裏参謀 中村かなた
池田屋事件から数日後。尊攘派の残党を捕らえるため、新選組は連日出動し、町中のあちこちで捕物が行われていた。
そしてようやく落ち着いてきた頃、かなたはいつもの如く近藤たちに部屋へと呼びだされていた。
「中村君、今回の件で君の未来人は証明された!晴れて、自由の身だ!」
「わーい!」
近藤のその言葉に、沖田とかなたは「万歳!」と手を上げて喜ぶ。
「僕は信じてましたけどね〜」
沖田は得意げに言うと、ちらりと土方の方を見た
「こっち見んじゃねぇ」
土方はじろりと睨んだが、どこか拗ねたようにも見える。彼なりに、かなたを信頼しつつあるのだろう。疑ってばかりいたわけでは、きっとない。.......多分。
「あなたを、ぜひ新選組の参謀のような立場に置きたいのですが....他の隊士の目もあるので、ひとまずはこのまま土方くんの小姓ということでもよろしいですか?」
申し訳なさそうに笑う山南に、かなたはすぐさま頷いた。
「はい!大丈夫です!」
池田屋事件の後、新選組は一躍有名となり、日に日に入隊希望が増えてきた。いち、小姓のかなたがいきなり参謀になるなど他は許さないだろう。内部の目が気になるのも無理はない。
「すまないね...」
近藤が眉を下げながら謝る。そんなに気にしなくていいのに。
「いえ!それより、次に備えましょう!」
かなたが明るく言うと、土方の眉間にうっすら皺が寄る。
「次があるのか?」
「そうですね。とりあえず、池田屋の件ありますし、あちら側が殺気立ってるのは確かです。でも、私があんまり口出しするのは皆さんにとっても良くないので....また何か問題があれば助言、という形で!」
「そうだな...皆、気を引き締めて行こう!」
近藤の号令に、その場の皆が気合いを入れ直した。
そうして翌月の七月、京都御所に長州の尊攘派が攻め入る、『禁門の変(蛤御門の変)』が起きるのであった。
新選組は、これにおいて長州藩士およそ三十名を迎え撃つ鉄砲戦を展開し、これを撃退。その後、京の市街地における掃蕩戦でも顕著な戦果をあげた。
だが、尊攘派の最後のあがきとして放たれた火が、京の町を容赦なく包み込み、焼き尽くした。




