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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第三章〜歴史が変わる瞬間〜

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番外編 君菊

番外編です。池田屋、禁門の変とかなたと土方が二人で出掛けた時の間くらいの話です。

 池田屋や蛤御門はまぐりごもんの戦いの後処理がようやく一段落ついた頃、なんとなく酒を飲みたくなったので北野にある上七軒かみしちけんに来ていた。


 酒は決して強いわけでは無いが、どうも最近飲まないとやってられない時がある。自分も歳をとったのだろうか。

 そんなことを考えながら、土方は店の座敷で独り、盃を傾けていた。


「おおきに、土方はん。待たしてもうてすんまへん」


 そう言って襖を開けたのは、上七軒の舞妓・君菊きみぎくだった。


「おう。先に始めてるぜ」


 君菊は土方の隣に腰を下ろし、静かに酌をする。


「で、最近はどうだ? 何かあったか?」


「そうやなぁ。この前のことがあってから、尊攘派の人はだいぶ減った気ぃします。せやけど、まだちょっとは残っとるわ。あないなことしたんに、ほんま強情な奴らやわ」


 君菊がいう、『あんなこと』というのは、尊攘派が京の町に火を放った件だろう。


 君菊は尊攘派を憎んでいるらしい。両親を尊攘派の争いに巻き込まれて亡くしたと、出会ったばかりの頃に話してくれたのだ。

 その話を聞いて以来、土方は彼女を情報源にできると考え、馴染みの客として君菊の元へ通うようになった。もちろん、彼女もそのことを承知している。


「せやけど.....土方はん、ひさしぶりにお顔見たけど、なんや雰囲気が変わらはったなぁ」


「なんだ、別人と入れ替わったとでも思っているのか?」


 土方が意地悪げにニヤリと笑うと、君菊は拗ねたように頬を膨らませた。


「そないな意味とちゃいます。なんていうか...前よりも凛々しなって、芯の通ったお人に見えはるんやわ」


『芯のある人間』


 その言葉を聞いて、土方は一人の女を思い出す。

 いつの間にか頬が緩んでいる土方に、君菊は目をぱちくりとさせた。


「なんか、いい事でもあったんどすか?」


「いや...最近、といってももう一年くらいになるが、とある奴と出会ってな。そいつは、危なかっしくてな。考えよりも先に、体が動いちまう奴なんだ。かと思えば、急にしおらしくなったり。弱い所もあるが妙に心が強い。とにかく、変な奴なんだ。変わったのは...そいつの所為かもな」


 そんな優しげに笑う土方を、君菊は初めて目にした。もしや、彼の心は既にその方に奪われているのではないだろうか。

 そんな風に思ってしまうほどだった。


「女のひと、どすか?」


 そんな顔に、君菊は少しワクワクしながら聞いてみる。

 すると、土方は少し間を置いて答えた。


「......まぁ、そうだな」


 土方は盃に口をつけると、格子の外を見やる。

 先日、大変なことがあったばかりだと言うのに、花街は相も変わらず、たくさんの人で賑わっている。


「そいつは、真っ直ぐとした目で俺のことを見るんだ。嫌になるほど実直とした目だ。けどなぜか、その目に射抜かれると、どうしても逸らせねぇ。吸い込まれそうな......そんな目をしてやがる」


 言葉を続ける土方に、君菊はまるで自分がそう想われているかのように胸が高鳴ってしまう。まるで、友人の恋愛ごとを聞いているみたいだ。


「土方はんにも、そないな風に想える人がいはるんやねぇ」


「あ? 何言ってんだ。俺はあいつのことを、これっぽっちもいい女だなんて、思ってねぇよ」


 それはどうだろうか。心の中でそうつぶやきながら、君菊はにっこりと笑みを浮かべた。


 それにしても、どんなおひとなのか。土方は花街にくれば、女たちがこぞって袖を引く。けれど、彼がその女たちに目を向けることはない。そんな土方の心を揺らすなんて、きっと並の人ではあるまい。


 いつか会えるといいな。


 そんなことを思いながら、君菊はまた盃に酒を注いだ。

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