猫とゆく旅人
邏卒への稽古や引き継ぎも終わり、それぞれが新しい門出に進む頃、静かになった屯所の前で、かなたはひとりぽつんと突っ立っていた。
その後ろから足音が聞こえ、振り返ると、これから長旅だと言わんばかりの格好をした鈴木が姿を現した。
もちろん肩には、お馴染みのミケ子が乗っている。
「よお」
「もう行くんですね」
「ああ」
返事をしながら草履の紐を結ぶ鈴木を横目に、かなたは小さく息をついた。
「最初はどこに行くんですか?」
「まだ決めてねえけど、とりあえず大坂に寄って、西か東か……だな」
「なるほど……」
鈴木は草履の紐を結び終わると立ち上がり、かなたの頭に手を置いた。
「お前のお陰で人生が変わった。次は俺も誰かの人生を変えてみっかな」
「鈴木さん……」
思いがけない言葉に、かなたはぐっと涙を堪える。
「だからお前も泣いてないで、そろそろ大人になれよ」
「うわっ」
そう言って鈴木は、髪をぐしゃぐしゃと無造作に撫で回した。
「じゃあな」
「にゃっ」
あまりにも簡素な別れに、かなたは目を丸くする。
しかし、すぐにその後ろ姿へ向かって声を掛けた。
「お元気でー!」
三毛猫を連れた旅人。
きっとそんなふうに呼ばれながら、あちこちを練り歩くのだろうな。
そんな空想を抱きながら、かなたは鈴木とミケ子の姿が見えなくなるまで、その背中を見送っていた。




