局中法度改正案
投稿についての活動報告を上げましたのでご査収ください!
元治元年十二月
池田屋事件以降、段々と隊士の数が増えてきた新選組は八木邸や前川邸、南部邸だけでは手狭になり、年明けに西本願寺への引越しが決まった。
そんな中、そろそろ隊内のことを本格的に変えようと思案していたかなたが、局中法度に疑問を抱き、ひとつ声を上げる。
「土方さん、近藤さん、山南さん。局中法度の改正を提言します!」
「あ? なんだそれは」
突然のかなたの申し出に、土方が顔をしかめた。
「だって、この『隊を脱するを許さず』っていうの、厳しすぎませんか?」
「うっ.......」
三人の顔がわずかに曇る。どうやら図星のようだ。
「そもそもこれは芹沢さんと新見さん、近藤さんの御三方が考案したものですよね?」
そう言ってかなたは法度が書かれた紙を片手に、近藤へと視線を向ける。
「ああ、芹沢さんと新見さんには、ほとんど口出しできなかったからな...実質、あの二人が考えたものだ」
近藤は、少し気まずそうに頭をかく。彼のこの性格を考えれば、仕方の無いことなのだが、もう少し頑張って欲しかったのが本音だ。
かなたは法度の紙を畳に広げると、ある一つの項目を指差した。
「それに、仕事を辞める時に切腹というのは良くないと思います」
その瞬間、土方の眉がぴくりと動く。
「でも、それがあるからこそ、隊の規律が守られていた部分はあるぞ」
もちろん彼の言う通りではあるのだが、こんなことをしていては新選組の未来はいつまでたっても良くはならない。
「切腹そのものを無くす必要はないと思います。なので、罪の重さによって罰を段階的にするのはどうでしょう?」
「段階的、というと?」
かなたのその言葉に、山南が静かに問いかけた。
「減給、免職、降格、切腹。に、したらいいかと思います」
「それは、どういう意味だ?」
それを聞いて、近藤は訳が分からず首を傾げる。
すると、かなたは紙にすらすらと説明を書き出した。
「減給はお給金を減らすということです。免職は隊を辞めさせること。降格は、今の役職を解くことです」
「なるほど...」
神妙な顔の三人に、かなたは言葉を続ける。
「あと、"隊を脱するを許さず"はやめて、"無断脱走を禁ず"に変えましょう。つまり、きちんと申し出たうえで辞めるのは罪を問いません」
現代でも何も言わずに辞める、所謂"飛ぶ"ことは体裁が悪いが、江戸時代でも同じことだろう。まあ今時は例外で、退職代行というものがあるのだが。
「しかし、それでは辞める者が多くなるのではないか?」
近藤の言うことはもっともだ。新選組の厳しさと、それゆえに脱走者が出る現実は、誰もが痛いほど知っている。
「待ってました!」と、言わんばかりにかなたは山南へ顔を向けた。
「そこは山南さんに、説得していただきたいんです」
「私に、ですか?」
山南は思わず、きょとんと目を瞬かせる。
「はい。私は、少しずつでも新選組をより良く変えていきたいと思っています。だから、それまでの間、もう少しだけ待っていただきたいんです。...でも、もしこれでも耐えきれず辞める人がいるなら、それはそこまでの人間だったということです。京の治安を良くしたいという覚悟があれば、どんな困難でも乗り越えられるはずです!」
かなたは勢いよく膝を立ち上げ、拳を突き出す。こんな格好をしてしまうほど、改善への熱量が大きいのだ。
「なるほどな....。まあ、甲斐性なしが居たところで邪魔になるだけだからな」
その言葉とは対照的に、土方は少し視線を落とす。
"鬼副長"と呼ばれる彼は、その名の通り厳格で真面目だ。だが同時に、仲間を思う情も人一倍強い。口には出さずとも、人が減っていくことにどこか寂しさを感じているのかもしれない。
「切腹が必要なのは、人殺しや極端な盗みといった重罪な場合だけにしましょう。ただ、そういう時はこちらで対処せず、役人に突き出してもいいかもしれませんね」
「それだと、こちらの負担も減りますね」
かなたの言葉に山南が静かに頷くと、部屋の空気がわずかに和らいだ。しかし、そこで話が終わりではない。
かなたは一度息を吸い、三人の顔を順に見つめる。
「......もちろん、武士の切腹が名誉あるものだということは分かっています。けれど、一度失敗したら終わり、ということではありませんよね? 誰だって、人生で一度は失敗することはあります。死んでしまったらそこで終わるけれど、生きていたら、変われる機会があるんです」
そんなかなたの寂しげで真剣な目を見て、近藤は少し黙り込んだあと、ふっと息を吐いた。
「.......そうだな。確かに、死んでしまえば全ては終わりだ」
土方は自分の手のひらを見つめながら、小さく呟く。
「生きていれば、変われる機会がある......か」
「......そうですね。失敗は恥ではない。どう立ち直るかが、我々の試練ですね」
そういって、山南はそっと優しく微笑んだ。
「はい。私は、更正しようとしている人の意欲を奪いたくはないです」
かなたの真っ直ぐとした瞳に、三人は決意したように目を合わせ頷いた。
そこで、近藤が「そういえば」と、かなたに疑問を投げかけた。
「隊内に潜んでいる間者などはどうする? さすがに、裏切り者の粛清は必要じゃないか?」
「では、そういう場合は投獄にしましょう。何か情報を聞き出せる場合もありますので!」
「確かに、その案だと新選組としての功績も残せるし、隊としても長くやっていけそうだな....」
「ええ、そうですね」
新たな提案に、土方と山南も納得したように首を縦に振る。
「ありがとうございます!改正して何か問題が出たらその都度、調整していきましょう!」
そうして、さっそく翌日に局中法度改正の通達がなされることになった。
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一、士道に背きまじきこと
一、局ヲ無断デ 脱走スルコトヲ不許
一、勝手ニ金策致不可
一、勝手ニ訴訟取扱不可
一、私ノ闘争ヲ不許
右ニ相背キ候者ニ対シ、左記ノ如キ 刑罰ヲ申付候。
一、給金相減可申事
一、職罷免可申事
一、役儀引下可申事
一、牢ニ相留可申事
一、切腹可申事
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それから数日の間、かなたは法度の改正によって隊内でなにか異変が起きていないか気を配っていた。
そしてある日、中庭から騒がしい声が聞こえてきたので急いで向かうと、なんと隊士同士が刀を抜いて睨み合っていたのだ。
「おいお前、今ぶつかって来ただろ!謝れ!」
「ふざけんな!そっちが謝れよ!」
数人の隊士たちがそれを取り囲んで、煽る者もいれば黙って見ている者もいる。
これはよくない。そう思って、かなたはすぐさま側へ近寄る。
「あの、私闘は禁止ですよ!」
注意をすると、傍観者の一人がこちらを見やり、声を上げた。
「切腹が無くなったんだから、いいじゃねぇか」
(ああ、何か勘違いをしてるな......)
かなたがどうしようかと眉をひそめたその時、後ろから突然低い声が飛んだ。
「おい、てめぇら。いいかげんしろ」
振り返ると、そこには険しい顔をした土方が立っていた。
「ひ、土方副長!!」
その場の空気が一変し、隊士たちは一斉に背筋を伸ばす。
「俺たちはな、死んで終わらせるより、生きて償い、次に繋げる道を選んだんだ。そこを履き違えるんじゃねぇぞ」
「あ.....す、すみませんでした」
そう言い残した土方は、背を向けて足早に去っていく。あの土方が、そんな風に思っていてくれていたなんて、考えもせず、かなたはついぽかんと、口を開けてしまう。
けれど、大事にならずに済んだのは良かった。
かなたは自分の想いが皆に伝わっていることに、ただただ嬉しくにこりと笑うと、隊士たちをなだめ、また仕事に戻るのだった。
よく局中法度は土方歳三も考案に携わったと目にしますが、実際には土方が関わっていたかは定かでは無いみたいです。




