよね。それに、組長が休みの時の代理も立てないと...」
そうやって顔をしかめるかなたに、土方は少し考えたあと、顔をこちらへ向けた。
「そうだな。そこは目見で見極めるとして、文官や裏方要員も含めて募集をかけよう。代理は、伍長を副組長として立てるのはどうだ?」
「いいですね!では、各組の組長には信頼できる人を決めてもらって、最後に土方さんに確認してもらうようにしましょう」
「そうだな。悪いが山南さん、監察方にも意見を貰いてぇんだ」
土方はそういって、山南を見やった。
「わかりました」
山南はにこりと笑うと、筆を取り議事録を書き始める。
「では早速、目見の準備からはじめましょうか!」
かなたのその一言で、三人は交代制の導入に向けて動き出した。隊士の募集、体制整備、そして彼らを労う工夫。
少しずつだが、風向きが変わり始めていた。




