表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第二章〜初めの改革と決意〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/78

江戸時代の文字

番外編のような、日常のお話です。

 文久三年十月



 季節は秋。京の景色も紅く染まり、気温も寒むくなってきた。

 あれからかなたは少しずつ、いつもの元気を取り戻しつつある。


「おい、かなた。今日からこの仕事も手伝え」


 そういって土方が渡してきたのは書類仕事だった。どうやらあの一件からほんのわずかだが、かなたのことを認めようとしてくれているらしい。


「まだ、お前のことは信用してねぇからな。簡単な仕事だけだ」


 まあ、そうだと思ったが。


「お気遣い頂き、ありがとうございます」


 アルバイト仕込みの作り笑いをしながら、渡された紙を見る。そこには、ミミズのような文字が沢山書かれている。


「あの、土方さん? これはなんて書かれているんですか?」


「あ? お前、文字の読み書きが出来ねえのか?」


 いや、出来るのはできる。というより現代人なら大抵、読み書きは出来るだろう。けれど江戸時代の文字、いわゆる"くずし字"は、さすがに勉強していなければ、お手上げだ。


「いや、このような字はちょっと書けません。普通のやつなら書けます」


「普通のやつってなんだよ。これも普通だろ」


 土方の突っ込みにかなたは、何も言い返せない。でもこの時代で生きていくなら、避けては通れない壁もある。


「じゃあ、この文字の読み書き教えてください!」


「...は?」


 勢いよく詰め寄るかなたに、土方は眉をひそめた。


「俺は忙しいんだ。山南さんにでも教えて貰え」


 それだけ言い捨てて、土方は足早に去っていった。仕事を任せたのに、なんとも無責任である。


 仕方なく、かなたは書類を抱えたまま、山南の姿を探して歩き出した。





 ーーーー





「あ、山南さん」


 かなたは廊下を歩いていた山南の姿を見つけて、小走りに駆け寄る。


「おや、かなたさん。こんにちは」


 山南の手には筆と薄い帳面が握られており、どうやら先程まで何かの記録をしていたようだ。


「こんにちは。何されてるんです?」


 かなたは書類を抱えたまま、少し首をかしげる。


「隊士たちの当番表を直していたところです。風邪をひいた者が出たので、少し入れ替えが必要になりましてね」


 そう言って山南は帳面を軽く掲げた。丁寧に並んだ文字が見えて、かなたは相談をもちかける。


「あの...実は、土方さんに書類を渡されて......でも、字が全然読めなくて」


 かなたは困ったように笑いながら、抱えていた紙束を胸の前にずらして見せる。表紙に書かれた文字は、どれもくにゃくにゃと曲がっていて、まるで暗号のようだ。


「ふふ、土方君らしいですね。信用はしていないと言いつつ、ちゃんと役目を与えているんですから」


「そ、そうなんですか?」


「ええ。彼なりのやり方なんですよ。任せられる範囲で少しずつ........ですね」


 山南は納得したように頷き、かなたの手から一部の紙を受け取ると、目を通し始めた。


「これは、今月分の米の受け取り帳ですね。物資が届いた日付や量、それから保管場所などが簡単に書かれています」


「な、なるほど」


「記録の形式は決まっていて、慣れれば読むのはそう難しくありません。例えばここには、"二升"と書かれています」


「へぇ.....」


「"二"はともかく、"升"のくずしは特徴的ですからね。....こういう字は、何度も目にすると自然と読めるようになりますよ。特にかなたさんは、私が見る限り物覚えが良さそうですし」


「そ、そうですかね....」


「えぇ、頭の回転も早いので、すぐに覚えられますよ」


 褒められて照れくさいが、それ以上にやる気が湧いてくる。この人は、その気にさせるのが上手い。


「が、がんばります!」


「ふふ。では、まずは"日付"の見方から始めましょうか」


 山南は部屋へ入ると筆を手に取り、かなたと共に机の前に座る。書類仕事というより、まるで寺子屋の一場面のようだ。


 そうしてかなたは、くずし字の世界に、少しずつ足を踏み入れていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史 / タイムスリップ / 新選組 / 幕末 / 恋愛 / 土方歳三 / 女主人公 / コメディ / シリアス / すれ違い / 幕府 / 和風 / 江戸時代
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ